【以下ニュースソース引用】

「快感の予感」があふれていたバブル時代と「不透明な未来」が渦巻く令和時代で異なる“幸せの法則”

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ダイヤモンド・オンライン

(写真はイメージです)Photo:PIXTA

 

 「ウェルビーイング」は、1948年の世界保険機関(WHO)設立の際に考案された憲章で、初めて使われた言葉。

 

「幸福で肉体的、精神的、社会的全てにおいて満たされた状態」をいいます。

 

新しい幸せの形として用いられ、最近さまざまな場面で耳にすることが多くなりました。

 

ウェルビーイングによって私たちの暮らしがどのように豊かになるのかを解説する『ウェルビーイングの新潮流』第5回は、「不適切発言」で話題になったあのドラマを題材に、昭和と令和の幸せのあり方について考えます。

 

 ● コンプラで縛られた令和の人たちが 昭和のダメおやじの不適切発言でかき回される 

 

 2024年1月からスタートして、3月29日に最終回が放送された、宮藤官九郎氏脚本のTBSドラマ「不適切にもほどがある!(ふてほど)」は昭和のダメおやじの「不適切発言」が令和の停滞した空気をかき回すタイムスリップコメディです。

 

  毎回その過激な内容が放送直後から多くのネットニュースやSNSで取り上げられ、賛否両論が巻き起こり「ふてほど」は大きな社会現象となりました。

 

  阿部サダヲ演じる主人公・小川市郎は、言葉遣いが荒い中学の体育教師。

 

ひょんなことから、バブル時代の1986年から2024年の現代へタイムスリップしてしまうという設定です。

 

  コンプライアンス意識の低い“昭和のおじさん”の市郎から、令和では“不適切”とされる発言が次々飛び出します。

 

そんな市郎の過激な極論が、コンプラで縛られた令和の人々に考えるきっかけを与えていくという内容で、不適切な表現についての注意を喚起する注釈テロップが毎話何度も挿入され、終盤にミュージカルシーンが挿入されるなど、クドカン(宮藤官九郎)らしいそのオリジナリティーあふれる演出も大きな話題となりました。

 

  人々がコンプラに縛られることなく自由に生きられたバブル時代は、今より幸せだったか?このドラマはそんな大きな問題提起を社会に投げかけました。

 

● 日本は去年より順位を下げて 「幸福度」は137カ国中51位

 

  毎年3月20日は「国際幸福デー」として、幸福が世界中の人々の共通目標かつ願いであることを認め、すべての人の幸福とウェルビーイングを推進するため、貧困のない、公平で持続可能な循環型経済成長の必要性についても訴える、「幸福とは何か」について考える日です。

 

  世界の国や地域の「幸福度」をランキングにした「世界幸福度報告書」は、国連の関連組織などが中心となって世論調査を行い、直近の3年間で得られた回答を基に、世界の国や地域の「幸福度」をランキングにしたものです。

 

  今年発表された2024年の報告書によると、フィンランドが7年連続で1位となったほか、2位にデンマーク、3位にアイスランドが続き、福祉や教育が充実している北欧諸国が上位を占めました。

 

 このほかイギリスが20位、アメリカが23位でした。

 

  日本は、去年は137カ国中47位でしたが、今回は4つ順位を下げて51位でした。辛うじて52位の韓国、60位の中国などを上回りましたが、 G7の中で最も低く、アジアでは、30位のシンガポール、31位の台湾を下回りました。

 

  今の日本社会は、円安や物価高による消費下押しと人手不足による設備投資の遅延に加え、年始の能登半島地震の影響もあり、景気回復が足踏みしている中でランキングが示しているように人々の幸福度が高いとは決していえない状況ではないでしょうか。

 

  日本が一番幸せだった時代はいつだったか?という質問に対して、おそらく昭和世代の人の多くは、ドラマ「不適切にもほどがある!」の舞台となった1986(昭和61)年末から1991(平成3)年頭までの日本中が空前の好景気に沸いた、崩壊前のバブル時代と答えるのではないでしょうか。

 

  世界幸福度調査が始まったのが2013年なので推測することしかできませんが、もしこの時代に同じ調査が行われていたら日本は今よりかなり上位にいた可能性はあります。

 

今回は、ウェルビーイングの観点からこのバブル時代を考察してみます。

 

● 高級住宅や高級車、高額なゴルフ会員権…… スキーブームでゲレンデは激混み

 

  バブル景気は1985年の「プラザ合意」後の円高により日銀が徹底した低金利政策を取った結果空前の「カネ余り」が起きたことが始まりでした。

 

それらの余剰資金が株式市場になだれ込み、資産価格の上昇が始まり、日経平均株価は1989年12月29日に、3万8915円の史上最高値を付けました。

 

  世の中の余った資金の多くは不動産市場に向かい、異常なまでの地価高騰が起き、いつの間にか「地価は必ず上がる、上がり続ける」という土地神話が生まれ、皆こぞって不動産を買うようになったのです。

 

地価上昇はしだいに投機目的の、ギャンブルにも似た短期的な売買が増えて、世の中の景気はまさに泡(バブル)のように膨らんでいきました。

 

  高級住宅や高級車、高額のゴルフ会員権が飛ぶように売れ、さまざまな豪華なテーマパークが日本各地に開業し、空前のスキーブームでゲレンデは毎週末がイモ洗い状態。

 

クリスマスには、大学生カップルでさえも赤坂の高級ホテルでデートし、ティファニーなどの高級ブランドのアクセサリーがプレゼントとして飛ぶように売れました。

 

  成長し続ける多くの企業では昼夜を分けず猛烈に働くことが時代の趨勢となり、「24時間戦えますか?」のキャッチコピー(栄養ドリンク「リゲイン」のCM曲「勇気のしるし」)が大流行しました。

 

「ふてほど」では、まさにこの時代背景の中で、今ではコンプラ違反とされる残業強要の過重労働問題やセクハラ、パワハラなどをテーマに現代の価値観に疑問を呈していました。

 

  1986(昭和61)年に施行された男女雇用機会均等法により女性総合職が登場したのもこの時代です。

 

  また、多くの企業では接待交際費も大盤振る舞いで、高級レストランはどこも連日満席で接待の帰りはタクシーチケットをクライアントに渡して家まで送迎するのが常でした。

 

  そして、このように余ったバブルな資金は国内のみならずジャパンマネーとして世界を席巻し、好景気によって潤沢な資金を得た日本企業が、多くの海外企業や不動産を買収した時代でもあります。

 

三菱地所によるロックフェラー・センターを所有するロックフェラーグループ(RGI)の買収や、ソニーによるコロンビア映画買収などをはじめとするさまざまな海外投資・買収が行われました。

 

● 「成功した」より「成功するかも」で出る 幸福物質のドーパミン

 

  人間には、目的達成のために「やる気」を起こさせるモチベーションが必要です。

 

生きるために必要なモチベーションを促し、幸福感をアップさせてくれるのが幸福物質であるドーパミンです。 

 

 ドーパミンは、「意欲」「運動」「快楽」に関係する神経伝達物質で、「気持ちがよい」「心地良い」と感じると出るといわれています。

 

精神科医の樺沢紫苑(かばさわ・しおん)氏は、著書『精神科医が見つけた3つの幸福 最新科学から最高の人生をつくる方法』(飛鳥新社)の中でドーパミン的幸せをこう説明しています。

 

  ドーパミン的幸福は、一言で言うと「成功」の幸福です。

 

 ドーパミンは脳を興奮させるので、ドーパミン的幸福には「高揚感」が伴います。 

 

「やったー!」と思わず手を上げてしまうような「喜び」「楽しさ」「達成感」が、ドーパミン的幸福です。

 

  例えば「スポーツの大会で優勝」して、「やったー!」と大喜びするシチュエーションが分かりやすいでしょう。

 

 ドーパミン的幸福とは、言い換えると「何かを得る、達成した喜び、幸せ」です。

 

 お金を得る。 欲しい物を手に入れる。

 

 あるいは昇進、昇給などの仕事での成功、地位や名誉なども当てはまります。

 

 人から認められるのもそうです。

 

  何かを「得る」には、行動や努力が必要です。

 

 頑張らないと昇進したり、会社で認められたりすることはない。 結果を出すためには、労力や時間もかかる。

 

あるいは、何かを買うには、お金もかかります。

 

 つまり、ドーパミン的幸福を得るには、「対価」が必要であるということ。

 

 ドーパミン的欲求というのは、ある意味大変なのですが、だからこそそれを得たときの喜びは大きいのです。

 

  実は最近の研究で、ドーパミンは成功したときより、「この先何かいいことがあると感じたときに出る」ということが分かってきました。

 

  サルを対象としたある研究にて、ボタンを押すとサルの欲しい物が出てくる実験をしたところ、ボタンを押すと欲しい物が出るとサルが気づいた時点で、サルの脳からドーパミンが出ることが分かりました。

 

  ドーパミンが生じさせるのは快感ではなく、きわめて強い「快感の予感」なのです。それは希望と言い換えることもできます。

 

  「明日は今日よりもっと楽しいに違いない」と皆が未来に希望が持てたバブル時代は、いわばドーパミン的幸せに満ちたウェルビーイングな時代だったといえるでしょう。

 

  日本人の幸福感も昭和から平成、令和と時代が移り変わる中で若い世代を中心に大きく変わってきていますが、日本のように経済成長が停滞した国ばかりではなく世界的にも今、幸せの価値観は大きく転換しています。

 

  その背景には、社会の成熟とグローバル化が進み、人々の価値観や生き方が多様化したこと、そして、解決すべき社会問題を取り巻く利害関係が複雑化したことがあります。

 

● 令和時代の私たちは、何で幸せを感じるか

 

  これまでの社会では主に「経済成長」に価値の重点が置かれ、GDPなどの指標を追求することが中心となって、経済合理性がないものは重要視されませんでした。

 

その結果、貧困と飢餓の問題が深刻化し、地球環境の悪化や拡大し続ける格差など、経済合理性にフォーカスをしていては解決できない課題が無視できないレベルとなっています。

 

  ウェルビーイングが世界的に注目されたきっかけといわれている、2021年に開催予定だった世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)のテーマは「グレート・リセット」でした。

 

  創設者であるクラウス・シュワブ会長は「世界の社会経済システムを考え直さねばならない。

 

第2次世界大戦後から続くシステムは環境破壊を引き起こし、持続性に乏しく、もはや時代遅れだ。

 

人々の幸福を中心とした経済に考え直すべきだ」と述べました。

 

  この「グレート・リセット」では、「人間らしさの見直し、心身の健康(ウェルビーイング)」について、高い優先順位が設定されることとなりました。

 

  ノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンがアメリカ人を対象に実施した、「幸福と金の関係の大規模な調査」によると日々の幸福感に関して言えば、年間所得が7万5000ドル(約1100万円)を超えると、所得がそれ以上増えても幸福感は高まらないということです。

 

  このような研究からも経済成長が必ずしも人々の幸福と直接リンクしないという傾向が明らかになってきています。

 

そんな中でドーパミンにあふれたバブル時代と違い、未来が不透明な将来への希望を持ちづらい令和の時代の新しい幸せの在り方が問われています。

 

  この時代は成功のホルモンであるドーパミンよりも、むしろつながりや愛情に関わるオキシトシン的幸福が求められているのかもしれません。

 

  昭和と令和を行き来する人々のつながりを描いたドラマ「不適切にもほどがある!」は友人や家族との絆が大きなテーマとなっています。

 

時代を超えて不変であるテーマを描いたこのドラマは、今の時代の幸せとは何かを、改めて視聴者の多くに考えるきっかけを与えてくれたのではないかと思うのです。

 

  (インテグレート代表取締役CEO 藤田康人)

 

藤田康人

 

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