【以下ニュースソース引用】

「発達障害は一生治らないし、治療方法はない」は本当?…発達障害について、誤った認識を持っていませんか?

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現代ビジネス

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 言葉が幼い、落ち着きがない、情緒が不安定。

 

  育ちの遅れが見られる子に、どのように治療や養護を進めるか。

 

  【写真】発達障害にまつわる「嘘と本当」…意外と間違った認識を持っているかも? 

 

 講談社現代新書のロングセラー『発達障害の子どもたち』では、長年にわたって子どもと向き合ってきた第一人者がやさしく教え、発達障害にまつわる誤解と偏見を解いています。

 

   ※本記事は杉山登志郎『発達障害の子どもたち』から抜粋・編集したものです。

世間に広がる誤解

 以下に挙げたのは、発達障害に関して特に学校進学をひかえた子どもを抱えるご家族から聞くことが多い意見である。

 

読者のみなさんは、おのおのについての是非をどのように思われるだろうか。

 

 ----------

 

 ・発達障害は一生治らないし、治療方法はない

 

 ・発達障害児も普通の教育を受けるほうが幸福であり、また発達にも良い影響がある

 

 ・通常学級から特殊学級(特別支援教室)に変わることはできるが、その逆はできない

 

 ・養護学校(特別支援学校)に一度入れば、通常学校には戻れない

 

 ・通常学級の中で周りの子どもたちから助けられながら生活をすることは、本人にも良い影響がある

 

 ・発達障害児が不登校になったときは一般の不登校と同じに扱い登校刺激はしないほうが良い

 

 ・養護学校卒業というキャリアは、就労に際しては著しく不利に働く

 

 ・通常の高校や大学に進学ができれば成人後の社会生活はより良好になる

 

 ----------

 

  次は、幼児期の発達障害のお子さんのご両親からしばしば伺う意見である。

 

 ----------

 

 ・発達障害は病気だから、医療機関に行かないと治療はできない

 

 ・病院に行き、言語療法、作業療法などを受けることは発達を非常に促進する

 

 ・なるべく早く集団に入れて普通の子どもに接するほうがよく発達する

 

 ・偏食で死ぬ人はいないから偏食は特に矯正をしなくて良い

 

 ・幼児期から子どもの自主性を重んじることが子どもの発達をより促進する

 

 ----------

 

  これらはすべて、私から見たときに誤った見解か、あるいは条件付きでのみ正しい見解であって一般的にはとても正しいとはいえない。

 

  おのおのについて、なぜこれが誤っているのか、と驚かれたとしたら、そして発達障害と診断を受けたお子さんに関わっているとしたら、この本はあなたにとって読む価値のある本である。

 

  発達障害の治療、教育の是非を調べることは実は簡単である。

 

成人になるまで待って、成人になってからの状態を比較すれば良いのだ。

 

どんなに理論的に正しくとも、成人になったときの社会的な状況が不良であれば、そのそだちの過程にはなんらかの問題や過ちがあると考えざるを得ない。

 

  それは普遍的な問題であることもあれば、きわめて個別的な問題であることもある。

 

また現在の教育制度から来る問題もあれば、選択によって回避できる問題であることもある

 

  私が長年にわたって相談に乗ってきた二人の成人についてまず紹介したい。

 

学習障害と診断されたA君

 A君が筆者の外来を受診したのは9歳、小学校4年生のときである。

 

学校の勉強が遅れがちになったということでやってきた。

 

80年代後半のことである。

 

  A君は未熟児で生まれ、もともと言葉は少し遅かったが、特に健診でチェックを受けることはなかったという。

 

幼児期からよく動き、よく転んだ。

 

しかし集団行動の問題はなく、友達を作ることにも問題はなかった。

 

地元の保育園から通常学級に進学した。

 

  小学校に入ってすぐに、国語の苦手さが明らかとなった。

 

特に文章の読解が苦手で、やさしいひらがなの文章を訥々と読むのが精一杯であった。

 

小学校2年生まではお母さんがついて勉強を見ていた。

 

小学校3年生になると、国語の苦手さが他の教科の足を引っ張るようになった。

 

テストの成績も軒並み40点前後となり、また学習をさせようとするといやがって応じなくなったため、専門医療機関への受診となったものである。

 

  初診時のA君は、にこにことした元気の良い、落ち着きのない子どもであった。

 

心理検査を行ってみると、WISC(ウェクスラー児童用知能検査)という検査にて言語性知能指数62、動作性知能84、全体で78と、境界知能という結果となった。

 

  解説を加えると、知能検査にはビネー系とウェクスラー系という2つの標準化された知能検査法があり、ビネーは知能検査によって示された精神年齢を算出し、それを暦年齢で割ることによって知能指数を計算する。

 

それに対してウェクスラー系は、言語を用いた知能検査と言語を用いない知能検査(動作性とよぶ)に分かれ、それぞれはさらに、知能を支えるさまざまな能力、知識のレベル、視覚的認知の正確さ、常識の有無、記憶の正確さなどなどの項目に分けて計ることができる仕組みになっている。

 

  一般的に、IQ85以上を正常知能とし、IQ69以下を知的な遅れありとする。

 

この中間、数字であらわせIQ70からIQ84を、正常知能と知的な遅れの境界線という意味で、境界知能と呼ぶ。

 

A君はこの領域に入るのである。

 

  付言すると、この知能検査の値は絶対ではない。

 

そのときのコンディションでプラスマイナス15ぐらいは変動してしまうのである。

 

考えてみてほしい。かのイチローですら5打数無安打という日があるではないか。

 

  しかし大多数の日において、イチローは2本以上の安打を打ち続けているので、かの高い打率になるのである。

 

つまり知能検査の値は絶対ではないが、それなりに尊重される必要があるのである。

 

  大学病院で見習いの心理士が実施した検査の知能指数が60、障害児センターのベテラン心理士が実施したら70、特殊学級の担任がやや強い指示を出しながら実施したら75という結果になった自閉症の子どもを知っているが、このようなことは非常に例外的で、それなりに経験を積んだ人間が測定をすればだいたい同じ値になる。

 

  脱線が長くなったが、A君については、言語性知能検査の各項目を見ると、著しいばらつきがあり、単純な記憶は良好だが、類似課題など抽象度が少し高くなると非常に苦手という状況が心理検査の結果からは見て取れた。

 

  一方、A君の学力はというと、国語力は文章の読解が小学校2年生程度、漢字は1年生レベルですでにつまずきがあり、算数は繰り上がりのある加算で誤りがあり、九九は不完全、割り算は部分的にしかできなかった。

 

つまり小学校2年生レベルの課題からすでにつまずいていた。

治療開始

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 A君の継続的な相談が始まった。

 

集中困難と自信の喪失が目立ったため、少量の抗うつ剤を服用してもらったところ、A君はいくらか元気になり、課題への取り組みも向上したため、しばらく継続して用いることになった。

 

後から振り返ると、この抗うつ剤が少し有効であったということが、実は大きなボタンの掛け違いを生じてしまったのではないかと悔やまれる。

 

  本人の意欲は回復したが、学習は徐々に遅れが目立つようになった。

 

母親は熱心にA君の勉強を見ていたが、小学校高学年になるとA君ははっきりと学習をいやがるようになった。

 

  私はまず個別の学習を行う時間を設けられないかと学校にお願いした。

 

80年代後半の当時、学習障害がやっと話題になり始めたころである。

 

まだ特別支援教育という概念は日本には存在しなかった。

 

  学校の返事は、「地域では通級(通常学級に在籍して特殊学級に出かけること)の制度はなく、知能にはっきりとした遅れのない子は特殊学級の対象にならない」とのことであった。

 

しかし「本人や家族が希望するなら、特殊学級に転級を検討する」と学校からは返答があった。

 

そこでA君が学校の授業にはまったくついていけなくなった時点で、私はA君のご両親に特殊学級への転級を勧めた。

 

しかし、母親も父親も、A君が友人と一緒に学習をしたいと望んでいる、また担任教師も特殊学級に行かなくても大丈夫だと言ったということで、転級を拒否した。

 

  さらに家族は、遠方のT大学病院にわざわざA君を連れていき、その医師からは特殊学級などとんでもないと言われたそうである。

 

ちなみにこの医師は、どのようなハンディがある児童でも通常学級でと当時主張をされていた。

 

  先に述べたように学習障害の概念はこのころからわが国に広まりだしており、教育サイドも医療サイドもその対応方法は一貫していなかった。

 

私自身も教育の処遇に関して、十分に確信を持って対応していなかったと思う。

 

このころA君はしばしば学校でいじめにもあっていたが、有力な同級生の子分となることで、いじめの被害はなくなったという。

 

どうもこのころから、ご両親は、特殊学級に行きたくなければ勉強するしかないといった説得を繰り返していたようである。

 

混乱の日々

写真:現代ビジネス

 

 中学生になると、授業からは完全に取り残されるようになった。

 

学校自体が荒れている中で、A君は同級の友人に唆されて、しきりに授業妨害をするようになった。

 

そのような中でA君が担任教師に暴力をふるうという事件が生じた。

 

A君の言い分は、担任が自分たちを無視して生徒を差別しているということであった。

 

  A君に対し私は、どのような事情にしろ暴力をふるうことは良くないと強く説得をしたが、A君は、私まで自分の味方をしてくれないのかと、むしろ傷ついた様子であった。

 

  私はA君と家族に、もう一度、特殊学級への転級を勧めた。

 

ご両親は現在の状態でA君がまったく授業についていけないことは理解しており、それがA君にとって良いことならと受け止めていたが、A君は「俺を馬鹿と一緒にするのか」と激怒し、特殊学級に転級するくらいなら死ぬとまで言った。

 

この事件の後、暴力的に暴れることはなくなったが、時折、遅刻を繰り返すようになり、やがて不登校状態になった。

 

  A君はそのまま中学卒業となり、当時開校した、高校卒業資格を取ることができる専門学校に通うようになった。

 

この学校は高校に進学できない生徒を集めており、カリキュラムもそれなりに工夫されていて、1年生の最初、A君は笑顔で登校をした。

 

しかし6月ごろから、学校に行く前にA君は髪型を著しく気にするようになり、鏡の前で30分も40分も整髪料と櫛とを持って髪を整えるようになった。

 

この間も筆者の外来への散発的な相談は続いていたが、A君自身がすでに通院を嫌うようになったため、両親のみの相談であった。

 

A君は一学期の後半には学校に通えなくなり、そのまま退学をしてしまった。

 

  その後、アルバイトを何度か試みたが、いちばん続いたもので1ヵ月弱であり、ささいなトラブルからバイトに行かなくなることを繰り返した。

 

それをご両親にとがめられると、A君は家の中で大暴れをするようになり、そのまま蟄居生活になってしまった。

 

  私は何度か往診をしてA君に会うことができたが、その会話の中でA君が周りの人の働きかけをすでに被害的に受け取っていたことが判明した。

 

今後、入院治療が必要になるかもしれないと考え、私は友人の精神科医に紹介状を書き、ご両親はその精神科の病院に相談に通うようになった。

 

この時点で私が職場を変わり、外来の枠が小さくなって、問題が生じても直ちに対応ができなくなったこともあった。

 

  その後である。

 

20歳を何年か過ぎてA君は近くのクリニックのデイケアに通うようになった。

 

外へ出るときには髪型を整えないと出られない状態は続いており、サングラスが離せない。

 

少しのことで被害的に受け取ることも続いているが、クリニックで出された安定剤を服用し、家庭の中で暴れることはすでになくなっている。

 

  A君は、私にとっては明らかな治療の失敗例であり、私自身の責任も十分以上にあり、こうしてまとめてみてあらためて慚愧に堪えない。

 

A君に申し訳なく思う。

 

しかしA君は少しずつ昔の笑顔を取り戻しつつある。

 

A君は優しいご両親に愛されてそだった青年である。

 

つまり、人としての根っこの部分はきちんとできている。

 

どんな紆余曲折があろうとも、A君が社会に出ていくことが可能になる日が必ず来ると私は確信している。

 

  * 

 

 さらに【つづき】

 

〈発達障害が治る子と治らない子、その違いはどこに…? 発達障害にまつわる「嘘と本当」〉では、自閉症と診断されたB君の例についてくわしくみていきます。

 

  ※本書で取り上げられている事例は、公表に関してはご家族とご本人に許可を得ていますが、匿名性を守るため、大幅な変更を加えています。

 

杉山 登志郎

 

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