【以下ニュースソース引用】
仏船ル ジャック カルティエが冒険心くすぐる瀬戸内海 海中ラウンジで竜宮城気分(前編)
クルーズジャーナリスト
日本旅行作家協会会員、日本外国特派員協会会員。クルーズ旅行の楽しさを伝え続けて30年余り。外国客 …
フランスのクルーズ会社ポナンは、帆船から砕氷船まで計14隻のクルーズ船を所有し、これまで南極・北極、グリーンランド、キンバリー、タヒチなど世界各地で高級かつ本格的なエクスペディションクルーズを実施してきました。
そして今回の探検の舞台は、日本の瀬戸内海。
神戸を出港し、明石海峡大橋をくぐり、日本人でもあまり訪れたことのないユニークなコースの旅に出発です!
■連載「上田寿美子 クルーズへの招待状」は、クルーズ旅の魅力や楽しみ方をクルーズライターの筆者がご紹介します。
ボートで犬島上陸 アートの島で「巨大犬」と対面
今回乗船したのは、ポナン社の客船「ル ジャック カルティエ」。
フランスの探検家ジャック・カルティエが船名の由来で、2020年に就航した総トン数9,900トン、全長131メートルの客船です。
このクルーズの乗客は約180名。
うち日本人乗客は12名。
そのほかフランス、ドイツ、オーストラリア、アメリカ、スイスなどから来た国際的な顔ぶれでクルーズは進んでいきました。
2日目は最初の上陸地・犬島。瀬戸内海に浮かぶ岡山市の島ですが、ここでは、沖に泊めたル ジャック カルティエからスタッフが操船する硬いゴムでできたゾディアック社製のエンジン付きボートに乗り移り、上陸する方法がとられました。
そのために乗客全員が、事前にゾディアックの乗下船方法やライフベストの着け方等々の講習を受け、サインをした人だけが上陸できるというシステムになっています。
また、乗客は色別のグループに分けられ、ゾディアックに乗る順番が決まっていきます。
この上陸方法は、南極や北極クルーズでもほぼ同様に行われているので、ここで経験しておけば、今後初めて極地クルーズへ行く人にも、役立つに違いありません。
犬島は岡山市唯一の有人離島で人口は36人(令和2年国勢調査)。
「犬島音頭」が流れ、島民の皆さんが日本、フランス、英国などの国旗を振る歓迎ムードの中上陸すると、傘踊りも始まりました。
犬島は、集落とアートが共存するめずらしい島。
なかでも「犬島精錬所美術館」は、島に残る銅精錬所の遺構を保存、再生した美術館で、自然エネルギーを利用した三分一博志氏の建築、日本の近代化に警鐘を鳴らした三島由紀夫をモチーフにした柳幸典氏の作品などで構成されています。
さらに、集落に点在するアートを見ながら島を巡ると、突如、「ホッピーバー」の看板を発見。
ル ジャック カルティエの乗客のためだけに店を開けた半日限りのバーで、この日のために作られたカクテル「春」を注文。
収穫時期を迎えた犬島のキンカンとグランマニエとホッピーを合わせた貴重な味わいを楽しみました。
バーを出ると、島民の男性から「大きい犬を見に行くといいよ」と声を掛けられました。
犬島にいる大きい犬とは何だろう? と進んで行くと、海のそばで、家からはみだすほど巨大な犬のアートに遭遇。
外国の乗客たちも、ユーモアあふれる作品に笑いながら写真を撮っていました。
海を走るレストランでアラン・デュカスの味覚を
ところで、ジュール・ヴェルヌ作『海底二万里』は、潜水艦ノーチラスやネモ船長が登場するフランスの代表的海洋冒険小説。
これにちなみ、ル ジャック カルティエの4階のレストランはル・ノーチラス、3階のグリルはル・ネモと名付けられています。
船上の料理を監修しているのは、著名なミシュランシェフのアラン・デュカスが運営する「デュカス・コンセイル」。
ある日の夕食メニューに、フランス料理のキノコのクリームスープや、フォアグラのピーチ添えに加え、お好み焼きを発見。
以前、ポナンの船にはアラン・デュカスのレシピで作ったお好み焼きがあると聞いていたので注文してみました。
特徴はキャベツ少なめのエビ入りで、上にはかつお節がかかり、生地は薄く、さっぱりとした軽い味わいでした。
3階のグリルは、プールサイドにあるオープンエアレストラン。
ランチタイムには、シェフが鉄板で日替わりのスペシャル料理を焼き上げてくれます。
ホタテのソテー、焼き鳥、そして、瀬戸内にちなんで鯛(たい)のソテーが出た日には、島々の織り成す絶景を望みながら、鯛とシャンパンで乾杯!
ポナンのクルーズでは、シャルル・エドシックのシャンパンをはじめワインやカクテルなどの基本的な飲み物が乗船料に含まれているのもうれしい点です。
鞆の浦で居合道と対潮楼の絶景
3日目の午前中は、広島県福山市の鞆の浦。
古くから潮待ち港として知られ、大伴旅人も万葉集で鞆の浦にまつわる歌を詠んでいます。
ゾディアックに乗り、いにしえの船乗りや旅人が訪れた目線で、江戸時代から海を守り続ける常夜灯や雁木(がんぎ)を正面に見据え、海から上陸しました。
鞆の浦では、ル ジャック カルティエの乗客用に特別イベントが各所で開催されているので、マップをもらい自由散策に出発しました。まず、訪れたのが商家建築の代表格・太田家住宅。
江戸時代より鞆の浦で造られた薬用酒「保命酒」の蔵元だった建物で、1991年には国の重要文化財に指定されました。
内部に入ると、たくさんのひな人形飾りに、4種の保命酒の試飲。
そして、琴や尺八の歓迎演奏。全13棟(うち重要文化財指定は9棟)からなる広さと、凝りに凝ったデザインに鞆の浦の豪商の繁栄ぶりがしのばれました。
さらに、福山市役所鞆支所の2階では「居合道」の実演。
礼法から始まり「諸手(もろて)突き」「三方切り」など五つの形の演武を見学。
真剣を使った演武の迫力と、鍛錬された動きにメキシコやフランスから来た乗客たちからも拍手喝采が涌き起こり、演武後には神妙な面持ちで刀を見せてもらっていました。
続いて、細い石畳を上り福禅寺対潮楼へ。
1711年、ここに立ち寄った朝鮮通信使・李邦彦(イ・パンオン)が「日東第一形勝(日本で一番美しい景勝地)」とたたえた絶景が待っていました。
窓枠を額縁に見立て、その向こうに広がる朱塗りの弁天堂が建つ弁天島や、悠然と横たわる仙酔島などが織りなす風景は悠久の天然絵画。
しばらくの間、正座をして見ほれてしまいました。
いったん船に戻りランチを楽しんでいる間に、ル ジャック カルティエは尾道沖に移動。
今度はこの船のテンダーボートに乗って、尾道に上陸です。
尾道の国宝・浄土寺でお守り作り
尾道の浄土寺は聖徳太子が開祖といわれ、国宝の本堂と多宝塔、多数の重要文化財がある名刹(めいさつ)です。
3日目の午後は船のツアー「浄土寺お守り作り体験」に参加。外国人客には船から通訳が同行してくれる点も親切です。
浄土寺につくと、お茶とお菓子のおもてなしを受けながら、お守り作りの方法を聞きました。
その後、中に入れる木札、ひもと、たくさんあるお守り袋の中から一つを選び、お守り作りの開始です。
祈りを込め「オンマカキャロニキャ ソワカ」とご真言を唱えながら内札を袋に入れ、ピンセットを使って袋にひもを通し結びあげたものを副住職さんに預けると、その後全員で国宝の本堂へ移動。
ここで祈祷(きとう)していただき、はじめてお守りに仏様の力が込められました。
さらに、この体験の興味深い点は、お守り作りだけではありません。
本堂にある1316年に制作された太鼓をたたかせてもらい、700年以上の歴史ある響きを体感したほか、重要文化財の方丈に案内され、高貴な方のみが入れるとされた上の間に入れていただき、藤井松林作の襖(ふすま)絵を近くで見た上に、赤い毛氈(もうせん)を敷き記念写真まで撮ることができたのです。
浄土寺の副住職さんの丁寧なご案内により、まさに、国宝の寺で珠玉の体験となったわけです。
そして、帰り道には尾道の千光寺公園にできた新展望台PEAK(ピーク)へ。
全長63メートルの橋状の展望デッキから尾道水道を見下ろすと、遠く瀬戸内海にはル ジャック カルティエの姿が。
5分咲きの桜模様も美しく、瀬戸内の春の勢いを感じます。
そして、港に戻ると名物・尾道ラーメンのふるまい。
外国の乗客たちと一緒に熱々のラーメンをすすれば、体もぽかぽか。
尾道の国宝、歴史、文化、自然そして味覚を堪能した半日となりました。
ここは竜宮城? 神秘的な海中バーラウンジ
ところで、ル ジャック カルティエで一番特徴的な施設と言えば、ブルーアイ。
1階にあるバーラウンジなのですが、その位置は海の中。
そして青い瞳のようにあいたガラス窓から、瀬戸内海の海中の様子が見えるのです。
某夜、ブルーアイに行き、青いオリジナルカクテル「ブルーアイ」を飲んでいると、目の前の窓に大きな魚が登場。
右から左に悠々と泳いでいくと、今度は2匹になって戻ってくるなど、その様は、まさに竜宮城のよう。
バーテンダーによれば「あの魚はきっとスズキ」とのことで、タイやヒラメの舞い踊りならぬ、スズキの舞い踊りを不思議な海中バーで楽しみました。
この後、ル ジャック カルティエは国際色豊かな乗客を乗せ、御手洗、下蒲刈など、日本人にもめずらしい地を巡り旅を続けていきます。
果たして、どんな出会いや探検が待っているのでしょうか。
■後編へ続く
【取材協力】 ポナン https://www.ponant.jp/
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