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"ゴキブリ御殿"になっても人は一人暮らしが続けられる…和田秀樹「認知症が進行しても残る生存能力」

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プレジデントオンライン

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Zvalalto

 

認知症の症状が進行したら、老人ホームに入るべきか。

 

精神科医の和田秀樹さんは「私はかつて認知症患者の高齢者を往診する仕事をしていた。

 

あるとき、80代女性の家に派遣されると、玄関に入った途端にもう死ぬほど臭くて、床の上をゴキブリだのなんだの気持ち悪いものがはいずり回っていた。

 

それほど認知症が進んでも意外に一人暮らしはできるし、生存本能はしっかり残っていたが、何らかの形で彼女が特別養護老人ホームに入ると、一人暮らしのときよりも、はるかに清潔で豊かな暮らしになった。

 

しかし一人暮らしの自由がなくなったことは果たして良かったのだろうか」という――。

 

  【写真】和田秀樹氏の著書『みんなボケるんだから恐れず軽やかに老いを味わい尽くす』(SBクリエイティブ) 

 

 ※本稿は、和田秀樹『みんなボケるんだから恐れず軽やかに老いを味わい尽くす』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

 

 ■なぜ、鹿嶋の認知症の人は都内の人より進み方が遅いのか 

 

 東京都杉並区の浴風会病院のほかに、茨城県鹿嶋市の病院でも定期的に認知症の患者さんの診察をしていたことがあります。

 

  そこで、浴風会病院の認知症の患者さんは進行が速いのに、鹿嶋市の患者さんはゆっくりだということを発見したのです。

 

  当時は、認知症を痴呆と呼んでいたくらい偏見が強く、杉並区という富裕層の多い地域にある浴風会の患者さんは、認知症とわかると、「恥ずかしいから」「車にはねられると危ないから」などと言って、家族が家に閉じ込める傾向にありました。

 

  その頃もデイサービスはあるにはあったのですが、利用する人は非常に少なく、ほとんど一日中、何もしない状態になってしまう。

 

そうすると、進行のスピードが速くなるようでした。

 

  一方、鹿嶋市の認知症の人は、比較的自由に暮らしていました。

 

東京にくらべると、はるかに交通量は少ないし、一人で出かけて迷子になっても、近所の人が見つけて連れ帰ってくれます。

 

  また、浴風会病院のほうは、大半がサラリーマンをリタイアした男性や専業主婦だったのに対し、鹿嶋市の患者さんは、農業や漁業に従事している人が多く、その仕事をお手伝い程度でも続けていることが少なくありませんでした。

 

  「続けていいですか」と聞かれた場合、私は基本的に「大丈夫ですよ」と答えていましたし、鹿嶋ではそれまでの生活を続けるのが普通だったのです。

 

  鹿嶋の病院には数年間通いましたが、認知症になっても、やっぱり普段通りの生活をなるべく続けさせてあげたほうが症状が進まない、ということを確信しました。

 

  そして、もう一つ。地域の中で普通に認知症の高齢者が暮らしている。

 

それが、認知症の進行を遅らせるためには、とても重要であることを痛感させられました。

 

■生存本能は残り「ゴキブリ御殿」でも生きていられる

 

  同じ頃、保健所の要請を受けて、近隣から苦情が出ている高齢者を往診する仕事もしていました。

 

  たとえば「近所のおじいちゃんがいつも徘徊している」とか「一人暮らしの隣のおばあちゃんの家がゴミ屋敷みたいになっている。

 

臭くてしょうがないからどうにかしてくれ」とか、そういう苦情が入ると、その高齢者を訪ねて診断をするわけです。

 

  あるとき、80代女性の家に派遣されたのですが、玄関に入った途端にもう死ぬほど臭くて、床の上をゴキブリだのなんだの気持ち悪いものが、はいずり回っていました。

 

  どうやらその人は毎日、コンビニで弁当を買っているらしく、その食いさしをそのまま床に積んでいるのです。

 

  ひょっとしたら、その残飯を食べているのかもしれない。風呂にも入っていないみたいだから、本人もめちゃくちゃ臭い。

 

人間って、それでも生きていられる。すごいものだなあ、と感心しました。

 

  私なんか、ゴキブリが大嫌いで、家にゴキブリが一匹出ただけでもう逃げまわって、くん煙剤のバルサンをたいて、ビジネスホテルに泊まったことがあるくらい苦手なのですが、その女性はゴキブリなんかどうってことないわけです。

 

  まあ、ゴキブリは病気を媒介しないから気持ちが悪いだけなのですが、ボケると気持ち悪いこともなくなるらしい。

 

  この話を例に出したのは、それほど認知症が進んでも意外に一人暮らしはできるし、生きる意欲というか、生存本能はしっかり残っているということです。

 

  まったく掃除もしなければ風呂も沸かさないという点では面倒くさい家事をする気は毛頭ないのですが、お腹が減ったら、コンビニに行く。

 

別に万引きするわけではなく、ちゃんとお金を払って、コンビニ弁当を買って帰る知恵はある。

 

  それは、生存本能が強く残っている証拠だと思います。

 

 ■3000人以上の認知症患者で車にひかれた人はゼロ

 

  認知症の症状が進むと、「一人で外出させると車にはねられるかもしれない」と考える家族が多いのですが、あまり心配する必要はないと思います。

 

  私はこれまで3000人以上の認知症の患者さんを診てきましたが、私が診てきた範囲で車にひかれたという患者さんは一人もいません。

 

  認知症の人は、自動車を普通の人以上に怖がります。

 

たぶん危険を避ける動物的な本能だと思うのですが、たとえば殴られたり蹴られたりするようなことも上手に避けます。

 

  また、これは症状が重くなって、だんだん相手のことがわからなくなってきたときによく見られる現象の一つですが、誰にでも敬語を使うようになります。

 

そのほうが喧嘩にならないし、殴られたり蹴られたりする危険がないからでしょう。

 

  私の患者さんの中には、息子に敬語で話すようになって、ボケてしまったのかもしれないと家族に連れてこられた人もいました。

 

  また、元大臣の患者さんは、最初の頃、病院のスタッフがトイレまで連れていってあげたりしたときに「失敬な」と怒っていましたが、症状が重くなるとみんなに敬語を使うようになり、人間関係がよくなったものです。

 

■生存本能はたぶん最後の最後まで残る

 

  認知症がかなり進んでも、自分の命を守ろうとする生存本能は結構、残っています。

 

  徘徊している認知症の人をはねたドライバーが「向こうからぶつかって来たんだ」という言い訳をしたときに、世間の人は認知症だったらやりかねないと思うかもしれませんが、それはまずあり得ません。

 

  どんなに認知症の症状が重くなったとしても、車にぶつかりそうになったら反射的に逃げます。

 

自分の身が危険になるような行動はとりませんし、危険を感じて身を守るという本能は残るのです。

 

  認知症は進むにつれて、これまで生きて得てきたことがだんだん抜け落ちていくわけですが、そういった動物的な生存本能というものは、一番最後まで残るものかもしれません。

 

 ■ゴキブリと共生から老人ホームへ移り豊かな暮らしへ 

 

 話は戻りますが、ゴキブリと共生していた80代女性は、まだ一人でしぶとく暮らしていけそうな気はしたものの、諸般の事情を考慮して診断書には、「重度認知症なので一人暮らしは困難と思われる」というふうに書きました。

 

  その後、記憶が定かではないのですが、何らかの形で特別養護老人ホームに入ることになったと思います。

 

  当時、バブル景気は終わっていたものの、公的な補助金が十分用意されていたので、その頃の特別養護老人ホーム、とくに都内の特養は、設備やケア面も、ものすごく良かったのです。

 

  現在の介護保険が始まってからは、特養は社会福祉法人や地方公共団体が運営していて、一人当たりのホームの収入は月に介護保険からの26~27万円と患者さんが負担する食費やオムツ代など、合わせてせいぜい40万円ちょっとくらいです。

 

  ところが、その当時は、東京都が1ベッドあたり50~60万円の補助金を出していましたし、建物も民間の有料老人ホームよりもいいくらいでした。

 

そういう施設に入ったわけですから、たぶん外見的には幸せだったと思います。

 

  立派な施設で、介護スタッフが一日に三度ちゃんとご飯を食べさせてくれて、お風呂にも入れてくれる。

 

一人暮らしのときよりも、はるかに清潔で豊かな暮らしができるわけですから。

 

■日本の高齢者医療はお節介やき 

 

 ただ、ゴキブリが這い回っているゴミと弁当がらだらけの屋敷では、自由だった。

 

誰に干渉されることもなく、好きなときに起きて、お腹が空いたら好きな弁当を買いに行って、好きなように生きていた。

 

  そのおばあさんにとって、そういう自由がなくなったことが果たして良かったのか悪かったのか……。

 

私にはわかりません。  ある意味、日本という国はお節介やきだと思います。

 

  たとえば、北欧諸国は介護は充実していますが、高齢者医療は実質的に行われていないと言っても過言ではありません。

 

  つまり、高齢者には、介護は一生懸命やるものの、寝たきりの高齢者の食欲が落ちて、スプーンを口まで持っていっても食べなかったら、その人は生きる意思がなくなったとみなされて、それ以上の処置はしないのです。

 

  アメリカには、すばらしい老年医療があります。

 

食べなくなったら高齢者の心のケアまで用意されていて、何人もの医師や看護師がチームを組んで高齢者を診ることもめずらしくありません。

 

  しかし、これは富裕層に限られます。メディケアなどという高齢者用の公的保険システムがありますが、受けられる医療はかなり貧相で、一般のほとんどの高齢者は、弱ってから長生きすることはできません。

 

 ■幸せかどうかは、本人にしかわからない 

 

 しかし日本では、誰であろうと食べなくなったらまず点滴をします。

 

脱水が改善されたらまた食べるようになることもありますし、食べなくなった原因が肺炎の場合であれば、肺炎に有効な抗生物質を点滴に入れます。

 

  たとえ、その人がお金を持っていようがいまいが、生きられるだけ生きさせる、という医療をやってきたのです。

 

そういう意味では、本人が望むと望まざるとにかかわらず、福祉という名のもとに無理に生かしてきた、という側面もあるわけです。

 

  それが良いか悪いかは、正直言って、私にはわからない。

 

結局、幸せかどうかは、本人にしかわからないのですから。

 

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 和田 秀樹(わだ・ひでき) 精神科医 1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

 

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精神科医 和田 秀樹

 

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