【以下ニュースソース引用】

秘密の階段から東山を一望。精進料理の朝食とともに楽しむ「旧三井家下鴨別邸」

ESSAY

 

大橋知沙

大橋知沙

 編集者・ライター

東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWE …

 

津久井珠美

津久井珠美

 写真家

大学卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至 …

 

 

新緑まばゆい庭園、大文字山を見渡す眺望、丁寧に作られた精進料理の朝食。

 

こんなぜいたくな条件がそろった重要文化財の日本建築が、下鴨神社・糺(ただす)の森のほとりにあることをご存じでしょうか?

 

  「旧三井家下鴨別邸」は、江戸時代より続く豪商・三井家の別邸として、1925(大正14)年に完成した屋敷です。

 

こちらの主屋で庭園を眺めながら精進料理の朝食をいただいた後、通常非公開の3階望楼に上がることができる催しが毎月開催されています。

 

庭園は四季折々の表情を見せますが、私のおすすめは初夏のころ。

 

 

糺の森や東山のみずみずしい緑が借景となり、心も体もリフレッシュできます。

 

京都から毎月、季節の便りを出すように。連載京都ゆるり休日さんぽ」では、いま訪ねたい今昔の人気店、季節の味覚や風景を、さんぽのみやげ話とともにお届けします。

絶景はステータス。歴史と文化を伝える屋敷

秘密の階段から東山を一望。精進料理の朝食とともに楽しむ「旧三井家下鴨別邸」
庭園向きの建具はすべてガラス戸が用いられ、どの階からも庭が眺められる

 

「旧三井家下鴨別邸」の建つこの場所は、かつて三井家の祖霊社・顕名霊社(あきなれいしゃ)が隣接し、別邸はその参拝時の休憩所として建築されました。

 

一面のガラス戸や縁側から庭園を望む主屋は、それまで木屋町三条にあった当主の隠居所を一度解体し、間取りや建具もそのままに移築したもの。

 

眺望を楽しむためだけに造られた3階望楼も木屋町時代からあり、当時は鴨川岸からの景色を眺めることができたそうです。

 

秘密の階段から東山を一望。精進料理の朝食とともに楽しむ「旧三井家下鴨別邸」
1階座敷からの眺め。取材時は若葉が芽を出していた

 

「こちらに移築後は住居としてではなく、来客を招き、接待する目的で使用されることが多かったようです。

 

座敷に座った視点から庭を眺めると、一番きれいに見えるように設計されています。

 

高い階層からの望楼は、その時代の豪商にとってステータスだったみたいですね。

 

重客(おもきゃく)を眺望でもてなしていたのでしょう」

 

秘密の階段から東山を一望。精進料理の朝食とともに楽しむ「旧三井家下鴨別邸」
主屋縁側の脇にしつらえられた手水鉢。奥には主屋が移築される前からある江戸後期の茶室がある
秘密の階段から東山を一望。精進料理の朝食とともに楽しむ「旧三井家下鴨別邸」
座敷では大きな茶会が開かれることもあり、ふすまの奥に水屋が設置されていた

 

そう話すのは、マネージャーの有元泰大(やすとも)さん。

 

別邸は1949(昭和24)年には国に譲渡され、現在は重要文化財として大正期までの屋敷構えを伝える貴重な資料となっています。

 

近代日本の経済界の要人が愛(め)でた屋敷や庭、京都の景色を、時を超えて現代の私たちが眺め、味わう。

 

そのきっかけの一つとなっているのが、予約制の食事プランです。

精進料理の朝食の後は、非公開の望楼へ

秘密の階段から東山を一望。精進料理の朝食とともに楽しむ「旧三井家下鴨別邸」
3階望楼見学付き朝食プラン(3,500円、別途入館料平日500円・土日祝600円、いずれも税込み)は週約3回のペースで開催。WEBにて要予約

 

朱塗りのうつわに色とりどりに盛られたのは、大徳寺御用達の仕出し料理店「泉仙(いずせん)」の精進料理。

 

朝食プランでは、開館間もない静かな時間帯に、2階座敷でゆっくりと庭園を鑑賞しながら朝食を楽しむことができます。

 

「ひょうたん」をかたどった庭園の池や下鴨神社の参道など、周辺を俯瞰(ふかん)して眺められるのも2階席ならでは。食事が終わると、通常非公開の3階望楼へと案内していただけます。

 

ここで、有元さんから意外な一言が。


「3階に続く階段はどこにあると思いますか?」

 

秘密の階段から東山を一望。精進料理の朝食とともに楽しむ「旧三井家下鴨別邸」
2階座敷に食事席が設けられる

 

改めて座敷を見回すと、1階から2階へと上がってきた階段に続きはなく、上階への階段はどこにも見当たりません。

 

「食事の後にみなさんにお聞きするのですが、色々な想像をしていただけて楽しいです」と有元さんは話しながら、「とある場所」から3階への階段を案内してくれました。

 

秘密の階段の場所はぜひ、訪れた時のお楽しみに。

 

思いがけない仕掛けにワクワクする一方で、激動の時代をくぐり抜けてきたこの建物と人々の歴史に思いをはせずにはいられません。

 

秘密の階段から東山を一望。精進料理の朝食とともに楽しむ「旧三井家下鴨別邸」
2階から庭園を見下ろすと「ひょうたん型」の池がよくわかる
秘密の階段から東山を一望。精進料理の朝食とともに楽しむ「旧三井家下鴨別邸」
大正ガラス越しに見た庭園。独特のゆらぎは現代のガラスにはない味わい

 

階段を上がった先の望楼は、わずか3畳半ほど。

 

コンパクトな部屋の四方すべてにガラス戸をしつらえ、360度の眺望を実現しています。

 

引き戸の雨戸を設置すると、全方位開けた空間を実現することができないため、下から上に引き上げる仕掛けの雨戸が仕込まれているのだとか。

 

五山送り火の大文字も、下鴨神社の一の鳥居も見渡せる、まさに眺めを楽しむためだけのぜいたくな空間です。

 

街の様相は変われど、100年前の三井家の人々や客人も同じ景色を眺めていたと思うと、不思議な気分です。

 

秘密の階段から東山を一望。精進料理の朝食とともに楽しむ「旧三井家下鴨別邸」
3階望楼からの眺め。比叡山や大文字山が見渡せる

 

招かれた人々との縁をつなぎ、美しい景色と四季のうつろいでさまざまな人の心を動かしてきたであろう「旧三井家下鴨別邸」。

 

限られた人々のみが入ることを許されていた空間は今、広く開かれ、私たちにいやしと文化を伝えてくれています。

 

【取材協力】旧三井家下鴨別邸 https://ja.kyoto.travel/tourism/article/mitsuike/

 

 

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