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Z世代のメンタルヘルスに異変、最も幸福を感じない世代に ソーシャルメディアの影響も

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Z世代のメンタルヘルスに異変

 

従来、人生の幸福度は「U字カーブ」を描くものとされてきたが、最新の研究では若年層の幸福度が大きく低下していることが判明。長年の定説が覆されつつある。

幸福度のU字カーブ

人生における幸福度は子どものころから徐々にU字カーブを描いて推移し、40代から50歳前後で最低値になったのち、再び上昇するとされている。 

 

中年が幸福度を感じられないのは、この年齢になるとティーンエージャーの子育てや両親の世話、仕事などでさまざまなことが重なり自分の思うような生活が送れない、ストレスの多い状況を迎えることが多いからだとされている。

 

その後、子どもが独り立ちし、仕事でも要職に就くなどして落ち着きが得られると徐々に自分のやりたいことができるようになり、幸福度がアップするというもの。 

 

このU字カーブには別の定説もあり、30歳をピークに50歳が底辺という見方も。

 

いずれにせよ、50歳前後がボトムとなり、いわゆるミッドライフ・クライシス(中年の危機)というのは実在することは確実にわかっている。

幸福度が低い若者が増加

幸福度が低い若者が増加

 

ところが、ダートマス大学のデビット・ブランチフラワー教授らの最新の調査では、18歳から25歳の若者層で幸福度の低下が顕著に見られ、40代や50代の中年層よりも「不幸せだ」と感じている傾向が明らかになった。

 

当初この傾向はアメリカ特有の傾向ではないかと見られていたものの、イギリスやオーストラリア、ニュージーランドのデータでも裏付けられ、世界各国で同様の傾向が見られることがわかり教授らも衝撃を受けていると語っている。

 

 同調査では、アメリカの疾病予防管理センターの行動因子要因サーベイランスシステムのデータを分析し、特に30日間以上の「ストレス、うつ、情緒面の問題」を経験した、と回答した参加者にフォーカス。

 

自殺や絶望死の恐れなどがある極端な例については、集中的に対処する必要があるとしている。

 

教授らの調査では、2023年の時点で既に「今年メンタルへスルの状態が悪い日が最頻発した」と回答した18歳から25歳の若者の数の増加率が過去最大に達し、特に若い女性に心配な傾向が見られるとのこと。

 

教授の見積もりでは11%の若い女性が絶望しているという衝撃の数字もある。

 

 同教授は、この傾向の直接的な原因は特定できないとしながらも、少なくともこの傾向はパンデミック以前から見られ、コロナ禍の影響ではないとしている。

 

また同時に、一つの要因として考えられるのはスマートフォンとソーシャルメディアの普及で、幸福度の低下が見られた2014年頃と年が合致している。

 

明確にならない不幸の原因

明確にならない不幸の原因

 

幸福度の曲線が変化していることに関して、臨床心理士のアンバー・ウィムサット・チャイルズ氏は「ここ20~30年に増え続けている戦争やそれに伴う人道危機が増えていることも一因」だと独自の理論を唱えている。

 

高校や大学の卒業スピーチを考察し、「状況を変えるためには世界が学生の創造性や革新性をこれまでにないほど求めている」というテーマである傾向が高まっていることを指摘、若者に向けられる高度な創造性やイノベーションへのプレッシャーも考えられる。

 

 ただしウィムサット・チャイルズ氏も、ソーシャルメディアが一因であるとするブランチフラワー教授に同意している。

 

既存の懸念事項をソーシャルメディアがさまざまな方法で増幅させ、いわば「大画面で映し出している」ようなものだと指摘。

 

SnapchatやInstagram、TikTokといったソーシャルメディアのアプリは情報を氾濫させ、若者に限らずあらゆる人々が、大規模な「他人との比較」をすることにつながっている可能性があるとしている。

 

 ブランチフラワー教授もまた、人々は常に自分と他人を比較してきたが、これまではもっと身近な「近所のコミュニティ」といった限定的な人たちとの比較であった。

 

今ではその比較対象規模が大幅に拡大しているという点を指摘している。

別の幸福度レポートでも同様の指摘

別の幸福度レポートでも同様の指摘

 

若者に関する幸福度のレポートは別の報告書もある。

 

国連のレポート「World Happiness Report 2024」では、若者の幸福度が南北アメリカ、ヨーロッパ、南アジア、中東、北アフリカで2006年から減少傾向にあるとしており、主な要因として次の3つを挙げている。

経済的問題

このところの急激な物価上昇に直面している若者たちは、住宅価格、教育費、医療費の上昇によって不安が募り、ウェルビーイングに悪影響を与えている。 

 

これは、学費のローンを抱え、就職しても給与はそこそこ、人生の節目となる住宅の購入や結婚が後ろ倒しになり、人生における成功や安定といった感情を得ることができていないため。

 

これは西側諸国に限った問題ではなく、ブラジルやインドなどの発展途上国でも同様で、特に住宅費用の上昇は重大な懸念事項であることが世界銀行のレポートからもわかっている。 

 

また、ギグエコノミーや不安定雇用が従来型の働き方と比較して自由や専門性を発揮できる一方で安定性や福利厚生などの生活する上でのベネフィットが少ないというマイナス面がある。

 

不安定な雇用では、当然ローンの申し込みも難しく、将来への不安が増すばかりだ。

 

国際労働機関の2023年のレポートでも、先進国での若者の失業率は引き続き高いままで、開発途上国における状況はより深刻とされている。

社会的、技術的プレッシャー

ソーシャルメディアには、社会的なつながりを生み出す機能がある一方で、満たされない気持ちと社会的比較を加速させる一面がある。

 

 2022年の調査では、ソーシャルメディアの利用増加と、若者のうつ病症状や孤独感との関係性が指摘されており、これはグローバルな傾向でもあることがわかっている。

 

ネット上のつながりはあるものの、実際に他人と行動を共にするレジャーの時間や場所の移動が減り「人と人とのつながり」は減少、これによる不安が増強しているという点も指摘されている。

 

コミュニティからの断絶は、幸福度にマイナスの影響を与えている。

その他の不安定要素

その他の不安定要素

 

気候変動も実は若者の幸福度に影響を与えている。

 

将来、この気候変動が続く状況で生きていく若者世代にとって、気候変動のじわじわとした恐怖や迫りつつある危機に対して「なすすべがないのでは?」といった絶望的な気持ちにさせる情報などが、メンタルにダメージを与えているというもの。 

 

政治的不安もまた、紛争地域や周辺諸国の若者に、大きな不安を与えている。

 

ユニセフの2023年のレポートでは、紛争地域周辺のシリアやイエメンでの若者の不安やうつのレベルが特に高いことがわかっている。

若者自身へ、そして企業や社会への提唱

若者自身へ、そして企業や社会への提唱

 

こうした問題点を踏まえ、前述ウィムサット・チャイルズ氏は、より多くの幸福を感じてもらうため次のように若者へ提唱している。

 

 まずは自身の価値観を定め、それに沿った行動をとること。

 

自分の価値観に沿った行動をとることで幸福感が得られるからだ。

 

そしてマイナスとなる他人との比較を認識して避け、プラスの比較を心掛けること。

 

またストレスを軽減することに注力すること。また同時に、周囲の両親や近しい人たちがこの若者世代が直面する悩みやストレス、メンタルヘルスの問題について理解し、受け入れ、サポートを提供できるようにすることが必要と提案している。

 

 世界経済フォーラムではより大規模に、世界的なメンタルヘルスのサポートを優先させることと、実世界での社会的つながりや帰属感を感じられるようにすること、ソーシャルメディアのプラットフォームによる再構築、未来のための教育を支持し、ファイナンシャル・リテラシーの向上や責任ある安全なソーシャルメディアの使用の教示をすることとを提案している。 

 

ソーシャルメディアの普及によるメンタルヘルスへの影響は、これまでも様々な形で論議されている。

 

ただしこれが、若者の幸福度の低下の原因であるとはどの専門家も断言できていない。

 

 ブランチフラワー教授も、これは世界的な問題であると警鐘を鳴らしつつ、『若者の幸福度の低下を「測定」する段階はもう過ぎている。

 

何が効果的なのか、試験的にでも始める必要があり、解決策を見出すべきだ』としている。 

 

さらに世界経済フォーラムは、「若者の幸福度の低下という悲しむべき現実に直面し、世界は岐路に立たされている」と現状を位置付けている。

 

今回発表されたレポートは、将来の世代のウェルビーイングを育むという我々の連帯責任へのリマインダーであり、将来の労働力である現在の若者の問題に社会や企業が今すぐ取り組むことによって、より明るい未来が開けると呼びかけている。

 

 若者の幸福度の低下を他人事ととらえずに、社会全体で改善していくことは全世界での喫緊の課題であることは確かだ。

 

文:伊勢本ゆかり /編集:岡徳之(Livit)

 

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