【以下ニュースソース引用】
「早朝」を意味する店名 パンから幸福な食卓を――/トレマタン ブーランジェリー
「パンラボ」主宰
ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰。日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッド …
愛情感じる軽やかなクロワッサン、総菜パン……
トレマタンとはフランス語で「早朝」。
6年前、瀧あゆみさんはお店をはじめるにあたって、店名を決めようとフランス語の辞書を開いて、この単語に目が止まった。
「なんていい言葉だろうと思いました。パン屋は朝の仕事。お客さんの朝を担える職種だと私は思います」。
まだ夜も明けぬうち、パン職人が働きはじめるのは、誰かの幸福な朝のためなのだから。
名古屋市・一社。
ブルーグレーの壁を背景に、大理石のカウンターに並んだパンを見たなら、誰もがわくわくどきどきしてしまう。
フランスパンを中心に、ソーセージドッグのような手に取りやすい総菜パンも。
それらから、込められた作り手の愛情が湧き上がってくるような気がするのは、なぜなのだろう。
クロワッサンの軽さ。
ぱりぱりと割れる軽い外皮。でありながら、中身はぽわんふわんと綿毛のように軽やかに弾む。
普通のクロワッサンのようにぎゅっとしていない。
カールさせた髪の毛みたいにふわふわ軽く巻かれている。
北海道産のよつ葉発酵バターならではの明るいトーンの甘さは輝くようだ。
クロワッサンの成形は、三角形に切った薄い生地をくるくる巻いて行う。
でも瀧さんの力加減は少し異なる。
「あまりきつくないように、ゆったりと巻いています。しっかり焼いてざくっとさせたいんですけど、火が強すぎると歯切れも悪くなるので、あんまり強く巻きたくなくて。ふくらむ前はけっこう隙間があるぐらいにゆったりと巻いています」
力を入れれば生地も強くなり、やさしく触れば生地もやわらかく、やさしく。
パンの食感には作り手の性格が出る。
このクロワッサンには瀧さんのやさしさがあふれていると思うのだ。
瀧さんのパン作りは挫折にはじまる。
高校を出たあと、働きながら美大を5度受験したが叶(かな)わず。
「なんで絵を描いているんだろう」と悩んだ。
その頃、Twitterでは、女性のパン屋さんたちが次々と登場、みんなパンを通して自分らしい表現をしていることを知った。
「いろんなお店の投稿を見ているうち、お客さんにパンを出すカフェを自分も開きたいと思いました」
市内のパン屋で修業したあと、瀧さんが開いたトレマタンは小さいパン屋、念願のカフェはなかった。
ところが、建物の取り壊しを機に、同じくテナントだったヨーロッパスタイルのカフェ「シャンパンブランチ」といっしょにひとつの物件をシェアして新店舗を出すことになった。
ブルーグレーのモダンな壁がトレマタン。
ヴィンテージ家具を使ったブリティッシュアンティークの世界観がシャンパンブランチ。
パンとフレンチの相性はもちろん最高だ。
トレマタンで買ったパンをシャンパンブランチに持ち込むことで、瀧さんの念願だったカフェが実現。
朝は9時(月火休)からモーニング。
ランチセットにもフォカッチャなどのパンが付く。
午後3時以降はワインセットとして、全粒粉生地のくるみパンにアンチョビバターを塗ったおつまみパンが提供される。
それだけではない。
冷蔵ケースに並んだ目移りするようなお総菜を選んでテイクアウトすることも。
トレマタンでバゲット1本買って、おうちに帰ってワインを抜けば、とびきりの夜になることは請け合いだ。
そのバゲット。フランスの本場のバゲットのようなぎゅっとした食感ではない。
マイナスの温度で一晩寝かせて小麦の甘さを引き出したあとは発酵をしっかりと取る。
ボリュームを出すことで、ばりばりの皮と、ふわりとした中身を共存させる。
前日に仕込んだポーリッシュ種(酵母〈イースト〉の種で水分量が多い)も相まって、中身からはバラのような発酵の香りが匂い立つ。
瀧さんはおやつパンですばらしいセンスを発揮している。
ココアを入れたブリオッシュ生地に濃厚なチョコを潜ませた「ブリオッシュショコラ」。
生地とチョコが、ほろ苦さ、カカオの香りを重ね合い、とろけるごとに、生地の中のバターも溶けてますます甘美となる。
「ベルギーのビターチョコで、添加物が入ってないものを使用しています。いろんなチョコを試すのですが、これがいちばんおいしくて。難点は(融点が低く)あたたかい気候になると溶けちゃうこと。冬限定になります(3月いっぱいで今季は終了)。レンジに10秒かけるだけでフォンダンショコラみたいになる。それをさらに焼くとかりかりのとろとろになってすごくおいしいですよ」
瀧さんは、たびたび作業の手を休めては売り場に出てきて、大きな笑顔でお客さんと話をする。
パンの食べ方を伝えるためでもあるし、逆にお客さんから食べ方を聞くのが好きだという。
「『どうやって食べるんですか?』と聞くようにしてます。
『おいしいバターを買ったからバゲット買いにきたの』とか『おいしいワインがあって』とか、奥さんに言われて買いに来たという方とか。微笑(ほほえ)ましいですよね。食べるシチュエーションを考えたくて。それを含めて提供できるお店にしたいんです」
パンから見える幸福な食卓。
その一角に、自分がいられるという幸福な想像が、瀧さんが毎朝早起きをする原動力となっている。
名古屋市名東区一社1丁目33番地 ティアイ一社 1階
052-717-5869
8:00~18:00
月火休み
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「このパンがすごい!」紹介店舗マップ(店舗情報は記事公開時のものです)