【以下ニュースソース引用】
山形・庄内に現れた! 「最先端」の地産地消パン/ベーカリーディレクト
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![池田浩明](https://www.asahicom.jp/and/data/wp-content/uploads/2019/04/480ikedahiroaki.jpg)
「パンラボ」主宰
ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰。日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッド …
地元産小麦や米粉から湧いたインスピレーション
山形県庄内地方は、だだちゃ豆、さくらんぼ、そしておいしいお米で知られる。
最近知名度を上げているのが、「日本ご当地ラーメン総選挙」で日本一に輝いた酒田ラーメン。
大正時代以来の歴史を持ち、デフォルトが自家製麺という珍しいこだわりを持つ。
だが、多加水のぷりぷり細麺に合うのはタンパク質の量が多い北米産小麦。
地元の小麦でラーメンを打つ伝統はない。
そんな庄内で、小麦の生産も米に押され途絶えていたが、近年、山形大学や農業者、地元飲食店が結集した「庄内スマート・テロワール構想」が庄内小麦の地産地消に取り組んでいる。
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その旗振り役を担うのが、ワンタンが人気のラーメン店「花鳥風月」の佐藤勇太店主。
ラーメンを作る合間に、小麦畑におもむいたり、飲食店をまわったりと庄内小麦の普及に努める。
酒田市のベーカリーディレクトを訪れたのもそんな理由。
月山高原で叶野幸喜さんの栽培するナンブコムギの全粒粉を、ベーカリーディレクトの森源輝(げんき)さんにすすめるためだった。
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ベーカリーディレクトは2023年6月、酒田市にオープンした新進気鋭の店だ。
森さんは埼玉県出身、パン屋の2代目で、山形県にはなんのゆかりもない。
酒田にやってきた理由、それはただ居抜き物件があったから、というにすぎない。
妻の朱音(あかね)さんにも背中を押され、見ず知らずの町でパン屋をはじめた。
自らのインスピレーションに基づき、オリジナルのパンをディレクトする(作り上げる)というのが店名の由来。
高加水、高温度帯で熟成した先端的なパンを独学で追求してきた。
そんな森さんが、店を訪れた佐藤さんにナンブコムギを手渡され、燃えた。
いきなりインスピレーションが降ってきた。
作るのは、農民のパンを意味する「パンペイザン」だと。ナンブコムギという中力品種(うどんなどに向くタンパク質が少なめの小麦)に水分を100%以上も加えるのは、かなり向こう見ずな挑戦だ(北海道産「キタノカオリブレンド」35%をブレンド)。
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できあがったのは、水と小麦が結晶したかのような「南部小麦のパンペイザン」。
ふるふると舌の上で揺れ、ちゅるりと甘く溶ける。
水分で薄まって小麦の風味は弱くなりそうなものだが、ナンブコムギならではの、清々(すがすが)しい木のような香りがどっしり太いコクとなって、古民家の梁(はり)のように甘さを支えている。
ひとつのパンになんと惜しみなく時間を使うことか。
焼き上げの前々日、自家培養したルヴァン種から水分の多い種“ルヴァンリキッド”を作り上げ、18度という酵素が活発に働く温度(一般的な冷蔵での熟成に比べ)で18時間、ナンブコムギを醸す。
翌日それを他の材料とともに捏(こ)ね、さらに一晩熟成させ翌々日に焼き上げる。
この時間がナンブコムギを“結晶化”させるために必要なのだ。
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この生地を派生させ、週替わりで作られる「フリュイ」。
たとえばノアレザンに使用されるレーズンには、レーズンを白ワインに1週間漬け込む。
リアルにマスカットを嚙(か)んだようにブドウジュースが噴き出すじゅわーに、小麦ジュースのじゅわーまで合流、ミックスジュースが口の中でできあがる。
まるで、小麦と水に加え、さらにブドウまでをも結晶化させたように。
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ディレクトという名のパン創生は小麦に尽きない。山形県産「はえぬき」の米粉に触れたとき、降ってきたインスピレーションが「はえぬきクロワッサンα」。
小麦とちがって米粉がグルテンを持たないことを逆手に。
ざくざく割れることがなにより大事なクロワッサンに、パンを支える鉄骨の役割であるグルテンは最小限でよいはずだと。
割り出したバランスは米粉80%にグルテン20%。
まるでごはんを炊くように、米粉に熱湯を加え、湯種を作る。
この製法もクロワッサンとしては掟(おきて)破りだ。
ほろほろと繊細な割れ。中身はぎゅっと沈んだかと思った瞬間、あえなく口の中に散る。
お米がバターに合うの?
疑問は氷解、ばっちり合う。
小麦以上に甘さがクリアなだけに、意外にもバターの風味が映えるのだ。
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「チャバッタ」には、愛用する北海道産小麦「キタノカオリブレンド」(アグリシステム)の他、庄内産ゆきちから(小川製粉)を加える。
グルテンが弱く、もちもちしないゆきちからの10%が、キタノカオリのもちもちに歯切れを与える。
この高加水もっちりチャバッタを派生させて作り上げるのが「クレッセントチャバッタ」。
先端部分のぼりぼりと、中身のもっちりのコントラスト。
さらには、舌先をちゅるちゅるとくすぐるオリーブオイルのせせらぎと、皮目にある炎のような香ばしさにも想定外のコントラストがある。
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Instagramでバズりそうな“映え”デニッシュが人気。
「クルミとベリーのチョコレートデニッシュ」は、チョコクリームの激流とろとろ。中からチョコチップこりっ、デニッシュ生地のばりばりと響き合う。
フランボワーズソースの酸味は冴え、ややあって、時限爆弾のようにオレンジリキュールがまろやかに滲(にじ)んで、快楽のステージをマックスへと導く。
縁もゆかりも、いや訪れたことさえなかった庄内にやってきた理由に、森さんは気づきはじめている。
パンという“メディア”は地元産素材のおいしさを伝えるのにうってつけだと。
「こんなにおいしい小麦が地元にあるってことを広められたら」
落下傘のようにいきなり落ちてきた最先端のパンが、庄内の人たちの食生活や農業さえディレクトする未来を祈りたい。
山形県酒田市駅東2-2-10
10:00 ~16:00 (売り切れ終了)
月火休及び不定休
フォトギャラリーへ(写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます)
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