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「低気圧が近づくと頭痛が」「雨が降ると関節が痛む」現役内科医が教える"つらい気象病"の意外な克服法

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プレジデントオンライン

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ljubaphoto

 

「天気が悪いと体調も悪くなる」という声はSNS等でもよく見かけるが、一方それを否定する声も多い。

 

一体、どちらが本当なのか。内科医の名取宏さんは「天候と症状の関係についての研究はバイアスがかかりやすく難しいが、体調不良の事実自体は否定できない」という――。

 

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■「天候」と「体調」は関連するか

 

  昔から「天候」と「体調」の関連については、あれこれ言われてきました。

 

たとえば「天候が崩れると体調が悪くなる」「雨が降ると古傷が痛む」「低気圧が近づくと頭痛がする」などといったものです。

 

実際に周囲の人から聞いたことのある人も多いでしょうが、特に痛みに関するものが多い印象です。

 

  ただ、こうした体験談はよく聞く一方で、天候と症状の直接的な因果関係については懐疑的な意見も少なくありません。

 

だから「気のせいに違いない」「あまりに大げさすぎる」「繊細ぶっているんじゃないか」などと心ない言葉を発する人もいます。

 

  でも実際、臨床の現場でも、天候による体調不良を訴える患者さんを診る機会はよくあります。

 

全般的な体調不良であれば「気象病」、痛みに関連するものは「気象関連痛」「天気痛」などと呼ばれています。

 

 ■因果関係を証明するのは難しい

 

  気象病については、医学的に明確なコンセンサスはなく、国際疾病分類(ICD)にも採用されていません。

 

天候が与える影響は複雑で、厳密に因果関係を証明するのは難しいのです。

 

臨床試験では、実薬群と対照群とにランダムに振り分ける「ランダム化」、どちらに振り分けられたかを伏せる「盲検化」が行われますが、天候ではどちらもできません。

 

  被験者に気圧が変わるチャンバー(空間)に入ってもらって気象病を再現する研究もいくつか行われていますが、サンプルサイズが小さかったり、現実の天候の気圧変化を反映するのが難しかったりして、やはり決定的な証拠は得られませんでした。

 

  天候と症状の関連についての研究では、さまざまなバイアスが問題になります。

 

たとえば「雨が降ると膝が痛くなる」と聞いた人が、偶然にも雨の日に激しい膝痛を体験すると、強く印象に残ります。

 

こうしていったん先入観ができてしまうと、膝が痛くなかった雨の日、膝が痛かった晴れの日より、膝が痛かった雨の日のことばかりが記憶されるようになります。

 

結果、アンケート調査では「天候と痛みは関係がある」と答えますが、実際に丁寧に天候と痛みを記録しても関係が見つからなかったりします。

 

■問題を複雑にするパラメータ

 

  さらにはパラメータ(変数)の多さも問題を複雑にします。

 

天候は雨だとしても、気温や湿度や気圧といった複数のパラメータが変化します。

 

「わずかな気圧の変化が、症状を引き起こすのか」というのは気象病に対する代表的な懐疑的意見ですが、現実には気圧だけが変わるわけではありません。

 

他の数値も変わります。

 

  さらに雨の日には「濡れたくなくて外出を控えた結果、運動不足に陥って関節痛が悪化しやすい」「じっと座っていることが多くなり、いつもより痛みに気づきやすい」「雨が降っていることで気分が落ち込んで、痛みを感じやすい」といった間接的な要因まで考慮すると、厳密な証明はほぼ無理だろうと言わざるを得ません。

 

  気象病のメカニズムについては、さまざまな仮説が提示されています。

 

膝の痛みに関していえば「関節を包む関節包が気圧の低下で膨らみ、周囲の血管や神経を圧迫する」という仮説もあれば、「炎症物質であるヒスタミンが関係している」という仮説もあります。

 

動物実験も行われており、「内耳に気圧のセンサーが存在することが示唆される」とする研究もあります。

 

ただし、動物実験のエビデンスレベルは高くありません。

 

動物と人はさまざまな点で異なるからです。

 

 ■関節リウマチの痛みと天候

 

  もちろん、人の集団において、天候と症状の関係を調べた研究も多数あります。

 

ただ、その結果は一貫していません。

 

いくつかをご紹介してみましょう。

 

  まず、2011年に報告された「雨は本当に痛みを引き起こすのでしょうか?

 

 気象要因と関節リウマチ患者の痛みの重症度との関連性の系統的レビュー」という研究です(※1)。

 

論文のタイトルからも、医学界で雨と痛みの因果関係が議論になっていることがわかります。

 

9件の研究を統合した結果、集団レベルでは気温、湿度、気圧のいずれのパラメータも痛みの重症度とは関連していないことが示されました。 

 

 ただし、個別の分析では、少数(25%未満)の患者さんは天候に敏感であるようです。

 

天候に反応する患者さんは少数であることに加え、個々の患者さんで反応するパラメータが異なるので、全体では差が出ないようです。

 

先行研究において慢性疼痛患者の70%近くがアンケートで天候の変化が痛みに影響すると答えていますが、その一部は誤認によるものであることが示唆されています。

 

  ※1 Does rain really cause pain? A systematic review of the associations between weather factors and severity of pain in people with rheumatoid arthritis

 

■偏頭痛発作と天候の関係

 

  では、関節痛ではなく、頭痛ではどうでしょうか。

 

2024年の「片頭痛に天気が関係するかどうか」という総説では、片頭痛は気圧や湿度や風に関連している可能性があるものの研究結果に一貫性はなく、片頭痛発作に対する天候の影響は約20%だろうとしています(※2)。

 

関節リウマチと同様、個人差が大きいようです。

 

  日本で行われた研究でも、同様のテーマが取り上げられています。

 

2023年の「スマホアプリとAIを用いた天候が頭痛の発生に与える影響の調査:後顧的観察横断研究」では、匿名化された4000人超のスマホアプリユーザーの頭痛記録と1時間ごとの気象情報を分析したところ、低気圧、高湿度、降雨量の増加、6時間前と比較した気圧の低下、当日朝6時の高気圧、翌日の低気圧などが頭痛発生と関係することが示されました(※3)。

 

単に気圧が低いことだけではなく、気圧の変化も関係しているようです。

 

厳密には「アプリが気圧の低下を表示したから、ユーザーが頭痛を記録しやすい」といったバイアスを排除できていませんが、これまで言われてきた経験的な片頭痛の悪化要因と一致しています。

 

※2 Whether Weather Matters with Migraine 

 

※3 Investigating the effects of weather on headache occurrence using a smartphone application and artificial intelligence: A retrospective observational cross-sectional study

 

 ■ロキソニンは雨の日に売れる

 

  同じく日本の研究で、2015年の「天候と頭痛の発症:頭痛薬購入に関する大規模研究」では、主に頭痛に使われる鎮痛薬・ロキソプロフェン(代表的な商品名はロキソニン)のドラッグストアにおける売り上げと気象データが分析されました(※4)。

 

  雨天か晴天か、平日か休日かで客足に差が出るので売り上げそのものではなく、一般医薬品全体に占めるロキソプロフェンの売り上げ割合を調べました。

 

その結果、ロキソプロフェンは前日と比較して、気圧の低下、湿度の上昇、降水量の増加があった日によく売れることがわかりました。

 

「雨の日には頭痛が悪化するのでロキソプロフェンの売り上げが上がるのだろう」というわけです。

 

多くの被験者に頭痛の発生を正確に記録してもらうのは大変ですが、代わりに頭痛薬の売り上げを使用したところが、この研究の工夫です。

 

  一方、天候と症状には関係が見つからなかったという研究も多数あります。

 

多くの人が主観的に感じているほどには、天候と症状の関係は強くないようです。

 

でも、特定条件で関係性が認められないからといって、他条件で気象病が起きることを否定できません。

 

総合的に見ると、天候によってさまざまな症状が引き起こされてしまう患者さんは確かに存在します。

 

一部に天候とは無関係なのに関係があると誤認している患者さんがいたとしても、患者さんが感じている苦痛は本物であり、決して気のせいなどではありません。

 

※4 Weather and headache onset: a large-scale study of headache medicine purchases

 

■自覚的な痛みにプラセボが効く

 

  気象病には、標準的な治療はありません。

 

気象病のやっかいなところは、天候の変化は避けようがないことです。

 

仕事をしていない大金持ちなら気候のよい場所に移動したり、引っ越したりするという手段が取れますが、ほとんどの人にとっては不可能なことです。

 

実際には、複数の対症療法を組み合わせることが推奨されています。

 

  関節リウマチ片頭痛といった病名がついているなら、その病気に対する治療を行います。

 

また痛みに対しては、一般的な鎮痛薬も一定の効果はあるでしょう。

 

身体活動も有効だとされています。

 

雨が降ったからといって家の中にこもってじっと座っていたのではよくなるものもよくなりません。

 

  日本では、気象病に対して漢方薬や内耳性めまいに対する薬が使用されることもあります。

 

厳密な臨床試験で効果が証明されているわけではありませんが、経験的には効いたとする報告はあります。

 

痛みをはじめとした自覚的な不調にはプラセボ効果が効きやすいので、安価で副作用が小さい薬を利用するのはよい手段です。

 

なにぶん個人差が大きいので、それぞれにいろいろ試して効果的なものを選ぶといいでしょう。

 

プラセボ効果であろうとなかろうと、症状が軽減されればよいのです。

 

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 名取 宏(なとり・ひろむ) 内科医 医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。ハンドルネームは、NATROM(なとろむ)。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』『最善の健康法』(ともに内外出版社)、共著書に『今日から使える薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)がある。

 

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内科医 名取 宏

 

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