【以下ニュースソース引用】
愛の街ヴェローナ×アマローネのリゾット 深みのある味
俳優・タレント
モデルとして2007年デビュー。その後、ドラマ/映画/CM/テレビ番組にてレギュラー出演をするな …
料理好きな俳優・渡辺早織さんが心に寄り添った手料理を紹介する連載です。
ほろ苦かったり、甘酸っぱかったり、思い出とつながったご飯は何だか忘れられません。
明日を頑張るあなたの活力になりますように……。
そんな思いを込めた料理エッセーをお届けします。詳しい作り方はフォトギャラリーでご紹介します。
イタリアにきて1カ月 愛の街で苦い思いも味わって
木々の隙間をぬけて頰にあたる風は、まだひんやりと冷たい。
せっかく初めての場所に来たのだから、いつもと違う自分になりたい気分だ。
少し伸びた髪の毛をきゅっとまとめて街を歩きたいけれど、この寒さは私にその決断を先延ばしにさせた。
春が来るのを待ちながら、今日もニット帽をすっぽりかぶった。
イタリア北部。ヴェローナ。
ミラノとヴェネツィアの間に位置するこの街は、華やかな時代を通り抜けた美しく均整のとれた建造物が見事に並び、その優雅さが街全体の印象を大人っぽくさせている。
それでいて、古代ローマに建てられた円形闘技場は厳かに街の中心に鎮座して、この街の歴史のはじまりの深さを教えてくれる。
この街の家々の色使いが大好きだ。
ピンクや黄色やオレンジで大胆に家全体に塗っているのに、決して奇抜ではなく、決して子供っぽくもならず、むしろ空の下にすっとなじむ落ち着いた色合い。
こんなにかわいらしい色を、なんて上手に色を使うんだろうと、見とれてしまう。
石畳の上を歩いても、また浮かれている自分がいる。
足の裏の感覚というのは体と心の隅々まで届く。
草原の上を裸足で走り回ることや、レッドカーペットの上をヒールでコツコツ歩くことが、心になんらかの影響を与えることを想像できるように、石畳は石畳の特別な感情をもたらしてくれる。
いつもよりゆるんだ口角で、いつもより少しリズミカルに歩いていることをショーウィンドーが教えてくれる。
ここヴェローナが愛の街と呼ばれているのは、シェークスピアの悲劇「ロミオとジュリエット」の舞台になったことが大きく由来していると思うが、この街全体のもつロマンチックな雰囲気は、なんだか特別なものがある気がする。
すれ違う老夫婦がお互いの手を握り歩いているところを見て、うんうんと答えあわせをするような気持ちになった。
今も昔も人を惹(ひ)きつけ、人と人をも惹きつけ合う。
そんなことが変わらずに続いている街なのではないだろうか。
大きな川沿いをたっぷり散歩しながらそんなことを考えて、改めて今この場所にいることを実感する。
イタリアにきて1カ月ほどが経った。
楽しいことも大変なことも同じように毎日私の前に現れては消えてを繰り返している。
一番難しいのはやっぱり会話だろうか。
頭の中で言いたいことをたくさん考えても、口から出るのはほんの少しで、タイミングを逃してしまったり、よそよそしくなってしまったり。
そうしたらあっという間に次の会話になってしまって、「こうすればよかった!」の連続だ。
ヴェローナは華やかであると同時に忙しい街でもある。
昼も夜もたくさんの人が行き交う街。
だからこそしっかり主張しないと置いていかれるのだ。
自分の殻をべりべりとやぶっていく自分を想像しながら、まだまだだなぁと今の自分を客観的にも見せてくれたヴェローナ。
この甘くロマンチックな街で、苦い思いも少しだけ味わった。
「ヴェローナに来たらアマローネのリゾットを食べないと。」
そう教えてもらってずっと楽しみにしていた名物も食べた。
アマローネとはヴェローナ地区の畑で作られる赤ワインで、イタリアの最高級ワインのうちの一つだ。
赤ワインのリゾット。なんてそそられるんだろう。
目の前に運ばれてきたそれは淡いワイン色をしたシンプルなリゾットで、余計な食材は見当たらず、アマローネだけを存分に味わってとお皿から声が聞こえてきそうだった。
ひとくち口にして思わず目を見開いてしまった。
アマローネの香りと味わいは、見た目のシンプルさとは正反対に、何層にもかさなる複雑な味をもってこのお皿を完成させていた。
もっとこの味を知りたくてまた一口、また一口と口に運ぶ。
だけれども食べるほどに深みにはまる感覚がある。
きっとこの料理の、このワインの全てを知り得ることはないのだろう。
ミステリアスな長い余韻を残して最後の一口も食べきってしまった。
またこの味を思い出したくてこの地に戻ってくるのかな。
そう思うような特別な味だった。
あの味を丁寧に再現してみたい。
家に帰ってからずっとそのことばかり考えている。
作り方はシンプルなものの、この高級なワインを調理用としてたっぷり使うこと自体がむずかしくも感じる贅沢(ぜいたく)な料理。
だけどあの味を思い出すとやっぱりアマローネで作りたい。
ネットで比較的に買いやすい値段のアマローネを見つけて、さっそく作ってみました。
甘さの奥にある苦みと深み
イタリアではブロードと呼ばれる出汁(だし)をすごく大切にしていて、どの家庭でも野菜や肉からしっかり出汁をとる。
それにならってブロードを作り、アマローネを用意して、あとは水加減に気を付けながらリゾットを作った。
わぁっと思わず声がもれる。
最後に回しかけたアマローネのおかげで、このワインがもつ特別で妖艶(ようえん)な香りをまとったリゾットは、あの時に負けない味になった。
自分でも想像以上に美味(おい)しくできたのは、紛れもなくアマローネのおかげだ。
嬉(うれ)しくて、またあの時と同じように馳(は)せる気持ちを止められずに、あっという間に食べてしまった。
だけれどもまたこの味に出会えると思ったら、なんだか今回は少し安心しておなかいっぱいになれた。
アマローネはイタリア語で「苦い」を意味する言葉からきている。
ぶどうの芳醇(ほうじゅん)さの奥にあるほのかな苦みとたっぷりの深みとたくさんの表情をもつ複雑さ。
アマローネは私にとってただ甘く愛に溢(あふ)れるだけではなかったこの街そのもののようだった。
このワインが似合う女性になれたらまたこの街に戻ってこよう。
「アマローネのリゾット」のレシピはこちら(写真をクリックすると、詳しくご覧いただけます)