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医師の精神が壊れないように…精神科医が「全員をそこそこちゃんと診る」ために“倫理的サイコパス”的ふるまいが必要なワケ

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文春オンライン

『倫理的なサイコパス ある精神科医の思索』(尾久守侑 著)晶文社

 

 精神科医が書いた本、という前情報を頭に入れつつ『倫理的なサイコパス』という本書のタイトルを目にしたときに、なるほど、これはきっと医師である著者が精神科にやってくる患者を評した言葉なんだろうな、などとまず想像する読者は少なくないのではないか。 

 

 実際には、「倫理的なサイコパス」は著者である尾久自身のことを、それも当人の気質ではなく、著者が医師として目指したいスタンスを指している。

 

精神科を訪れる患者たちの心の痛みを深く理解しようとし続けると、医師自身の精神が壊れてしまう危険性がある。

 

「全員をそこそこちゃんと診る」ためには「誰かの心の傷つきを二の次にする」、いわゆる“サイコパス”的振る舞い(この“サイコパス”が精神医学的な用語からは離れた“一般語”であることも本書では強調されている)も必要だからこそ、「切り捨ててしまったかもしれない部分をもう一度検討し直せる」存在として、「倫理的なサイコパス」になりたいと著者は語る。倫理と“サイコパス”的振る舞いとのはざまで、「ジャケットダンスをするように」医師という白衣を脱いだり着たりを高速でくり返しながら、著者は日々の診療を続けていく。 

 

 興味深いのは、意図せず患者に見せてしまう医師のプライベートな部分、「破れ身」についてだ。

 

いまの時代、患者は担当医師の名前をGoogleに打ち込むだけで、医師のSNSやブログに簡単にたどり着ける。

 

精神科医・詩人という珍しい肩書きを持つ著者の場合、自分の書いたエッセイや詩集を患者に読まれている可能性さえある。

 

患者からの視線という外圧は大きいと著者は語るのだが、その割にはというか、著者が本書で晒している「破れ身」はかなり赤裸々にも見える。

 

問診票の字や内容からまだ見ぬ患者を想像し、いざ診察という段になって入ってきた人が予想もしない雰囲気だったとき、頭の中の架空の不良が「オレの個別性なめんなよ」と啖呵を切ってくる――という話などは思わず笑ってしまった。

 

  私たちは患者の立場に立つとき、医師がプライベートにおいても常に医療のことを考えている必要などないと頭ではわかっている。

 

しかし身勝手にも、頼むから医師は「破れ身」さえも人格者であってくれ、と心の奥で祈ってしまうことがある。

 

「二刀流」「MBTI」「オンライン診療」など著者が着目するテーマの多くは通俗的で、文章にもユーモアが溢れているのだが、医者と個人とのあいだを行きつ戻りつしながらもより近くで患者の声に耳を澄まそうとするその姿勢はどこまでも生真面目だ。

 

本書は医師による一般書にありがちな「読むだけで心が軽くなる本」ではないが、不安に苛まれながら待合室で自分の番を待っているとき、医師がどんな顔でカルテを覗き込んでいるかを知ることのできる本だ。それによって心が軽くなる人も多いだろう。

 

 おぎゅうかみゆ/1989年東京生まれ。精神科医、詩人。慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室助教。詩集『Uncovered Therapy』で第74回H氏賞受賞。   なまゆばしほ/1992年東京生まれ。ライター、エッセイスト。Webメディア「大手小町」「DRESS」で連載中。

生湯葉 シホ/週刊文春 2024年7月11日号

 

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