【以下ニュースソース引用】
京都宇治、手ごねで生まれる「想像を超えたパン」/杣
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![池田浩明](https://www.asahicom.jp/and/data/wp-content/uploads/2019/04/480ikedahiroaki.jpg)
「パンラボ」主宰
ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰。日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッド …
意識を変えた出会い 「菌も小麦もそのままでいい」
京都・宇治。
言わずと知れた日本茶の産地で、離れ里にある隠れ家のようなしつらえの中、パンと宇治茶を供する「杣(そま)」に出会った。
![京都宇治、手ごねで生まれる「想像を超えたパン」/杣](https://www.asahicom.jp/and/data/wp-content/uploads/2024/05/8fe4e03b654564f625bbf0aa794b444c.jpg)
ほの暗い座敷で、静かな時を過ごしていると、一服の抹茶と「酒粕(かす)酵母ドーナツ」が目の前に置かれた。
ゆずを思わせるカルダモンの芳香とともに、かりっと表面が崩れ落ちる。
つづいて、むぎっと素朴な弾力。和菓子の桂皮(けいひ)を思わせるオーガニックシナモン。
砂糖はごく控えめに、それゆえ露出する小麦の滋味。
「雑味」と呼ばれるような、酸味や発酵の香りさえ愛(いと)おしい。
抹茶を含めば、若草のようなすがすがしい液体が喉(のど)へと降(くだ)って、あまりの快さに意識が遠のいた。
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店主の羽田真紀子さんは2年前に離婚、自立のためにパン屋をはじめた。
3人の子供を育てながら、寝静まった隙にパンを作る。
子供たちを店で遊ばせながら販売に立つときもある。
元の夫とはいっしょに和食料理店を切り盛り、週一度、店の一角で小さなパン屋を開いていた。
「その中でパンへの思いが強くなっていて。結婚する前からずっと、私は自分でパン屋をやりたいという夢がずっとあったので」
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若い時、カフェのスタッフなどを経験、生き方を模索していた頃。
千葉で出会ったのが、無農薬の稲から採取した麹(こうじ)を使った「自然酒」の蔵元「寺田本家」の酒粕を使ったパン作りだ。
「冷蔵庫の中でも発酵するぐらいパワフル。微生物の力をお借りしてるっていう感覚になっていくんです」
15年以上酒粕を使ってずっと種をつないで、昨年はじめて、3人の子供を連れて蔵を訪ねた。
「麹部屋に入るときも、マスクも殺菌も一切しないでそのまま入れてくださって。子供たちは部屋の中をぴょんぴょん跳びはねたり昇ったり。子供たちの持ってる常在菌も、蔵付きの菌が包み込む。そういう意識のようでした。自然の中で作るから、コントロールできない部分もある。味を一定にしようともされてないんですね」
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寺田本家の、菌との付き合い方を目の当たりにし、意識が変わった。
「以前は同じものを安定して出すのがプロだと思ってたんですけど、自然の循環の中で作るって意識しはじめてからは、酸味を出さないようにしようとかそこまで強く思わずに作っている部分がありますね」
素材に一切をゆだねる。
微生物と小麦の力を信じる。
酵母や乳酸菌や麹菌、さまざまな菌がいるから、ひとつのパンにもさまざまな風味が含み込まれるし、パンが異なれば、発酵の工程も異なり、それぞれ別の風味が醸される。
食パンにはちみつのような香り、ベーグルの皮にはしょうゆを焦がしたような香り、カンパーニュには甘酒のような香り……パンを噛(か)み締めるたび、風味の万華鏡をくるくると回すようだ。
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壁塗りを手伝ったりしながら、この空間をいっしょに作り上げた大工さんがいる。
その人が放った「パンの方向性は手ごねがいいと思う」という言葉にはっとした。
「『そんなしんどいことやってられへん』って言ったんですけど、やってみたら生地自身がつないでいってくれる。いまは生地が7種類ぐらいあって、ぜんぶ手で仕込むんですけれども、ある程度混ざったら、いったん横に置いて、次の子(生地)に移って、っていうのを順番に繰り返していくと、ばんばん叩(たた)いたりしなくても、置いている間にちゃんと生地がグルテンをつないでくれる」
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手ごねは、電動のミキサーほど生地への当たりが強くないので、生地にやわらかさや口溶けよさを与える。
それだけではなく、羽田さん自身の意識まで変えた。
「余計に微生物への信頼も生まれ、愛着も生まれました。仕事をしながら、ずっと生地に話しかける。今までは“私がお世話をしてる”という上から目線やったんですけど、今は、上からではないですね。尊敬しているというぐらい」
自分の目指すゴールにたどり着くことがパン作りだと私も思っていた。
羽田さんがいる境地はそうではない。
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「たとえば、パンをほったらかしにしておいて、2週間目にふと気づいて食べたとき、むちゃくちゃおいしかったりするんですよ。変化して、深みが増して。そういうときはもう自分の作ってるものじゃないというか、見えない者たちが作ってくれた感覚」
そう思ったとき、「想像を超えたパン」が生まれてきた。
「人生で何回か、涙しそうになったぐらいおいしいなって持ってかれた経験があるんですけど、そういうのって言葉で表せるものじゃなくて、魂から感じられるものなのかなって思います。もう人の範疇を超えてるところでできあがるのかなって」
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そんな発想から作り上げられた「古代小麦玄米ごはんパン」。
在来種のお米を炊いたものを半分、スペルト小麦を半分。
現代小麦のように、ふわふわにふくらむわけではない。
“もっちり”と“みしっ”の中間。だからこその香りの凝縮感。
素材の甘さと清らかさがうつくしく同居している。
甘酒のような香りとほのかな酸味。
そして、豊かなアミノ酸が作り上げる、いぶしたような香り。甘口のお酒のような旨(うま)みがそこはかとなく。
パンを食べているだけで、刺し身といっしょに日本酒を一献傾けている想像が駆け巡りだしたのはなぜだっただろう。
品種改良されていない小麦や玄米でこんなにおいしいパンができる。
だとしたら、私たちの信じる進歩や科学という概念が揺らいでくる。
「あのパンには、みんなが元をたどればいいなっていうメッセージが込められていて。もっとみんなの思考がシンプルになったり、根本につながっていったらいいなっていう密(ひそ)かなメッセージがあります」
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菌も小麦もそのままでいい。
自分が、自分がとコントロールする必要もない。
そんな気持ちに変わると、生き方や子育てまで変わってきた。
「人間って大人になればなるほど、どうしても自分が認められたい、よく見せたいとか、そういうエゴが強くなってしまうけど、子供たちはそんな立派にならなくてもいいよとか、いてくれるだけでいいって、そう思うようになりました」
自分だけががんばるのではない。
子供たちも菌もいっしょにいる。
羽田さんの視界には、新たな希望が見えてきているようだ。
京都府宇治市宇治里尻8-9
水金土営業
11:30~18:00
フォトギャラリーへ(写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます)
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