【以下ニュースソース引用】

和ぬかの『おまじない』で考えた名曲の楽しみ方

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いしわたり淳治

いしわたり淳治

 作詞家・音楽プロデューサー

1997年にロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビューし、オリジナルアルバム7枚、シン …

 

 

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。

 

この連載ではいしわたりが、歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の6本。

 

 1 “顔に出るわ”(和ぬか『おまじない』作詞:和ぬか
 2 “黒豆茶”
 3 “正論おつかれさんです!”(紅しょうが 熊元プロレス)
 4 “自分以外の誰かのふり”(『元カレごはん埋葬委員会』著者 川代紗生

 5 “最初に抱かれるのは母親ではなくタオルです”
 6 “他の神様”

 

日々の雑感をつづった末尾のコラムも楽しんでほしい。

 

和ぬかの『おまじない』で考えた名曲の楽しみ方

 

歌詞を書く上で主人公や登場人物のキャラクターというのは重要である。

 

最近、昭和の歌謡曲を色々と聞き直していて、あらためてさすがだなと思ったのは、細川たかしさんの『心のこり』という歌で、1行目が「私バカよね おバカさんよね」というフレーズで始まる。

 

これだけの短い言葉、時間にしてほんの数秒だけで、主人公のキャラクターと今どんな恋愛をしてしまっているか、という状況の説明が完璧に行われている。

 

早い段階で情報効率のいい言葉を書いておくことで、そのあとの物語に奥行きを与えることができるようになっている。

 

和ぬかさんの新曲『おまじない』の中に、「うれしいとき顔に出るわ 悲しいとき顔に出るわ うそつくとき顔に出るわ そんな君が大好きだ」という歌詞が出てくる。この「顔に出るわ」も情報効率がいい言葉だなと思った。

 

嬉しい時、悲しい時、噓つく時の表情を具体的に説明していたら文字数を食ってしまって、それだけで曲が終わってしまう。

 

“感情が顔に出やすい正直な性格”ということが伝わることが大事なのだから、「顔に出るわ」とだけ書いて細かな表情については聞き手に想像してもらうほうが賢明である。

 

そうやって聞き手が表情を想像することで、この歌への参加意識が生まれて、サビを聞く頃には身の回りの誰かを思い浮かべながら、自分の歌として聞ける、という効果も生むことになるような気もする。

 

情報効率のいい言葉。それがあるかないかで、歌の良しあしは大きく変わってくる。

 

世の中のいわゆる名曲と呼ばれている歌の中にはこういう言葉が隠れていることが多いので、探しながら聞いてみるのも面白い楽しみ方かもしれません。

 

和ぬかの『おまじない』で考えた名曲の楽しみ方

 

2月17日放送のテレビ東京『モヤモヤさまぁ〜ず2』でのこと。神奈川にある出川哲朗さんの実家、海苔のり問屋蔦金商店の店頭に出川哲朗さんの顔出し看板を見つけ、さまぁ〜ずの2人と田中瞳アナウンサーが顔を出して出川さんのモノマネを披露する流れに。

 

田中アナが「いやぁ、だからぁ~、のどに良いからぁ~、黒豆茶は~」と出川さんの真似まねをすると、「スタジオ行くと、ちっちゃい水筒、(出川さんの席に)置いてあるもんね」と三村マサカズさんが笑い、「そうなんです、あの中身、あったかい黒豆茶なんです。

 

もう何年も黒豆茶だって言ってました」と田中アナが答えた。

 

趣味というわけではないけれど、私は有名人の好きな食べ物を覚えるのが好きだ。

 

例えば、スタジオなどで初めましてのスタッフの人と2人きりになってしまった時に、ケータリングの中に黒豆茶を見つけたら、「黒豆茶だ。出川さんはスタジオ収録に必ず黒豆茶を持って行くらしいですよ。喉にいいからって」というように、覚えていた情報をただ言うだけで、少し距離が縮まったりする。

 

ずいぶん前に、この連載で江頭2:50さんの好きな食べ物は「ハマチの刺し身」という原稿を書いた記憶がある。

 

今でも、居酒屋でメニューの中にハマチの刺し身を見つけたら、その情報をその場にいた人に教えてあげている。

 

だからどうということもないのに、「じゃあ、ハマチ頼みましょうか」と小さな笑いが起きて、会話が弾み始めるから不思議である。

 

和ぬかの『おまじない』で考えた名曲の楽しみ方

 

3月6日放送の日本テレビ『上田と女がえる夜』でのこと。ポンコツすぎて生きづらい女というテーマだった。

 

出演者のかえる亭のイワクラさんと紅しょうがの熊元プロレスさんは過去に同じ飲食店のアルバイトをしていて、2人は遅刻の常習犯だったのだそう。

 

熊元さんは“5分遅れたら、店長のところに行かずに、直接トイレに入って「トイレ掃除終わりました!」と言って出てくる”という裏技を使っていたそうで、「お互い気持ちよく仕事したいじゃないですか? だから……」と熊元さんが言うと、上田晋也さんが笑って「いや、お互い気持ちよく仕事するためには遅刻すんな!」と怒鳴ると、「正論おつかれさんです!」と熊元さんが悪そうな顔で、言い放った。

 

悩んでいる時、困っている時、人は相談相手に正論を言われるのを嫌がるものである。

 

理由は簡単だ。

 

正論で割り切れないから、悩んでいるのである。悩みを相談した時に望んでもいない正論を言ってくる人に対する言葉の中で、これほどポップで切れ味の鋭い言葉はないな、と清々すがすがしささえ覚えた。

 

私がなぜかしてしまう「○○なふり」

和ぬかの『おまじない』で考えた名曲の楽しみ方

 

2月20日放送のテレビ大阪『さらばのこの本ダレが書いとんねん!』でのこと。

 

『元カレごはん埋葬委員会』の著者、川代紗生さんが出演していた。

 

元カレご飯埋葬委員会とは、元彼の好きだった料理を作って食べながら元彼に対する思いを話して、その思いを成仏させて浄化する会なのだという。

 

川代さんいわく、「結局、みんな自分以外の誰かのふりをしながらずっと恋愛をしてて」。

 

「別れてしまった後に後々になって、ああ、まっさらな自分で体当たりしてたら、こんなに後悔することなかったのかなあ、って引きずってる女性が多かったんです。

 

で、結局引きずった後も、“傷ついてない自分のふり”をし続けるんです。

 

でも、埋葬委員会でみんなで共感しながら、ひどい!とか、大変だったね!とか、気持ちを代弁してもらうと、ああ、私って傷ついてよかったんだ、みたいなことになっていく気がして」と話した。

 

人は誰でも自分以外の誰かのふりをしてしまうことはあると思う。私がなぜかしてしまう「〇〇なふり」は、「酔っていないふり」である。

 

当然、酔うために酒を飲んでいるはずなのに、酔っているとは思われたくないという、謎の心理がはたらくから不思議だ。

 

その場が楽しいから、もっと長く続いて欲しいと思ってのことではないかと思うのだけれど、その真相はいつも自分でもよく分からない。

 

和ぬかの『おまじない』で考えた名曲の楽しみ方

 

2月22日放送の日本テレビ『ダウンタウンDX』でのこと。「ドハマリ芸能人やりすぎ趣味ライフ」のテーマで、出演者が各々おのおのの趣味を紹介していた。

 

タオル好きだというタイムマシーン3号の山本浩司さんが「タオルソムリエの試験受けたことがあるんですよ。

 

そしたら、教科書の1ページ目にめっちゃ素敵なことが書いてあって。

 

“あなたが生まれて最初に抱かれるのは母親ではなくタオルです”って書かれてるんです!」と話した。

 

それを聞いて、本当にそうかしらと思って、自分の子供が生まれた時の写真を見返してみたら、たしかに助産師さんが母親に赤ちゃんを渡す時、赤ちゃんはすでにタオルに包まれていた。

 

入院した産婦人科で退院時にもらえる出生祝いはその病院によって違うけれど、生まれた瞬間に赤ちゃんを包んだ“ファーストタオル”をプレゼントする、なんてのもいいかもしれないなと、ふと思った。

 

和ぬかの『おまじない』で考えた名曲の楽しみ方

 

2月27日放送の日本テレビ『踊る!さんま御殿!!』でのこと。

 

「バイト中にやらかしたこと」というテーマで流れた視聴者投稿の再現VTRが素敵だった。

 

“居酒屋のバイトをしていた時、禁煙の店内でたばこを吸い始めたお客さんに注意すると、「なんだよ! お客様は神様じゃねえのかよ!」と大声で理不尽なことを言われ、「すみません! 他の神様にご迷惑ですので、お静かにお願いします」と言い間違えたというエピソードで、スタジオの観客から笑いと一緒に感嘆の拍手が起こっていた。

 

よく出来た話だなと思うけど、素直にこれは、ものすごく理にかなったクレームに対処する時の言い方だなと思った。

 

あなたのような人は神様ではないとも言わず、それでいて、あなただけが特別な存在ではないということを正しく伝えることに成功している。

 

余談だけれど、我が家の小学1年生の息子がよく言い間違える言葉があって、それが、野球の「守備」で、彼はまだしょっちゅう「しゅみ」と言い間違える。

 

「しゅみがうまくなりたい」「しゅみをがんばる」「しゅみのれんしゅうをする」みたいなことを何度も聞いているうちに、まあ、趣味で野球をやっているのには変わりないのだから、それはそれで間違っていないのではないか、むしろ趣味をがんばるって素敵なことなのではないか、という気がして、最近はもう、訂正せずに言い間違えてもそのままにして、ほほみ返すことにしている。

<Mini Column>永久に遊べるパズル

我が家のリビングのテーブルの上に「永久に遊べるパズル」というのが置いてある。

 

ある日、家族で買い物をしていた時に息子が見つけて買ったものなのだが、これが意外と難しくて、初めの頃こそ家族皆で取り合いをして挑戦していたけれど、いつからか私以外は誰もやらなくなった。

 

様々な形のピースをケースにぴったりと収める、ただそれだけのパズルなのだけれど、収め方は数千通りあるらしい。

 

数千通りもあるなら、簡単に出来そうなものであるが、私が今までに見つけた正解は50通りくらいのもので、子供たちに至ってはまだ一度も正解したことがない。

 

やりながら、ふとこのパズルが何かと似ているなと思った。作詞である。

 

メロディーという枠の中に、書き込みたい内容を、言葉の角度や向きや並べ方を変えながら、どうにか収めていく。

 

そして、やった、きれいにハマった、出来た、と思っても、果たして正解がそれしかないかというと、まだ他にも正解の形はあるような気もする。

 

皆が諦めたのに、なぜか私だけがいまだにこのパズルを続けているのは、普段から作詞という「永久に遊べる言葉のパズル」をやっていて、こういう作業に耐性があるからなのかもしれないと思った。

 

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