【以下ニュースソース引用】

依存性、効果、副作用など…精神科医が明かす、精神科で用いられる薬についての「意外と知られていない事実」

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現代ビジネス

photo by gettyimages

 

あなたは本当にトラウマのことを知っていますか? 

 

自然に治癒することはなく、一生強い「毒性」を放ち、心身を蝕み続けるトラウマ。 

 

【写真】「禁忌薬」も…「複雑性PTSD」で服薬する際に「知っておきたいこと」 

 

講談社現代新書の新刊・杉山登志郎『トラウマ 「こころの傷」をどう癒すか』では、発達障害と複雑性PTSDの第一人者である著者が、「心の複雑骨折」をトラウマを癒やす、安全かつ高い治療効果を持つ画期的な治療法を解説します。

 

 ※本記事は杉山登志郎『トラウマ 「こころの傷」をどう癒すか』より抜粋・編集したものです。 

 

『トラウマ 「こころの傷」をどう癒すか』第5章で説明したとおり、TSプロトコールでは、TS処方というごく低量の薬物を用いる薬物療法が行われます。通常、パルサーを用いた治療を行う前に、TS処方を行い、こころとからだの調子を整えて、フラッシュバックの発生を起きにくくします。

 

 TS処方は、一般的な精神病の治療で行われている薬物療法に比べて、たいへん少量の処方です。

前提となる事柄

精神科で用いる薬については、いろいろ知っておいてほしいことがあります。

 

まずプラス面から述べます。

 

 現在用いられている薬はすべて、薬理効果や副作用がはっきりしていて、科学的な判定を経て有効であることが示されています。

 

その薬理効果は、神経伝達の化学的な反応の部位に働き、神経伝達の効率を上げたり下げたりすることによって、病気の状態の脳の働きをもともとの正常な働きに近づける作用が確認されています。 

 

また、もともと長期間にわたって用いることが前提の薬であるため安全に作られています。

 

さらにしばしば誤解されている依存性については、不安・緊張などの症状を緩和する目的で使用される抗不安薬と呼ばれるグループの薬には確かに依存性がありますが、統合失調症やうつ病に用いられる抗精神病薬や抗うつ薬はほとんど依存性がありません。

 

依存性がある抗不安薬は、過剰投与が行われないよう徐々に使用の範囲が制限されるようになってきています。 しかしマイナス面もいろいろあります。

 

まず、これらの薬は、総じて飲み心地が良くありません。

 

より本質的な問題をあげると、治療効果は、数年単位が限界で、本当の長期的な効果は確認されていません。

 

それどころか、長期に用いた場合、必ずしも良い治療効果が得られないという、いくつもの臨床研究があります。

 

 たとえば統合失調症の長い期間で経過について国際比較をしてみると、発展途上国のほうが(つまり薬物療法をしっかり受けていない人々のほうが)長期的には良い状態が示されているという有名な事実があります(Whitaker,2010)。 

 

精神科で用いる薬は、総じて副作用は比較的少なく、安全に作られていますが、頻度としては大変に希ですが、悪性症候群という急性期の重篤で致死的な副作用が起きることもあります。

 

また、これも比較的希ですが、長期的に服用すると遅発性ジスキネジアというほぼ治療法がない、からだが捻れる副作用が起きることもあります。

 

 筆者が知る限り、長期的な働きで良い効果があるらしいことが示されている薬物はたった一つリチウムだけで、リチウムが水道水に混ざっている地域の人たちの自殺率が低いという報告が、世界のいくつかの場所から出ています(Ohgami et al., 2009他)。

 

注意してほしいのは、数百mgという双極性障害の治療に用いられている量ではなく、水道水に微量に混じっている量のリチウムということです。

 

 また発達障害に用いる薬の中には、子どもに使うのは副作用があるとしても無視できる程度として、ある年齢以上の大人に用いるのはお勧めできないという薬もあります。

 

代表は注意欠如・多動症に用いるメチルフェニデートで、中年以上の方は服用を止めていかないと、心臓や血圧などに良くないことがはっきりしています。

 

 これらの事実が示すものは何でしょう。

 

精神科で用いられる西洋薬の多くは、根本治療薬ではなくて対症療法薬、つまり熱が出たときに使う「熱冷まし」と同じであるということです。

非直線的効果

写真:現代ビジネス

 

筆者は、もともと発達障害を中心に臨床を行ってきました。

 

発達障害の基盤がある場合、子どもにしても大人にしても、通常の処方量といわれている処方を行うと、副作用ばかりが現れて、薬の効果があまり認められないということが頻繁にありました。

 

むしろ処方量を控えめにすると有効に働くことが多く、特に発達障害にともなって一緒に起きる、精神科の問題(代表はASDの青年や成人のうつ病ですが)では、普通の処方の用量の数分の1という量できちんと有効に働くことが普通なのです。 

 

筆者は当初は、薬物の副作用が強いのは、そのクライアントが薬物に過敏性がある体質だからだと考えてきました。

 

しかし子ども虐待の既往を持つ子どもと大人、つまり発達性トラウマ症や複雑性PTSDの両者とも、薬を用いているうちに、非常に敏感に薬に反応をする例が少なくないことに気付きました。

 

個々のクライアントの感受性以前に、どうも精神科で処方する薬は総じて、標準的な投与量では、副作用が強く現れるようなのです。

 

 子どもとその親の双方から、薬が強すぎるという苦情をしばしば聞くので、それに合わせて薬をどんどん少なくしていき、だんだん最初から少量での処方を行うことがむしろ一般的になっていきました。

 

 「こんなに減らして大丈夫だろうか?」。

 

最初は私自身がおっかなびっくり薬の量を減らしていったのですが、それでも多いという苦情が出るので、さらに減らすことを繰り返しているうち、徐々に一般の精神科の常識よりはるかに少ない量を用いることが増えてきました。

 

するとむしろ、そのような常識外の薬物療法で著効が認められる子どもと親が多いことに気付きびっくりしました(杉山、2019a)。

 

 なんと、標準とされる処方量よりも少量処方のほうが副作用も少なく、またより有効に働くのです。

 

先に述べたように、当初は発達障害に由来する過敏性に基づくのだろうと考えていましたが、徐々にこの現象はむしろ普遍的に認められるものなのではないかと考えるようになりました。

 

 いろいろ調べていく中で、こころに働く薬は一般的に考えられているような、直線的な効果を示すものばかりではなく、むしろ非直線的に働くものがたくさんあることにも気付きました。

 

例えば、ある種の毒物は微量で強い効果を示し、増量するとむしろ効果が減じるという不思議な効き方をします。またU字形の効き方をする(つまり極少量ですごく効き、用量を上げていくと効かなくなり、さらに用量を上げるとまた効き出す)薬もあります。

 

 現在、筆者は次のように考えています(図表6-1)。

 

こころの薬は大ざっぱな言い方をすれば毒物の一種です。

 

そのため薬を服用すると、薬の効果を減じる生体反応が起きます。

 

その反応を抑え込むと、一見直線的な効果を示すようになります。

 

一般的に、このような薬物は、この後半部分の効果を用いているわけです。

 

 しかしもうひとつの方法が実はあって、それが極少量の服用での効果を用いるというものです。

 

ごく少量であれば、薬物の効果を抑え込む生体反応がまだ発動されないので、ごく少量でも十分な治療効果が得られます。

 

 普通のうつ病や統合失調症の場合には一定の量の薬が必要なのかもしれませんが、カテゴリー診断を用いれば、その診断を満たす症状は確かにあるけれど、明らかに病態は異なっているといった発達障害やトラウマの事例の場合は、極少量でも効果がある場合が多いことに筆者は気付きました。

 

 そうして極少量処方を普通に用いるようになると、これまであまり気付いていなかった向精神薬(中枢神経系に作用して精神状態や精神機能に影響を与える薬物の総称)の副作用にも自ずから気付くようになりました。

 

例えば、気分変動が強いうえに、えらくネチネチとした言い方をするなあと思って確認をすると、案の定、抗うつ薬を相当量服用(しかも内科から処方を受けて)しているなどです。

 

 一般に精神科医療において、薬物治療の効果が不十分な時に、精神科医は薬の増量を行う、あるいは他の薬物を加えていきます。その結果、多剤、大量併用という状況が生まれるわけです。

 

 ところが、トラウマ系は、やたら薬に強いのです。

 

代表は解離性幻覚で、統合失調症であれば十分に幻覚が減る量でもびくともしません。

 

むしろ、あまりに薬に強い幻覚は、解離性かもしれないと考えてみると「ビンゴ」のことがよくあります。

 

 ちなみに、解離性幻覚もフラッシュバックの一種なので、トラウマ処理をしなくては症状は改善しません。

 

トラウマが基盤にある症例の場合には、著効が得られないときに、まず行うべきは薬剤の減量なのです。 通常量の処方を行った場合、例えば抗うつ薬の処方によって気分変動が悪化する、抗不安薬の処方によって、意識水準が下がり自殺企図が促進されるなど、副作用ばかりが目立ち、効果は不明という状況がよく生じてしまいます。 

 

さらに、長期的には向精神薬はマイナスの効果が増えてきます。

 

高用量の薬を用い続けると、その働く部位の非可逆的変化が起きてくる可能性が否定できません。

 

例えば統合失調症に用いる抗ドーパミン系の薬を高用量で長年用い続けると、抗ドーパミン薬が常時必要な脳へと変化してしまう可能性が否定できないのです。

 

こころの薬は「熱冷まし」のような対症療法薬と割り切り、なるべく高用量にならないように、ミニマムな処方を行うことがクライアントに優しい薬物療法になります。

 

 * さらに【つづき】〈攻撃的になったり気分が落ち込んだりしてしまう「禁忌薬」も…「複雑性PTSD」で服薬する際に「知っておきたいこと」〉では、TS処方についてくわしくみていきみていきます。

 

 ・ Whitaker R.(2010): Anatomy of an epidemic magic bullets, psychiatric drugs, and the astonishing rise of mental illness in America. Crown Publishers, New York.(小野善郎監訳、門脇陽子、森田由美訳(2012):『心の病気の「流行」と精神科治療薬の真実』〈福村出版〉) ・杉山登志郎(2019):『発達性トラウマ障害と複雑性 PTSD の治療』(誠信書房) 

 

・Beak J, Lee S, Cho T,et al.,(2019): Neural circuits underlying a psychotherapeutic regimen for fear disorders. Nature, 566(7744):339-343.

 

杉山 登志郎

 

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