【以下ニュースソース引用】

口永良部 、生きている火山島に暮らすということ(前編)

INTERESTS

 

島の息づかいのように、噴煙が立ち上る新岳(しんだけ)=鹿児島県屋久島町の口永良部島
古関千恵子

古関千恵子

 ビーチライター

リゾートやカルチャー、エコなどを切り口に、国内外の海にフォーカスした読み物や情報を発信する。ダイ …

 

 

口永良部島(くちのえらぶじま)をはじめて知ったのは、ニュース番組でのこと。

 

ヤシ並木の背後に灰色の噴煙がもうもうと渦巻き、空を埋め尽くしていく爆発的噴火の映像に、大きな衝撃を受けました。

 

2015年5月29日 、新岳が噴火。

 

それが我が国ではじめての噴火警戒レベル5(避難)が発令された時でした。

 

 

連載「楽園ビーチ探訪」は、リゾートやカルチャー、エコなどを切り口に、国内外の海にフォーカスした読み物や情報を発信する筆者が訪れた、各地の美しいビーチや、海のある街や島を紹介いたします。

2015年の新岳噴火・火砕流で全島民避難

その日、噴火による噴煙は上空9000メートルまで達し、噴石が飛散、火砕流も海へと到達しました。

 

発災から5時間半後には全島民が島外へ避難。

 

噴火の激しさにもかかわらず、死者はゼロでした。

 

その口永良部島へ。

 

アクセスはなかなかハードルが高く、屋久島からさらにワンステップが必要な二次離島。

 

屋久島の宮之浦港から1日1往復の定期船で、約1時間40分の船旅を要します。

 

フェリーでの移動中でのこと、船内アナウンスで流れてきたのは、噴火が起きた際の注意事項。

 

この時、噴火について「万一」から「もしかしたら」くらいに、私の中でリアルさが増しました。

 

屋久島で前泊して、宮之浦港からフェリー太陽Ⅱで口永良部島へ
屋久島で前泊して、宮之浦港からフェリー太陽Ⅱで口永良部島へ

 

口永良部島は約50万年前から現在にかけて、10座の火山が火山灰などを噴出して誕生し、大きくなった島です。

 

大小二つの島が合体したような形をしていて、最高地点で657メートル。

 

そう聞くと、それほどの高さではないけれど、水深600メートルの海底から立ち上がった地形で、合わせれば1200メートル。

 

薩南諸島における火山島としては最大です。

 

島の中心は、大小二つの島が合わさった地峡部分の本村(ほんむら)地区。

 

フェリーから本村港へ降り立つと、大きな島の新岳(しんだけ)からはちょろちょろと煙が昇っていました。

 

生きている火山島です。

 

今も新岳の火口から半径1キロ以内(西側は2キロ以内)の立ち入り、この範囲の道路の通行が規制されています。

 

島の中心地は本村地区。島の暮らしに欠かせない施設が集まっています。ちなみに金岳小学校のヤシの木には国の天然記念物エラブオオコウモリもやってきます
島の中心地は本村地区。島の暮らしに欠かせない施設が集まっています。ちなみに金岳小学校のヤシの木には国の天然記念物エラブオオコウモリもやってきます

 

本村地区には、よろず屋的商店、酒屋、温泉施設、郵便局、小中学校などが集まっています。

 

このエリアに島の人口100人ほどのほとんどが暮らしています。

 

本村のメインストリート?
本村のメインストリート?
森に入ると、南国の見たことのない植物も。ちなみに、こちらはナンゴクウラシマソウ
森に入ると、南国の見たことのない植物も。ちなみに、こちらはナンゴクウラシマソウ

 

島を高い位置から眺めるなら、標高291メートルの番屋ヶ峰へ。

 

緑に覆われた起伏に富んだ島や、沖に浮かぶ薩摩硫黄島など三島村の島々も望めます。

 

そしてここにはかつてのNTTの施設を利用した避難所もあります。

 

ここには島民が1週間避難できる食料などが備蓄されているそうです。

 

番屋ヶ峰からの眺め。島は起伏に富んでいます
番屋ヶ峰からの眺め。島は起伏に富んでいます
噴火が発生した際には、声をかけあい、車に乗り合いをして、この避難所に向かうルールに。現在は移住組や親子留学も増え、過去の噴火を体験した人は島民の7割ほどだそうです
噴火が発生した際には、声をかけあい、車に乗り合いをして、この避難所に向かうルールに。現在は移住組や親子留学も増え、過去の噴火を体験した人は島民の7割ほどだそうです

 

火砕流が押し寄せた向江浜(むかえはま)にも行ってみました。

 

一面、灰色の岩や土砂が広がり、そのところどころに骨のような白い枯れ木が数本。

 

土砂に埋もれ、屋根だけをのぞかせた家もあります。

 

噴火から8年の歳月を経ても生命の欠片さえ感じさせない光景の中、小川のせせらぎだけが涼やかに響いていました。

 

向江浜へ続く、火砕流の跡
向江浜へ続く、火砕流の跡
自然の脅威を思い知らされます
自然の脅威を思い知らされます

幾度も噴火経験、高められた防災意識

山道を走っていても噴石を避ける待避所を見かけ、施設の壁にはヘルメットの用意があるなど、噴火に対しての準備がみられる島内。

 

暮らすのはさぞや大変かと思い、島唯一の酒屋「渡辺商店」の渡邉百一(ももかず)さんに話を聞いてみました。

 

もしもの時の噴石の待避所。山道で見つけた、マークが付けられた舗装のはがれた部分は噴石被害の跡だそう
もしもの時の噴石の待避所。山道で見つけた、マークが付けられた舗装のはがれた部分は噴石被害の跡だそう

 

1947(昭和22)年4月生まれの百一さん、これまで噴火は何回か体験してきたそう。

 

最初に体験したのは、就職先の東京を引き揚げて島に戻った頃のこと。

 

新岳に近い前田に住んでいた百一さんは「ドーン!」という爆音を耳にして、その瞬間、何が起きたかわからなかったとか。

 

「誰かの『噴火だ!』の声に空を見上げた時は煙が上がっとってね。灰が降ってきて。もう、すぐだったですよ」

 

幾度となく噴火を経験した、渡邉百一さん。口永良部島の資料の編纂(へんさん)もしています
幾度となく噴火を経験した、渡邉百一さん。口永良部島の資料の編纂(へんさん)もしています

 

それから何年間かは、立て続けに噴火が起きたり、しばらく起きなかったり。

 

まもなくして島内で防災訓練が始まったそうです。

 

当時は自動車も島内に1台あるくらいで、道路も未舗装。

 

そこで道路工事がはいり、その建設業者にも防災訓練に協力してもらったこともあったとか。

 

そんな変遷を重ねながら防災への意識を高めたからこそ、2015年の噴火時もスムーズな避難が可能だったのではないでしょうか。

 

百一さんの渡辺商店内にもヘルメットが
百一さんの渡辺商店内にもヘルメットが

登山して祈り、火口の硫黄を「お守り」にした幼少期

百一さんの幼少期、火山は暮らしの中で身近な存在であったようです。

 

「元旦には頂上へみんなで行きよって、手を合わせた」と、なつかしそうに話します。

 

「昔は噴火口の中に降りられたものだから、硫黄を取ってね。

 

石を積んでおくと、隙間から硫黄の蒸気が通り抜けて、(成分が)くっつく。

 

それを手でこすって取る。純度が高いやつはそりゃ、きれいよ。

 

黄色くて、結晶がキラキラッとする。

 

紙に包んで持って帰って、家の四隅にまいておくと、トカゲやムカデが家に入ってこない。

 

なんていうの? 学術的には定かじゃないけど、お守り的にね」。

 

百一さんのお兄さんは通学前に往復4時間かけて山に登り、硫黄取りをするアルバイトをしていたこともあったとか。

 

また、本村区長の貴船森(きぶね・もり)さんは2015年の島外避難中に「どうしてそんな危険な島に戻りたいのか?」と聞かれたことがあったそうです。

 

「この島では、都会のようにああしたいと願えばかなうような生活はできません。

 

すべての中心が自然。それに自分たちが寄り添って、生かしてもらっています。

 

山の噴火もその一部。思うようにいかない自然の中で、それを受け入れて、生かしてもらっている」

 

貴船さんは幼少期をこの島で過ごし、島外へ出たのち、27歳のときに戻ってきました。

 

「都市部で生活しているとき、ある体験をきっかけに、物質的なものに依存していることに気づきました。

 

自分でしっかり物事を考えて、日々を振り返りながら生活していないことにがくぜんとして。

 

いいもの食べたいとか、誰かが作ったものにしがみついている」

 

「この島は都会的な物質的なものは足りないので、自分で補うしかない。

 

知恵をしぼって生きることに、生きている実感がすごくもてます。

 

そんな住まわせてもらっている島の一部に大きな火山がある。

 

いわば、火山はシンボル。

 

こわいものではなくて、逆に大切なものです」

 

本村区長の貴船森さん。「ここは、生きていることを実感できる島」
本村区長の貴船森さん。「ここは、生きていることを実感できる島」

 

次回の後編では、そんな火山がもたらす口永良部島の恩恵、温泉(秘湯)や植物相について、ご紹介します。

 

【取材協力】 えらぶ年寄り組 https://kuchinoerabu-jima-senior.org/index.html

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口永良部 、生きている火山島に暮らすということ(前編)

口永良部 、生きている火山島に暮らすということ(前編)13

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