【以下ニュースソース引用】
「職場のうつは診察室でなく職場で起きている」問題解決に医師だからこそできる“医学と法律のハイブリッド診断書”を
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中日を含めると10日間にも及ぶ大型連休となったゴールデンウィークが明け、なかなか頭が仕事モードに戻らない人もいるのではないだろうか。
なかには、連休をきっかけに仕事への憂鬱感が増し、気分の落ち込みが激しくなるなどのいわゆる“5月病”に見舞われている人もいるかもしれない。
ビジネスパーソンの誇りにかけて与えられた職務をまっとうすることは大切だが、その資本となる身体を壊してしまっては元も子もない。
精神科・心療内科の医師は、仕事における精神状態の悪化に対し、どのように働きかけてくれるのだろうか?
2023年8月16日に掲載した『「職場のうつ」は診察室でなく、職場で起きている』を再掲する。
「事件は会議室で起きているんじゃない。現場で起きているのだ。」
『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998年)の名セリフは、「職場のうつ」にもあてはまる。
「職場のうつ」は、診察室で起きているのではない。職場で起きているのである。
したがって、診察室で「治療」と称するごまかしを試みても、何の解決にもならない。
メンタルクリニックで行われていることは、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(抗うつ薬)を出すか、休息・休職を勧めるか、癒しのカウンセリングを行うかであろう。
しかし、「職場のうつ」は、セロトニン・リセプターで起きていない。
職場で起きている。
したがって、リセプターにおいて再取り込みを阻害しても何の意味もない。
職場におけるうつの原因を取り除かなければ、解決にならない。薬が、職場の問題を取り除けるはずがない。
同じことは、休息・休職にもいえる。
抗うつ薬が「職場のうつ」の原因を除去しないのと同じく、休息・休職もまた、原因を除去しない。
「職場のうつ」の原因は、職場にあるのだから、職場にもどれば、そこに原因が残っている。
「職場のうつ」に抗うつ薬などごまかしにすぎないが、休息・休職も同じである。
それらは、あくまで一時しのぎである。職場のストレスを除去しなければ、解決にならない。
カウンセリングの場合、カウンセラーたちは「傾聴して、支持して、共感せよ」と教育されていて、職域に関連した教育を十分には受けていない。
「職場のうつ」については、職域の問題に特化した助言・指示・指導が必要だが、カウンセラーは具体策の提示については消極的である。
当事者からすれば、メンタルクリニックで出会う人々は、弥縫策しか講じない無力な存在にすぎない。
皆、「どうする家康」状態で、手をこまねいているだけである。
診断書による意見申述1「働き方改革関連法」への言及
「職場のうつ」については、その本質は狭義の精神医学的問題ではない。
むしろ、使用者の安全配慮の問題である。
医師としては、当該労働者のこころの健康問題が使用者の責任の埒内と思われれば、その旨を使用者側に注意喚起すればよい。
発生の現場は職場にあるのだから、責任者にその原因を除去させればいいのである。
なお、免責事項を記しておく。
下記診断書文例は、あくまでサンプルであり、実在する個人に直ちに適用できるものではない。医師らが当資料を利用する際は、利用者の責任で当該患者に合わせた変更をお願いする。
この記事の筆者は、利用者が当資料の情報を用いて行う一切の行為について、何らの責任も負うものではないので、御了承いただきたい。
この診断書の例では、現状でもすでに働き方改革関連法・労働基準法違反である。
この点を使用者に注意喚起すれば、穏やかな表現であっても、診断書の持つ効力は抜群であり、会社側は動いてくれる。
会社側の動きが遅い場合、診断書第2段を出す。その場合、付記欄に「時間外労働が月45時間を超えると心臓・脳血管障害等発症のリスクが高まるとされております」と記すのもいい。
この記述を無視して使用者が過重労働を継続させ、それで実際に心・脳疾患が発症した場合、労働災害が認められうる。
あるいは、「すでに時間外労働が月45時間を超えており、事業主には罰則が発生しますが、本人は事態の解決を労働基準監督署に委ねる意思はなく、社内での穏便な解決をこそ希望しております」と追記するのもいいであろう。
要は、最初の診断書で会社が動かなければ、二の矢三の矢を打つ。
その場合、付記欄の記述を徐々に強めていくのである。
診断書による意見申述2『パワーハラスメント対策マニュアル』への参照
このケースのように、本人の経歴に不均衡な業務を課せられている場合がある。
一流大学出身で、長く本人にふさわしい知的な業務が与えられていたのに、ある日を境に単純作業ばかりを指示されるなどである。
本人に何らかの落度があって、期間限定の制裁措置として行われる場合もあれば、退職へと追い込むための心理作戦の場合もある。
後者の場合、しばしば、窓もない、同僚の誰一人いない狭い一室を与えられることもある。
俗に「追い出し部屋」と呼ばれる。
いずれにせよ、それはハラスメントに該当する。
そこで、この診断書は厚生労働省の『パワーハラスメント対策マニュアル』への参照を促している。
第一弾で反応が悪ければ、二の矢三の矢を打つのも、前回同様である。
このような患者が受診したとき、メンタルクリニックの医師が軽率にも「要休職」の診断書を書けば、最悪の結果を招く。
不調の原因は職場のハラスメントにあるはずなのに、ここで乙野氏が休職してしまえば、「私傷病」と見なされる。
「私傷病」とは、自己都合による労務提供不能にすぎず、会社は休職を「解雇猶予」と位置付け、休職事由消滅(治療)を本人の自己責任に帰す。
加えて、乙野氏自身が復職を希望しても、事由消滅を乙野氏自身が証明しなければならず、証明不十分と事業者が判断すれば、復職命令は出ない。
復職命令が出ないまま、就業規則上の解雇猶予期間が終了すれば、それで労働契約終了となり、「自己都合退職」となる。
結果として、「追い出し」が完了し、かつ、すべては乙野氏の「自己都合」とされる(井原裕:「実は怖い『メンタル不調の自宅療養』 休職は解雇猶予」を参照のこと)。
休職という軽率な処置の結果、会社の思うつぼにはまるのである。
医学と法律のハイブリッドには説得力がある
法学者の三柴丈典氏は、「……昨今創設された健康管理に関する制度では、(厚労省は)事業者への意見の申述を好例として、医師の医学的知識や技能そのものというより、信頼性に基づく説得力を重視しているように思われる」(三柴丈典:法律論者から見た産業医の今とこれから。
平成30年度第8回日本産業医協会研修会))と述べている。
医学と法律は、現代社会では最も信頼のおける専門知識とされる。
したがって、この両者を組み合わせて、適切な意見申述を行えばいい。
医師の役割は、診断だけでも、処方だけでもない。
こころの健康の専門家の視点で、説得力をもって、企業に対して発言することもまた、含まれるであろう。
「職場のうつ」は、診察室で起きているのではない。職場で起きているのである。
職場で起きているのだから、責任を負うべきは使用者である。
本稿では、働く人のメンタル不調を、個人の病理に帰して、診察室のなかで弥縫策を講じるのではなく、むしろ、発生の現場たる職場に返して、ストレス因自体を根本から除去する方策を考えてみた。
具体的には、使用者宛て診断書を駆使して、主治医の立場から、安全配慮義務への注意喚起を行うものである。
井原 裕
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