【以下ニュースソース引用】

人口のおよそ14%「境界知能」は知的障害と何が違うのか…複雑な内容の文書を扱う活動などでは強いストレスを感じることも

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集英社オンライン

知的障害と発達障害の子どもたち #3

写真はイメージです

 

軽度知的障害と境界知能とは指標のひとつとされているIQではどのような数値になるのか。

 

そしてそもそもの原因とは?

 

 書籍『知的障害と発達障害の子どもたち』より一部抜粋・再構成し、境界知能の子どもたちが抱えるリスク、最新の行政支援の実態をレポートする。

 

  【図】知的障害・境界知能の分布図

知的障害の原因

知的障害には大きく3つの要因がありますが、ほとんどは、次の(1)特発性要因に該当します。

 

特発性というのは、原因が特定できないということです。

 

 (1)特発性要因

 

 特に基礎疾患がなく、知的機能が低い場合です。

 

「生理的知的障害」と呼ばれることもあります。

 

多因子遺伝などの関与が考えられています。

 

知的発達症の75%程度が該当し、重症度は軽度の場合が多いです。

 

   (2)病理的要因

 

 染色体異常や先天性代謝異常、出産前後の感染症、中毒、脳外傷などが要因となっている場合です。

 

「病理的知的障害」と呼ばれることもあります。

 

知的障害と、病理的な要因の両方への対応が必要となります。

 

 (3)心理社会的要因

 

 養育環境になんらかの問題があり、学習機会が不足している場合です。

 

極端な例ではありますが、生後まもなく人間社会から隔離されてしまった野生児などが該当します。

 

 基本的には、育て方によって知的障害が起きるということはありません。

 

(3)心理社会的要因には養育環境も関連しますが、これはかなり極端な例です。

 

子どもに知的障害があることがわかったとき、「乳幼児期の育て方に何か問題があったのでは」と悩む方もいますが、そのような責任を感じる必要はまったくありません。

 

 なお、知的障害の多くは、(1)特発性要因で原因は不明ですが、(2)病理的要因が関わっている場合もあるため、医療機関にかかることが大切です。

知的障害と「境界知能」はどう違う?

次に、境界知能について説明します。

 

境界知能は「軽度知的障害よりも少しIQが高い状態」ですが、知的障害とはどう違うのか、ここでもう少しくわしく解説しましょう。

 

 境界知能とは、知的機能が「知的発達症」と「正常知能」の境界域にある状態です。

 

 すでに述べた通り、現在は知的機能をIQだけで判断することはありませんが、目安としては、知的機能の標準偏差(平均値との差、1標準偏差は15)が2低い(30低い)場合を知的障害、1低い(15低い)場合を境界知能と考えることが一般的です。

 

 偏差IQでは平均100、1標準偏差が15なので、おおよその目安として70未満が知的障害、70以上85未満が境界知能に該当すると考えられています。

 

この基準から言えば、偏差IQ85以上は正常知能ということになります。

 

 標準偏差というのは、統計的な考え方です。理論的には、標準偏差が2低いグループは全体の2.3%となります。

 

標準偏差が1低いグループは全体の13.6%です。

 

これは知能検査に限らず、標準偏差を測るすべての検査に共通します。

 

標準偏差を測る検査は、結果がその割合で正規分布するようにできているのです。

 

 ですから、偏差IQを基準として考えた場合には、理論値としては、人口のおよそ14%の人が境界知能に該当することになります。

 

境界知能は問題になり得る

境界知能はDSMやICDで、病気・障害とは位置付けられていません。

 

境界知能は診断名ではないのです。

 

 DSMの最新版では、境界知能は「臨床的関与の対象となることのある他の状態」という項目のなかで解説されています。

 

これはつまり、病気や障害ではないけれど、場合によっては診療の対象になるということです。

 

 境界知能の人は基本的には、明らかな不適応を起こすことなく、社会生活を送っていけると想定されています。

 

しかし、心理的な負荷がかかった場合や、他の発達障害との重なりなどによって、精神医学的な問題が起きる可能性があり、いわばハイリスク群として位置付けられているのです。

 

 実際に、境界知能の状態にある人たちは、子どものときも、大人になってからも、一定の知的機能が要求されるような活動に取り組むとき、困難を感じることがあります。

 

例えば複雑な内容の文書を扱う活動などでは、強いストレスを感じるかもしれません。

 

 本人の知的機能と、周囲から要求される知的機能の間にギャップがあるときには、生活上の支障が出る可能性があります。

 

境界知能は、そのような可能性が想定されるハイリスクな状態だということです。

境界知能でも、生活上の支障があれば支援を受ける

境界知能に自閉スペクトラム症やADHDが併存している場合、知的機能に関連する困難だけでなく、対人関係や集中力に関連する困難も生じてしまうことがあります。

 

その結果として、生活上の支障が出てくる場合もあります。

 

その場合はIQの数値だけにとらわれず、総合的な診断を行わなければなりません。

 

 私は以前、横浜市の医療機関に勤めていましたが、当時、横浜では医療と行政が連携し、そのようなケースを軽度知的障害と同等の状態だとみなして、療育手帳を交付することが行われていました。

 

 正常知能の人に手帳が交付されるようなことはありませんでしたが、例えば偏差IQが80くらいの場合でも軽度知的障害と判定され、早期支援につながることがありました。これは医学的には妥当な判断だと言えます。

 

 横浜市以外にも、そのように柔軟な判断を行っている地域があります。

 

すでに述べたように、ICDやDSMでもIQは目安に過ぎないことが示されていますから、今後はIQにとらわれない判定が一般的になっていくのではないでしょうか。

 

 イラスト/書籍『知的障害と発達障害の子どもたち』より 写真/shutterstock

 

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  本田秀夫(ほんだ ひでお)

 

 信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長。長野県発達障がい情報・支援センターセンター長。特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事。 精神科医。医学博士。1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、1991年から横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授。2023年より長野県発達障がい情報・支援センターセンター長。発達障害に関する学術論文多数。日本自閉症スペクトラム学会会長、日本児童青年精神医学会理事、日本自閉症協会理事。 著書に『自閉症スペクトラム』『発達障害生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』『子どもの発達障害』『学校の中の発達障害』(以上、SB新書)などがある。

 

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本田秀夫

 

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