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不登校「数を減らす意味はない」慶応大学教授が語る根拠 「引き裂かれた社会」を変えていくために大事な視点

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東洋経済オンライン

2022年度の不登校児の数は過去最多に(写真:Graphs/PIXTA)

 

財政社会学者の井手英策さんは、ラ・サール高校→東京大学→東大大学院→慶應義塾大学教授と、絵に描いたようなエリート街道を進んできました。

 

が、その歩みは決して順風満帆だったわけはありません。 

 

貧しい母子家庭に生まれ、母と叔母に育てられた井手さん。

 

勉強机は母が経営するスナックのカウンターでした。井手さんを大学、大学院に行かせるために母と叔母は大きな借金を抱え、その返済をめぐって井手さんは反社会的勢力に連れ去られたこともあります。

 

それらの経験が、井手さんが提唱し、政治の世界で話題になっている「ベーシックサービス」の原点となっています。

 

勤勉に働き、倹約、貯蓄を行うことで将来不安に備えるという「自己責任」論がはびこる日本。

 

ただ、「自己責任で生きていくための前提条件である経済成長、所得の増大が困難になり、自己責任の美徳が社会に深刻な分断を生み出し、生きづらい社会を生み出している」と井手さんは指摘します。

 

 「引き裂かれた社会」を変えていくために大事な視点を、井手さんが日常での気づき、実体験をまじえながらつづる連載「Lens―何かにモヤモヤしている人たちへ―」。

 

第1回のテーマは不登校です。

 

■中学時代の写真が一枚もない

 

  2022年度、全国の小中学校で年間30日以上欠席する「不登校児」の数がおよそ29万9000人と過去最多になった――そんな記事を見つけて、なんとも切なく、ほろ苦い気持ちにかられた。

 

  こんな話をするのもなんだが、わが家には、私の中学時代の写真が一枚もない。

 

いや、記録だけでなく、記憶もかなりあいまいだ。

 

  どうしてかって?

 

  答えは簡単。

 

私が不登校児だったから。

 

  私は母と叔母の2人に育てられた。

 

母はスナックのママ、叔母は小さな会社に勤めていて、帰りがとても遅かった。

 

 小4のころだった。母が働くようになり、夜1人で過ごすこととなった。

 

寂しさと不安がつのったのか、突然、顔や肩にひどいチック症状が出るようになった。

 

母は、落ち着きをなくしたわが子を見て心配になったのだろう。私を店に連れて行くようになった。

 

  夜ふかしをした次の朝は辛い。

 

起きると、学校に行きたくない、とぐずったが、母はあっさりしたもので、「よかよ、休まんね」と言って休ませてくれた。

 

家に1人で子どもを置いていくか。

 

夜ふかしさせても店に連れていくか。

 

究極の2択だったが、母は子どもとの時間を選んだ。

 

 だが、母の優しさは、完全に裏目に出てしまう。

 

学年を追うごとに欠席日数は増え、卒業時には年に40日くらい欠席するようになったのだ。

 

こうして私は、不登校児の仲間入りを果たすことになった。

 

  スナックのカウンターで勉強した。

 

母の勧めで私立の中学を受けたが、あっさり落ちた。

 

恥ずかしさからか引きこもりが始まり、中学に入ると朝から晩までお菓子を食べ、マンガを読み、ただダラダラと過ごすようになった。

 

  みるみるうちに太っていった。

 

たまに登校しても、クラスメイトの冷たい目線が気になる。

 

何とかしなきゃとは思ったが、学校に私の居場所はなかった。

 

■「このままじゃ人生が終わる」吐きながら勉強 

 

 まるで負け犬のような気分だった。

 

このままじゃ人生が終わる、一生負けっぱなしなのか、そう思った私は、最後の1年間だけ、死ぬ気で勉強しようと決めた。

 

  4時間以上寝た日は1日もなかったと思う。

 

食事をしながら勉強し、お風呂でも、トイレでも、信号待ちの時間でさえも勉強にあてた。

 

  最初はそんな自分に酔いしれていた。ところが、少しずつ自律神経がおかしくなっていく。

 

真っ直ぐ歩けず、毎日、嘔吐した。

 

母は泣きながら、勉強をやめろと言った。

 

でもやめなかった。

 

どうしてもやめられなかった。

 

 うちは貧しい母子家庭で父親はいない。

 

母親の仕事は水商売。おまけに中学受験も失敗している。

 

なんとかして、そんな欠乏感だらけの人生から抜け出したかった。

 

私は、自分なりのやり方で、必死に突っ張って生きようとしていた。

 

  気の毒なのは学校の先生。完全に扱いに困っていた。

 

ある日、学年主任と担任の先生が、面談をひらき、私がクラスの雰囲気を悪くしていること、身勝手な行動は決して自分のためにならないことを、延々と母に説き続けた。

 

 まるでサンドバッグだった。

 

だが、先生の言うことは、私が聞いていても明らかに正しかった。

 

母は、目をつぶって、しょんぼりうなだれている。

 

私は私なりに命懸けだったが、子のわがままで叱られる母の姿を見るのは本当に辛かった。

 

 ■「みなさんよりも息子のことを信じています」

 

  長いお説教が終わった。母はなんと詫びるのだろう、なんと言って私を責めるのだろう、ビクビクする私のとなりで、母は声をしぼりだすように言った。

 

 「英策が休むのはみんな私の甘やかしのせいです。

 

本当に申し訳ありませんでした。

 

でも先生。

 

私はみなさんよりも息子のことを信じています」

 

  衝撃だった。私はこの一言を死ぬまで忘れない。

 

絶対に。

 

  自分が悪いことくらいわかっていた。

 

でも、どんな生きかたが正解なのか、どうやって状況にあらがえばよいのか、わからなかった。

 

ただ不安だった。

 

だから、どうしても母にだけは、私を肯定してもらいたかった。

 

  もし、母が先生と調子を合わせて私を非難しようものなら、私の心は砕け散っていたに違いない。

 

だが、母は私をかばってくれた。

 

全力で、わが子の生きかたに一本の芯を通してくれた、心からそう思った。

 

 あれから30年以上の時が流れ、私は4人の子を持つ父となった。

 

  仕事が詰まってくると、つい会話の時間が減る。いらだちもする。

 

でも、身勝手なもので、自分の仕事が休みになると、子どもたちとの時間を過ごしたくなる。

 

学校なんて休んでどっか行こうか、そんな不謹慎なことを言ったりもする。

 

  そしてふと気づく。きっと母も同じだったのだろう。

 

彼女は、ただ、私と一緒にいたかっただけなのだ。

 

あんたは四十の恥かきっ子、とよく母は言っていたが、深夜に働くスナックのママにとって、最愛の恥かきっ子と一緒にいられる唯一の方法、それは学校を休ませることだったのだ。

 

 生前、母が一度だけ、私にこう言ったことがあった。

 

  「うちはあんたから一瞬も目をはなしたことがなかったとよ」 

 

 この一言に、私が私でいられる理由のすべてが詰まっている。

 

 ■大切なのは「信じてあげる大人がそばにいること」

 

  いじめ、病気、勉強や発達の遅れ、不登校にはいろんな原因がある。

 

だけど、大切なのは、その子のことを信じてあげられる大人がそばにいることなんだと思う。

 

家族でも、コミュニティでも、施設の誰かでもいい。

 

そばにいてくれて、信じてくれて、そっと眼差しを振り向けてくれさえすれば。

 

 行きたくても行けない子。はじめから行く気のない子。

 

学校に対する価値観も、生きづらさも人それぞれだ。

 

でも、もし、その1つひとつの生きづらさと向き合わず、数字合わせで不登校児の総数を減らそうとするのなら、そんなものは、親や教育者の自己満足でしかないのではないか。

 

  もっと本気になって、大人の眼差しを感じられず、他者から信頼される喜びを感じられない子どもの数を減らしたい。

 

そんな社会を作りたいからこそ、私たち大人は、学び、知り、考え、そして、どんなに辛くても、声をあげていかなければならないのだ。

 

井手 英策 :慶應義塾大学経済学部教授

 

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