【以下ニュースソース引用】
河合俊雄さんが語る、生きづらさに向き合うための一冊。ロビンソン『思い出のマーニー』読み解き【100分de名著】
スタジオジブリによるアニメ映画化作品も有名な児童文学作品『思い出のマーニー』。
イギリスのジョーン・G・ロビンソンによるこの物語は、1967年の出版から、時空を超えた「癒やし」の物語として読み継がれてきました。
NHKテキスト「100分de名著 forユース」では、臨床心理学者・河合俊雄さんが本作を「人と人とのつながり」をキーワードに読み解きます。
今回は本書へのイントロダクションをご紹介します。
バーチャルな時代だからこそ
『思い出のマーニー』は、イギリスの児童文学作家のジョーン・G・ロビンソンによる、思春期の少女が体験する不思議な出会いと別れ、時空を超えた"癒やし"を描いたドラマチックな物語です。
本国では一九六七年に出版され、日本語訳が出たのは一九八〇年のこと。
二〇一四年に、スタジオジブリがアニメ映画化したことでも大きな話題となりました。
この本との出会いは、日本語訳が出て間もない頃――大学院(臨床心理学)に入った頃にまでさかのぼります。
児童文学ですが、私はすでに大人で、しかも心理学的な見方を身につけたあとに初めて読んだことになります。
深い心の交流と癒やしを描いた物語に感動し、以来、大切な作品であり続けています。
物語の舞台はイギリス。養い親とロンドンで暮らすアンナは、喘息の転地療養のためノーフォークに住む老夫婦に預けられ、海辺の古い館に住む不思議な少女マーニーと出会います。
二人は友情を育んでいきますが、ある出来事をきっかけにマーニーは姿を消してしまいます。
そして、物語の後半に至って、二人の運命をめぐる、驚きの真実が明らかになっていきます。
さて、いきなり核心に触れる話、いわゆる「ネタバレ」をしますが、それを知ったとしても、本書の面白さが損なわれることはありませんので、ご安心ください。
物語の後半で、マーニーはアンナの想像上の友だちであったことが明かされます。
心理学ではこれを「イマジナリーコンパニオン」と呼びます。今風に言えば、「バーチャルな存在」でしょうか。
もっとも、それ以前から、読者が「あれ? マーニーは現実の存在ではないかも?」と感じる個所が随所にあり、そうした「?」を伴う体験も、本書を読む大きな醍醐味の一つです。
なぜ『思い出のマーニー』を読んでほしいと私は考えるのか。
それは、現代がバーチャルな時代だからです。
X(旧Twitter)やInstagram に代表されるSNS、コロナ禍で普及したZoom のようなウェブ会議ツール、あるいは近年話題を集めているネット上の三次元仮想空間「メタバース」など、私たちの生活において、オンライン上でのつながりは欠かすことのできないものとして定着しています。
それは、そういったバーチャルなコミュニケーションに、多くの人たちがある種の「リアル」を実感しているからにほかなりません。
仮想と現実を行き来することが当たり前になった時代において本作は、あらためてバーチャルがもたらす「人と人とのつながり」を考えるきっかけとなる、最良の物語なのです。
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講師
河合俊雄(かわい・としお)
臨床心理学者
一九五七年生まれ。京都こころ研究所代表理事、京都大学名誉教授。八二年、京都大学大学院教育学研究科修士課程修了。Ph.D.(チューリッヒ大学、八七年)、ユング派分析家(九〇年)。甲南大学助教授、京都大学大学院教育学研究科教授、同大学こころの未来研究センター教授、同センター長、同大学人と社会の未来研究院教授を経て現職。主な著書に、『ユング』(岩波現代文庫)、『心理療法家がみた日本のこころ いま、「こころの古層」を探る』(ミネルヴァ書房)、『別冊NHK100分de名著 集中講義 河合隼雄』(NHK出版)、『夢とこころの古層』(創元社)などがある。※刊行時の情報です
◆「NHK100分de名著 forユース 2024年3月」より
◆脚注、図版、写真、ルビなどは記事から割愛しております。
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