【以下ニュースソース引用】

生け花・雅楽・抹茶体験 ル ジャック カルティエのエキゾチックな探検クルーズ(後編)

ESSAY

 

麗水(ヨス)のル ジャック カルティエ。黄色い菜の花が美しい=韓国・麗水市、上田英夫撮影
上田寿美子

上田寿美子

 クルーズジャーナリスト

日本旅行作家協会会員、日本外国特派員協会会員。クルーズ旅行の楽しさを伝え続けて30年余り。外国客 …

 

 

フランス船「ル ジャック カルティエ」の瀬戸内海探検旅行は、日本型エクスペディションクルーズの決定版。

 

後半もユニークなイベントが目白押し。

 

瀬戸内海の島々や世界遺産も訪問し、さらに関門海峡を抜け山口県の萩市へ川から上陸。

 

そして、韓国の麗水ヨスでは目の覚めるような春模様が待っていました。

 

 

連載「上田寿美子 クルーズへの招待状」は、クルーズ旅の魅力や楽しみ方をクルーズライターの筆者がご紹介します。

御手洗で雅楽の調べ 思い出は生け花と共に

4日目、御手洗みたらいを訪問。

 

実は、乗船前には御手洗の場所がはっきりとわからず、調べてみると、広島県呉市に属する大崎下島にある港町でした。

 

17世紀中頃に形成され、江戸時代には風待ち港、潮待ち港として栄えた歴史があり、1994年には重要伝統的建造物群保存地区に指定されました。

 

地域の有志住民で「重伝建を考える会」という町おこしの会も発足したそうです。

 

地名・御手洗の由来は、「神功じんぐう皇后が三韓征伐の時にこの地で手を洗ったから」「菅原道真公が大宰府に左遷されたとき、その途中でここに立ち寄り手を洗ったから」等々諸説あるようですが、いずれにしても瀬戸内海の交通の要所だったことがしのばれます。

 

御手洗では、ル ジャック カルティエの乗客のために趣向を凝らしたおもてなしがたくさん用意されているので見逃せません。

 

最初に向かったのは、御手洗ならではの生け花体験会場。

 

民家の庭に色とりどりの花を用意し、地元の婦人たちのアドバイスを受けながら竹筒の花器に好きな花を選び、挿していくという体験です。

 

御手洗の町を飾る竹筒の生け花
御手洗の町を飾る竹筒の生け花=上田英夫撮影

 

このように竹筒に花を生け、町屋の壁や格子窓などに飾る「一輪挿し運動」は、前述の重伝建を考える会女性部「さくら部」が行っている活動で、道行く人を和ませていました。

 

私もそれにならい、御手洗の思い出と共に自身の生け花を船に持ち帰り、船室の入り口に飾りました。

 

思い出と共に生け花を自室のドアに飾る
思い出と共に生け花を自室のドアに飾る=上田寿美子撮影

 

御手洗では住吉神社方面に歩を進めると、大きな高灯籠たかとうろう。そのそばでは雅楽の演奏が始まりました。

 

美しい装束の楽人がくじんによるしょう篳篥ひちりき竜笛りゅうてきの演奏が瀬戸内の海を背景に流れれば、やんごとなき宮廷世界に迷い込んだ気分。

 

さらに朗詠「嘉辰かしん」という祝いの歌で航海の安全と喜びも祈ってくれました。

 

海を背景に雅楽演奏。日本の古典音楽に浸る
海を背景に雅楽演奏。日本の古典音楽に浸る=上田英夫撮影

 

1806年に伊能忠敬が大崎下島の測量をした時の宿舎と伝えられる旧柴屋住宅では、長唄と三味線の実演。

 

1937(昭和12)年にモダンな劇場として誕生した「乙女座」にも立ち寄ってみました。

 

また、指定のレストランやカフェで乗船カードを見せると、すしやデコポンソーダなどの接待もあり、御手洗の味わいも楽しみました。

 

昭和12年にできた劇場「乙女座」。一時廃業していたが平成14年に演劇場として復活
1937(昭和12)年にできた劇場「乙女座」。一時廃業していたが平成14年に演劇場として復活=上田寿美子撮影
生け花・雅楽・抹茶体験 ル ジャック カルティエのエキゾチックな探検クルーズ(後編)
江戸時代の旅館を改修したダイニングで巻き寿司をごちそうになる=上田寿美子撮影

ガーデンアイランドの異名を持つ下蒲刈島

午後は呉市の下蒲刈島しもかまがりじまに上陸。

 

古くから朝鮮通信使の一行や、西国大名が参勤交代の際に立ち寄った由緒ある島です。

小さな島には美術館や庭園がぎゅっとつまり、文化の薫りが漂っていました。

 

最初に訪問したのは松濤園しょうとうえん

 

園内には古伊万里の名品を展示した「陶磁器館」、世界の灯火器を集めた「あかりの館」などの資料館があります。

 

なかでも「朝鮮通信使資料館 御馳走ごちそう一番館」は、江戸時代、下蒲刈島が藩の接待所として朝鮮通信使をもてなした記録に基づき、行列のジオラマ、通信使船の模型、そして「安芸蒲刈御馳走一番(安芸蒲刈のおもてなしが一番すごい、の意)」と言われた七五三の膳や三汁十五菜の豪華な料理の模型が展示され、日朝友好に熱心に取り組んできた歴史を物語っていました。

 

松濤園(しょうとうえん)の資料館に展示されている朝鮮通信使船の模型
松濤園の資料館に展示されている朝鮮通信使船の模型=上田英夫撮影
接待の豪華さを物語る御馳走一番館の料理模型展示
接待の豪華さを物語る御馳走一番館の料理模型展示=上田英夫撮影

 

松濤園の庭は、三之瀬瀬戸の潮の流れを借景に青い松が茂る名園。

 

今日はそこで、春霞というお菓子と抹茶を一服。さらに自分で抹茶をたててみたい人は、江戸時代の番所を復元した蒲刈島御番所で茶道体験も可能でした。

 

フランス人家族の若い三兄弟が、茶筅ちゃせんを使って挑戦していましたが、後で感想を聞いてみると「難しかったけど良い体験だった」と答えてくれました。

 

松濤園の庭園。しだれ桜の下で抹茶をいただく
松濤園の庭園。しだれ桜の下で抹茶をいただく=上田英夫撮影

ユニークな水槽型プールと海を眺めるサウナでロウリュ

最近の新しいクルーズ船で流行しているのがインフィニティプール。

 

2020年就航のル ジャック カルティエにも、もちろんインフィニティプールがありますが、それがとてもユニーク。

 

海から見るとまるで大きな水槽を船尾に乗せたような形なのです。

 

プールから絶景が見えることは容易に想像できましたが、少し心配な点は、水中の水着姿が丸見えなこと。

 

思い切って入ってみると、そんなことを吹き飛ばすほど解放感いっぱいのプールでした。

 

水槽のようなユニークなプールは解放感いっぱい!
水槽のようなユニークなプールは解放感いっぱい!=上田英夫撮影

 

さらに、この船の7階には、海の見えるサウナも完備しています。

 

瀬戸内の島景色を眺めながらサウナの熱気で体を温め、セルフロウリュで音と香りに浸ると、至福のリラックスタイムとなりました。

 

海の見えるサウナで、動く島景色を眺めながらリラックス
海の見えるサウナで、動く島景色を眺めながらリラックス=上田英夫撮影

早朝の宮島・厳島神社 大聖院の禅体験

広島県の宮島は、世界遺産の厳島神社などがある観光名所なので、最近はその混雑の様子も話題の種になるほど。

 

そこで、ル ジャック カルティエは、午前6時半に自前のテンダーボートを出したので、本州からの一番フェリーが到着する前に、宮島に上陸することができました。

 

雨に煙る厳島神社・海上の大鳥居
雨に煙る厳島神社・海上の大鳥居=上田寿美子撮影

 

まだ人の少ない早朝の厳島神社は、荘厳。あいにくの土砂降りでしたが、雨に煙る海上の大鳥居も幻想的でした。

 

島の桜の名所桃林もんばやしに移動すると、桜の下には鹿の姿。

 

雨音のみが響く中、鹿はもくもくと草をんでいました。

 

宮島の桜の名所の一つ桃林で鹿に会う
宮島の桜の名所の一つ桃林で鹿に会う=上田寿美子撮影

 

次に目指したのは真言宗御室派大本山大聖院だいしょういん

 

唐より戻った空海が宮島の弥山みせんで修業し、西暦806年に開基した古刹こさつで、2006年には開基1200年を記念し、ダライ・ラマ法王も訪れています。

 

仁王門をくぐり、摩尼まに車を回しながら石段を登ると、だんだんと気持ちが落ち着いてきました。

 

階段の横には、五百羅漢庭園。

 

帽子をかぶった小さな羅漢さんが500体も霧の中にたたずみ、何とも神秘的な光景です。

 

五百羅漢庭園。帽子をかぶった羅漢さんたち
五百羅漢庭園。帽子をかぶった羅漢さんたち=上田英夫撮影

 

今日ここへ来たのは、ル ジャック カルティエの乗客のために用意された座禅体験に参加するのが目的。

 

外国の乗客と一緒に、座り方、手の組み方、呼吸法などを教わりました。

 

宮島のパワースポットとしても知られる大聖院の境内には、四国八十八カ所の本尊が置かれた「遍照窟へんじょうくつ」、三鬼大権現がまつられている「摩尼殿」などが点在。

 

本尊の波切不動明王がまつられている「勅願堂」で航海安全を祈願しました。

 

四国八十八カ所の本尊が安置された遍照窟(へんじょうくつ)
四国八十八カ所の本尊が安置された遍照窟=上田英夫撮影

 

今日のランチは、老舗旅館「錦水館」の中の食事処・まめたぬきで名物穴子飯とカキフライ。

 

ところが、船に戻ると、地元のすし屋の職人を招いて、握りずしの実演とふるまいが行われていたのです。

 

本マグロの中トロ、タイのコブ締め、サワラの握りに鉄火巻きのセットは外国の乗客にも大好評で、中には7セット食べた人もいるほど。

 

穴子飯を食べた後とはいえ、私も2セットを食べ、おいしい寿司は別腹だということを再認識しました。

 

(上)宮島名物の穴子飯とカキフライ(下)宮島のすし職人によるデモンストレーションと実食は大好評
(上)宮島名物の穴子飯とカキフライ=上田寿美子撮影
(下)宮島のすし職人によるデモンストレーションと実食は大好評=上田英夫撮影

萩では市長のお出迎え 萩焼と夏みかん

ル ジャック カルティエは関門海峡を通り、山口県萩市まで来ました。

 

ここでも、乗客たちはゾディアックボートに乗り、橋本川を航行し、小さな橋をくぐり、桜をめでながら風流に上陸。

 

すると迎えてくれたのは、侍姿に扮した萩市の田中文夫市長だったのです。

 

市長と一緒に写真撮影も可能で、なかなか他の旅ではできない体験でした。

 

萩市への訪問はゾディアックに乗って川から上陸
萩市への訪問はゾディアックに乗って川から上陸=上田寿美子撮影
萩市長の田中文夫氏は侍姿でお出迎え
萩市長の田中文夫氏は侍姿でお出迎え=上田寿美子撮影

 

今日は船の寄港地ツアーに参加し、萩焼の窯元・泉流山せんりゅうざんへ。かつては萩焼の大家で文化功労者の吉賀よしか大眉たいび氏が当主を務めた名窯めいようです。

 

敷地内の吉賀大眉記念館では、現在の当主で息子の吉賀將夫氏の解説を聞きながら作品を見てまわり、その後、登り窯を見学。

 

海外の乗客にも萩焼の魅力が伝わったようで、売店で器を買い求める人も大勢いました。

 

萩焼窯元・泉流山(せんりゅうざん)。登り窯を見学
萩焼窯元・泉流山。登り窯を見学=上田寿美子撮影

 

次に毛利藩を支えた御用商人菊屋家の住宅へ。

 

約400年の歴史ある屋敷は藩の迎賓館のような役割も担った立派なもので、主屋、本蔵、金蔵、米蔵、釜場の5棟は国の重要文化財に指定されています。

 

ところで萩の城下町では、あちこちの土塀から実をつけた夏みかんと思われるかんきつ類の木が顔を出していました。

 

この元となったのが、1876(明治9)年、小幡高政が生活の術を失った士族を救うために、夏みかんの栽培を広めたこと。

 

園地は主に空き家となった武家屋敷だったことから、ほぼ江戸時代のまま、武家屋敷の敷地割が保たれ「土塀と夏みかんは萩のシンボル」となったそうです。

 

塀の上にかんきつ類がたわわに実る萩の城下町
塀の上にかんきつ類がたわわに実る萩の城下町=上田寿美子撮影

キャビアテイスティングとカジノナイト

今日は午後6時半からメインラウンジでキャビアテイスティング。

 

パリの老舗キャビアメーカー「キャヴィアリ」のキャビアや、イクラ、スモークサーモンなどをシェフが取り分け、シャンパンやウォッカと共に楽しむ、夕食前の粋なひと時です。

 

豪華なキャビアテイスティング
豪華なキャビアテイスティング=上田英夫撮影

 

夕食後はカジノナイト。

 

こちらは、おもちゃの紙幣をもらい、ルーレット、ブラックジャック、玉落とし、コイン投げなどのゲームを行い、紙幣を増やしていく「お遊び」のカジノですが、クルーズも残りわずかとなり、6日間も同じ屋根の下で暮らした人々は、顔見知りも増え、カジノ会場は大にぎわいとなりました。

 

カジノナイトでルーレットに挑戦
カジノナイトでルーレットに挑戦=上田英夫撮影

桜に菜の花 春らんまんの韓国・麗水

いったん日本を離れたル ジャックャック カルティエは楽団の演奏に迎えられ、韓国南部に位置する海の美しい港町・麗水ヨスに到着。2012年には麗水EXPO(海洋万博)が開かれた場所です。

 

ここでは、無料の巡回バスに乗り、ロープウェーに乗りに行きましたが、ちょうど桜が満開で、車窓からピンクの花模様が眼下に広がり桜じゅうたんの上を飛んでいるよう。

 

港の傍らには一面の菜の花が咲き乱れ、カラフルな麗水の春を堪能しました。

 

韓国・麗水(ヨス)のロープウエー。眼下には見事なサクラ
韓国・麗水のロープウェー。眼下には見事なサクラ=上田英夫撮影

ラストナイトはダンスでお別れ

ル ジャック カルティエにはショー劇場があり、専属の女性ダンサーと歌手が乗っていて、歌と踊りのショータイムも開催されました。

 

ラストナイトは、ショーダンサーがメインラウンジにやって来て、素敵なダンスのパフォーマンス。

 

それを皮切りに、ダンスタイムが始まりました。

 

フランス、イギリス、ドイツ、オーストラリア、アメリカ、日本などの人々が、お別れを言いながらダンス&ダンス。

 

ラストナイトはショーダンサーのパフォーマンスでダンスナイトの幕開け
ラストナイトはショーダンサーのパフォーマンスでダンスナイトの幕開け=上田寿美子撮影

 

振り返れば、日本にいながらにして国際社会を感じた、ユニークで冒険心に満ちた日本再発見の旅でした。

 

寄港地での人とのふれあい、親切なおもてなしがありがたく、旅の魅力を一層輝かせてくれました。

 

ル ジャック カルティエの船長に日本の方へのメッセージをお願いすると「日本の皆さま、どうぞ、フランスの船からあなたの国の文化や歴史を見てください。きっと新しい発見があると思います」とのこと。

 

フランスの香り豊かに、瀬戸内海を巡り、萩や麗水も訪ねた7泊8日の春旅は、桜の花咲き乱れる福岡で終点を迎えたのでした。

 

【取材協力】ポナン https://www.ponant.jp/

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麗水(ヨス)のル ジャック カルティエ。黄色い菜の花が美しい=韓国・麗水市

生け花・雅楽・抹茶体験 ル ジャック カルティエのエキゾチックな探検クルーズ(後編)24

 

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