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教授に逆らいそうな学生をはじくフィルター…和田秀樹「精神医療崩壊を招いた"医学部入試面接"の裏側」

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プレジデントオンライン

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

 

日本の精神医療における課題は何か。精神科医の和田秀樹さんは「全国の大学の精神科の教授は、薬物療法中心の人たちが大半を占めている。

 

そのため、入試面接のときに、精神科を目指す学生が『カウンセリングや精神療法を勉強して、心を病んでいる人を1人でも多く救いたいです』などと発言したら、その時点で印象ダウンとなる。

 

40年以上前から行われてきた大学医学部の入試面接の実態は、教授の気に入らない学生、教授に逆らいそうな学生をはじくフィルターである」という――。

 

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 ※本稿は、和田秀樹『「精神医療」崩壊 メンタルの不調が心療内科・精神科で良くならない理由』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

 

 ■精神科の教授はすべて薬物療法中心の医者⁉️

 

  病気になったとき、大学病院の医学部の教授に診てもらえるとなったら、「最高の治療を受けられる!」と喜ぶ人が大半でしょう。

 

  しかし、医学部の教授は、必ずしも患者さんを診療する能力が秀でているとは限りません。

 

  教授に選ばれるうえで最も重要なのは、論文の数だからです。

 

手術の腕がいいとか、病気の見立てが優れているとか、患者さんとのコミュニケーション能力が高いといったことはほとんど関係しません。

 

  とくに国公立大学の医学部の教授は、「臨床軽視、研究重視」の傾向が強いですから、教授選では研究業績、すなわち論文の数が勝負の決め手となります。

 

  いわゆる「神の腕」より「紙の腕」。

 

一方で、最も軽視されているのが心の教育です。

 

  精神科はえげつないほどそれが顕著で、医学部のある全国82の大学の精神科の主任教授がほぼすべて、薬物療法中心の医者であることはあまり知られていません。

 

  カウンセリングなどを重視した心を診る「精神療法」を行っている医者は、今の日本では大学の精神科の教授に選ばれることはまずありません。

 

  教授になってから、「精神療法をやってます」といっている人はいます。でも、精神療法を専門に勉強してきた人たちではなく、もともと薬に関する論文をたくさん書いて教授選に勝利し、教授になってから「ちょっと精神療法も勉強しました」といっている程度です。

 

  日本の医学部の精神科では、精神療法を専門とする精神科の主任教授が1人もいない状況がずっと続いているのです。

 

さらに、大学医学部の受験の際に行われている「入試面接」がその流れを加速させてしまったと私は考えています。

 

■「入試面接」こそ、精神医療崩壊の根源 

 

 日本では、全国82の大学医学部すべてで、受験の際に「入試面接」が行われています。

 

ペーパーテストに加え、1人ひとりの学生に対して面接を行っているのですが、この入試面接こそ、今の精神医療崩壊を招くことになった諸悪の根源だと、私は考えています。

 

その理由を順に説明していきましょう。

 

  大学医学部の「入試面接」は、40年以上前から行われてきました。

 

  そもそも入試面接は、当初からいわくつきのシロモノで、かつては多額の寄付金を積んだ家の子どもに加点するためのシステムとして機能していました。

 

  今でも医学部の入試面接の際、面接官から「寄付金、いくら積める?」と質問されることはあると聞いたことがあります。

 

寄付金を募ること自体は問題ありませんが、少なくとも寄付金の額で入試の合否が決まるようなことは、現在は(表向きは)禁止されています。 

 

 代わりに「勉強ばかりして、人間的に医者に向かない者を落とす」との名目で、文部科学省が強力に入試面接を推し進めるようになったのは、90年代に入ってからだと思います。 

 

 世間ではちょうど「医者はカルテばかり見て患者の顔を見ない」といわれるようになり、それは受験勉強の弊害だから、医学部の入試はペーパーテストだけでは足りない。複数の教授が学生と20~30分面接をして、医者にふさわしい人間性を備えているかどうかを判定しましょうということになったのです。

 

  私の母校である東大の理科Ⅲ類(医学部へ進学するコース。以下、医学部)でも、1999年から入試面接が行われるようになりました。

 

  しかし、入試面接で入学した学生たちは画一的な人間が多かったことから、医者としての適性は入学後に判断するという大学側の意向で、2007年にいったん廃止されました。

 

これは大英断だったと思います。

 

  ところが、2016年には国公立大学のほとんどの医学部において入試面接が必須となり、18年には東大も入試面接を復活、20年には九州大学も採用しました。

 

これによって入試面接をやらない大学医学部は私大も含めてなくなりました。

 

いったい、なぜでしょう。

 

 ■入試面接は「悪い子をはじくためのもの」

 

  ペーパーテストの点だけでなく、人間性も重視する、という考え方は悪いことではありません。

 

患者さんからすると、歓迎すべきことに思えるでしょう。

 

  しかし、「人間性や医者としての適性を判断する」というのはあくまで建前で、入試面接の実態は、教授の気に入らない学生、教授に逆らいそうな学生をはじくフィルターなのです。

 

  たとえば、2014年に東大医学部の学生有志が、同大教授らが臨床研究の不正に関わった疑惑に対して「公開質問状」を大学に提出しました。

 

大学にとっては、こうした動きをする学生は好ましくないわけです。

 

その4年後に入試面接が復活した。これは決して偶然とは思えません。

 

  東大医学部で入試面接が復活することになったとき、東大の教授がある雑誌のインタビューで次のように述べています。

 

 ----------

 

 「面接で、いい医学生を採用しよう」というのは無理であり、「医師にしてはいけない」学生を見つけるのが目的。面接は「悪い子をはじくためのもの」。

 

……(略)一番問題なのは、「人の気持ちになれない人」「人の話を聞けない人」。

 

 ---------- 

 

 この言葉に出てくる「人」とは、誰のことを指しているのか。

 

患者さんのことであってほしいと思いますが、「もしかして教授のこと?」と勘ぐってしまうのは私だけでしょうか。

 

■心を診る精神療法に興味のある学生は不合格に?

 

  入試面接は、受験生の「医者としての適性(人間性)」を見極めることが大きな目的とされています。

 

前出の教授の言葉を参考にするなら、人の気持ちがわかること、人の話を聞くことができることが、評価の重要なポイントになるのでしょう。

 

  そうしたことを判断するために、入試面接の面接官の中には、精神科の教授が含まれている大学が少なくないようです。

 

  全国の大学の精神科の教授は、繰り返し述べてきたように、薬物療法中心の人たちが大半を占めています。

 

  したがって、入試面接のときに、精神科を目指す学生が「カウンセリングや精神療法を勉強して、心を病んでいる人を1人でも多く救いたいです」などと発言したら、その時点で印象ダウンです。

 

  「そんなことしたって患者は治らないよ」 「動物実験に興味のない人間は、論文を作らないからダメ」  と面接官に思われるかもしれません。

 

それを露骨にいわれなくても、腹の中でそう考えていて、その受験生は点数が足りていても落とすことが可能なのです。

 

  これは本当におかしな話です。

 

  人の気持ちを理解したり、人の話に耳を傾けたりするには、実験動物を相手に薬の研究をするよりも、カウンセリングや精神療法の勉強をしたほうが、絶対に近道なはずです。

 

  だけど、とにかく大学では教授のいうことが絶対で、教授が「薬で治す」「カウンセリングなんか時間の無駄」といったら、それに従うしかないのです。

 

別の考えをもった人間は、入試の段階でふるい落とされてしまいかねないのです。

 

  結果、大学病院に入学する精神科医志望の人たちは、薬物療法中心の医者ばかりになり、その中から新しい教授が選ばれて、入試面接でまた薬物に否定的な学生は「悪い子」と判定して振り落とす。

 

そんな悪循環が続いているのです。

 

  われわれカウンセリングを専門とする医者なら、短い時間の面接で人の心がわかると思いません。

 

それができると思っているのが大学の精神科の教授(他の医学部教授もみんなそうですが)だということを知っておいてほしいと思います。

 

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 和田 秀樹(わだ・ひでき) 精神科医 1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

 

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精神科医 和田 秀樹

 

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