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うつ病で休職 産業医が挙げる「復職の3条件」 症状の消失、気力・体力の充実、あと1つは?
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心の病気で休職に入った後、治療や職場復帰までの道のりはどのように進むのでしょうか。
主治医や産業医との関わり方、再発を防ぐためのポイントとなるリワーク・プログラムなどについて知ってもらうため、週刊朝日ムック「手術数でわかる いい病院」編集チームが取材する連載企画「名医に聞く 病気の予防と治し方」からお届けします。
「職場のメンタルヘルス」全3回の3回目です。
【グラフ】ストレスを感じる事柄(10項目)で多いのは? 1位は「仕事の量」
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メーカーのエンジニアをしている藤井拓也さん(仮名・42歳)は、職場の人手不足により、労働時間が徐々に増えるなか、漠然とした不安を感じるようになりました。
眠れない日も増えてきたため、3カ月後、心療内科を受診したところ、抑うつ状態と診断され休職に入りました。
薬物治療やカウンセリングで症状は少しずつよくなりました。
10カ月後、主治医に「そろそろ復職したい」と申し出たところ、「復職可能」の診断書が出ました。
産業医からは、「もう少し休んだほうがいい」と言われましたが、会社や所属部署が復職を許可し、元の職場に復帰しました。
しかし、1カ月もたたないうちに、体調が再び悪化。
再休職となってしまったのです……。
心の病気で休職に入った場合、一般的には1~2カ月ごとに診断の見直しがされます。
そこで主治医が「まだ、休職が必要」と判断したら、さらに1~2カ月の延長することを繰り返します。
公的機関や民間企業で30年以上にわたり、産業医業務に従事している京都大学名誉教授の川村孝医師は、休職中について、「会社は事務的な手続き以外は、連絡はしないのが通例です。
回復のためには仕事のことは考えず、ゆっくり休養することが第一です。
うつ病の場合は、最初はひたすら寝ている日が多いのですが、3週間くらいたつと薬が効いてきて、からだが少しずつ楽になってきます」と話します。
日本産業精神保健学会副理事長で精神科医として職域メンタルヘルスの研究をおこなっている北里大学大学院産業精神保健学教授の田中克俊医師は、「休職者の中には、十分な休養と服薬治療が必要なケースだけでなく、メンタル不調の原因となっている職場環境の改善や対人関係の調整など職場での対応が求められるケースもあります。
休職中から、主治医と産業医が連携し、復職に向けた職場の受け入れ準備について早めに検討することで、早期の復職や再発防止につながることがあります」と言います。
回復のスピードは一人ひとり異なります。
復職の条件として川村医師は、(1)症状の消失、(2)気力・体力の充実、(3)再発防止対策への取り組み、の三つを挙げます。
(1)の症状の消失は、不眠や食欲不振などの病気による症状がなくなることです。
(2)の気力・体力の充実は、「散歩を毎日している」「スポーツを始めた」「家事を毎日やっている」など、能動的な行動ができていること。
(3)の再発防止策は復職へ向けた「リワーク・プログラム(後述)」などが相当します。
川村医師によれば、とくに大切なのは(3)の再発防止策です。
「再発防止対策に取り組んでいないと、いったんよくなっても、復職後に同じことが起きるおそれがあります。
再休職となるとご本人の自信喪失にもつながるので、避けたいところです」(川村医師)
復職許可の診断はまず、主治医がおこないます。
主治医の診断書をもとに職場の産業医が本人に面談をし、会社に報告。
この結果をふまえて、会社が復職許可を出します。
ただし、主治医が復職可能としていても、冒頭のケースのように産業医が「時期尚早」と判断する場合もあります。
「主治医の任務は病気を治すことですが、産業医は職場で健康を損なわずに業務をしてもらうことが仕事であり、診ている視点が違うためです。
実際、主治医から復職可能の診断が出ていても産業医の立場から『このまま復職したら危険だな』と思われるケースがときどきあります。
収入のことなどもあり、ご本人の早く復職したいという気持ちはわかりますが、焦ってはいけません。
無理をして復職した結果、うつ病を再発し、自殺してしまったケースが実際に報告されています」(同)
田中医師は、「周囲のサポートも重要」だと言います。
「復職の条件を満たしていても、再発することはあります。
逆に『大丈夫かな』と思うケースでも、周囲の協力によって復職がスムーズにいくことも少なくありません。
本人の回復の程度とともに、職場でのサポートや理解がどれだけ得られるかも再発のリスクを左右する大きな要因となります」
(田中医師)
なお、休職後の復職先は原職(元の職場、元の地位)が原則となっています。
しかし、パワハラや適応障害など、元の職場に休職の直接の原因がある場合は、配置先の変更が検討されます。
「正確なデータはありませんが、私の経験では1割弱くらいは異動しています」(川村医師)
「不安は記憶と強く結びついているので、職場で嫌な体験をした場合、同じ職場に戻るだけで不安は高まるので再発のリスクを高めてしまいます。
適応障害にしても、無理に仕事に人を合わせようとするよりも、適材適所で柔軟に配置転換を考えてもらうのも良いのではないでしょうか」(田中医師)
■認知行動療法は健康な人のメンタルへルスケアにも役立つ
再発防止策のかなめと言われる「リワーク・プログラム」はどのようなものでしょうか。
リワーク・プログラムは専門家による「職場復帰支援制度」のことで、多くの心の病気の再発予防に有効です。
プログラムの内容は主に通勤練習、模擬作業(もの作りやパソコンを使った集計・文書作成など)、医師など専門家による講義の受講、カウンセリング、グループワークなどで、平均期間は3~6カ月。
都道府県の「障害者職業センター」(無料)や、精神科や心療内科のクリニック(保険診療)のほか、会社が従業員向けにおこなっているもの、民間の就労移行支援事業所がおこなっているものなどがあります。
「リワーク・プログラムをおこなう施設に連日通うことが、通勤練習にもなります。
また、施設で一定の時間を過ごすことが体力を取り戻すことにもつながります。
カウンセリングをもう一歩進めた、認知行動療法、ソーシャル・スキル・トレーニング(以下、SST)を受けることも有効な再発防止策につながります」(川村医師)
心の病気になりやすい人は、「自責感が強い」「一つのよくないことがあると、それについて考え続けてしまう」「日々の生活をすべてネガティブに考える」など、認知に偏りがある場合が少なくありません。
認知行動療法はストレスに直面したときに、自分の「認知」と「行動」のくせを変えて、気持ちが落ち込まないようにする精神療法です。
SSTはロールプレイングなどで上手な対人関係を身につけるための訓練です。
「認知行動療法やSSTなどを受けることで、トラブルがあっても『柳に風』のような心のしなやかさを身につけて、ストレスに打たれ強くなることができます」(同)
田中医師はポジティブメンタルヘルスの観点からも心理的アプローチが大事と言います。
「簡易的な認知行動療法プログラムやマインドフルネスなど、ネットや書籍を使って自分に合った方法で簡単に取り組めるようなものも増えています」
復職後は時短勤務、在宅勤務などからスタートできることもあります。
「人材不足のなか、企業も人を大事にしなければやっていけない時代です。
雇われている側も1人で悩まず、産業医や会社側と話し合い、折り合いをつけながら、よりよい形での復帰を模索してほしいと思います」(川村医師)
(文・狩生聖子)
【取材した医師】 京都大学名誉教授 産業医 川村孝(かわむら・たかし)医師 1980年名古屋大学医学部卒。93年同大学医学部助教授。99年に京都大学保健管理センター所長・教授となり、2011年同大学環境安全保健機構健康科学センター長。教育・研究活動をおこないながら本務の一環として産業医業務にも従事。20年から同大学名誉教授。同年、株式会社ヘルステック研究所医学顧問に就任。現在はフリーランス産業医として活動する。労働衛生コンサルタント、内閣府食品安全委員会専門委員、日本産業衛生学会指導医、日本産業保健法学会の副代表理事。著書に『職場のメンタルヘルス・マネジメント』(ちくま新書)、『臨床研究の教科書』(医学書院)など。 北里大学大学院 医療系研究科産業精神保健学教授 田中克俊(たなか・かつとし)医師 1990年産業医科大学医学部卒。92年株式会社東芝本社産業医。2002年昭和大学医学部精神医学教室講師。03年北里大学大学院医療系研究科産業精神保健学准教授、10年から現職。日本産業精神保健学会副理事長、日本産業保健法学会常任理事、日本うつ病学会理事、日本産業ストレス学会理事、厚生労働省労働政策審議会障害者雇用分科会委員など。著書に『職場のメンタルヘルスケア入門』(編著、医学書院)、『保健、医療、福祉、教育にいかす 簡易型認知行動療法実践マニュアル』(共著、きずな出版)など。
狩生聖子
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