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うつに苦しんだ経済学者と精神科医が語る「なぜ自殺したくなるのか」

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うつによって希死念慮が起きてしまうのはなぜか。

 

その理由や、うつについての現状を正しく伝える一冊が、『うつを生きる 精神科医と患者の対話』(文春新書)である。 

 

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本書はアベノミクスのブレーンで、東京大学やイエール大学での教鞭をとった経済学者の浜田宏一さんが、自身の躁うつ病の体験を中心に、精神科医の内田舞さんに語った一冊だ。

 

内田さんは浜田さんに20年以上寄り添っている主治医・マイケル・ボルマー医師にも話を聞き、対話にむきあった。

 

うつとはだれもがなりうつ病気であることをはじめ、勘違いしてしまいやすい情報についても詳しく知ることができる。

 

 本書から抜粋して紹介する第1回は、浜田さんが息子の広太郎さんを自死により亡くした時のことをお伝えした。

 

そして抜粋の2回目は、自身が希死念慮にとりつかれたことをお届けしている。

 

前編では、地下鉄に飛び込みたいという衝動にかられながらなんとか耐え、地上まで出てきたという浜田さんのエピソードをお伝えした。

 

ではどうして希死念慮が生まれるのか。内田舞さんとの対話から紐解いていく。

周りから「だめな人」と思われている気がする

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内田自殺したいと思われる気持ちについてもう少し伺いたいのですが、まずシンプルに、どうして死にたいと思われたのでしょうか。

 

いまの辛い状況を終わらせたいと思うのか、あるいはほかの人のために自分がいないほうがいいと思われたのか。 

 

浜田頭が圧迫されるような辛い思いから解放されたいという思いでした。

 

いつ死にたくなったかは実はよくわかりません。

 

徐々になんとなく人生が灰色に見えてきて、外国の大学に呼ばれて、こんなことになって自分はこれでよいのだろうかと考え出したのです。

 

 日本に残るように、先生方、研究仲間たちからも家族からも引き留められたのに、それを振り切ってアメリカに来てみたら、日本にいた頃のように研究ができなくなった。

 

当時、先生や友人たちに、浜田はイェールに行かないで東大に残って教育せよと言ってくれた人がいたのに、実際にはアメリカに渡ったので、いろんな迷惑をかけたんだと自分の責任のように思ってしまいました。 

 

普通に考えれば、どこに住んでもいろいろな社会の制約があります。

 

東大では自分が数年に一度海外に出たいと思ってもなかなかそれができない。

 

イェールに移ることで、それが実現したわけですけれど、せっかくみんなに理解してもらうように努力して説明して気を遣ってきたのが、その結果、ただ病気になったのでは、なんでアメリカにやって来たのかわからない。

 

そんなことを考え出すと講義もできなくなってきました。

 

 こちらの大学院で研究者になる人を教えなくちゃいけない。

 

研究者になるためには、学問の先端を教えなくちゃいけない、と思ったのはわたくしが日本的学者になりすぎていたのでした。

 

この点で日本人の学者はいつも観客で自分の演技ができないといった浅学の教えは的確です。

 

そうなると、同僚のリーディングリストを見て、こういうことを教えられなければならないとナンセンスにも思い込んでしまったのです。

 

「学生から笑われるのではないか」

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浜田いま考えれば、イェールのほうでは、政策問題に対するゲーム理論の適用といった皆の常識から少し外れるようなことを研究しているわたくしを見込んで、それを議論したかったはずです。

 

アメリカの大学院の教材の数式的知識や標準的知識を私が教えることは期待されてなかったのです。

 

専門にしていた国際経済におけるゲーム理論などを伸び伸びと教えていればよかったはずです。

 

普通ならそう気がつくはずが、やはりうつが影響して頭が柔軟に対応できなくなったのでしょう。

 

講義をしていると、学生のほうが自分よりもできるのではないか、学生に笑われて逃げられてしまうのではないか、という思いに苛まれたのです。 

 

これはわたくしの回復過程の話ですが、東大の宇沢弘文という世界の数理経済学者の第一人者が心配して、「彼は日本に帰ったらどうかね」と言ったら、トービンさんは「いや、イェールでも面倒見るから安心せよ」と言ったという話もあったと後になって宇沢先生から聞きました。

 

 病院の外に出ることができるようになってからは、病院の近くにイェール生協の本屋があり、そこでうつについて書かれた本を探して立ち読みしたり買ったりしていました。

 

知人に偶然出会うと、本を隠したり、あるいは知人に見つからないように隠れたりしたこともありました。

うつの時の思考回路

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内田うつ状態にあるときには、多くの人が、周囲の知らない人まで自分のことを「だめな人」という目で見ている気がするとよくおっしゃるんです。

 

自分の置かれた状況や、職業をはじめ何も知るはずのない人でさえ、それこそレストランで初めて会うような人ですら自分のことを軽蔑した目で見ている、そればかりか常に監視されている気がするという方も結構いらっしゃいます。

 

 これはつらいと思います。私たちは誰でもみんな多かれ少なかれ、他者から尊敬されたり感謝されたりすることに喜びを感じながら日常生活を生きていると思います。

 

それにもかかわらず、私たちの脳が勝手に判断して、尊敬もされなければ感謝も受けられるはずがない、といった逆のシグナルを送ってしまう。なかなか抜け出すのが難しい状況だと感じます。

 

 また、様々な表情の顔写真を子どもたちに見せ、脳がどのように反応するかを実験した私のグループの研究でも、こういった脳の機能を説明する結果が得られました。

 

うつ病の生物学的なリスクのある子どもは、「嬉しい」などのポジティブな感情の顔写真よりも、「怖い」「怒っている」などのネガティブな表情の顔写真を見たときの方が、脳の中で感情を作り出す扁桃体という箇所が活性化するのです。

 

このように、うつ、あるいはうつになりやすい脳は、どうやら周りからのネガティブな刺激に感情的に反応しやすい機能を有するように、生物学的にプログラミングされているようなのです。

 

 浜田さんがトービン先生と出かけられて大学院生に見られているような気がするとか、自分を悪く見ているのではないかと思われたことも、同じように説明できるかもしれません。

 

もしかしたら周りからの小さなネガティブに思える刺激に扁桃体が過剰に反応し、「自分を悪く思っているはずだ」と思ってしまう思考回路ができあがってしまっていたのかもしれません。

 

それはとても苦しい経験だったでしょうね。

うつの状態は「できないだろう」を増強する

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浜田私にゲーム理論を教えてくれたハーバード・スカーフ教授の夫人、マギー・スカーフは偶然にも女性のうつを描いた『Unfinished Business(やり残した仕事)』という当時のベストセラー本の作者でした。

 

例えば親殺しのエディプスのように、経済学では予言があるとそれがその結果を生んでしまうという「自己充足的予言」という概念が重要なのですが、彼女の本にはうつ患者が悲観的な予測をするとそれが全く当たってしまうという例が書かれています。

 

 内田確かに、「できない」と思いながらではできないことも「できる」と思ってやってみるとうまく行くことはありますよね。

 

どんな難題であっても、「できるはずだ」と思えれば、「突破のための方法を考えよう」などと思考転換できるものです。

 

でも逆に「できないだろう」といった悲観的な予測からスタートすると、新しいチャレンジに挑むことも難しければ、壁にぶち当たったときには辞めてしまいたくなる。

 

うつの状態は「できないだろう」といった不安や諦めを増強するので、それが関係しているのかもしれませんね。 

 

あるいは、うつのときにはネガティブな出来事に視点が行きがちなので、実は良いことが起きていても、自分の悲観的な思いや周りの悲観的な出来事により焦点が当たって、そう感じるところもあります。

 

内田 舞、浜田宏一

 

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