【以下ニュースソース引用】
おしゃれな歌詞の核心を、皮肉も込めておしゃれに歌う、KIRINJIの大人の遊び心
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![いしわたり淳治](https://www.asahicom.jp/and/M/wp-content/uploads/2019/02/forweb_ishiwatarijunji_pic.02jpg.jpg)
作詞家・音楽プロデューサー
1997年にロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビューし、オリジナルアルバム7枚、シン …
音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。
この連載ではいしわたりが、歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。
今月は次の5本。
1 “仄めかすから 察してほしいね”(KIRINJI『ほのめかし feat. SE SO NEON』作詞:堀込高樹、Hwang Soyoon)
2 “練習してきた話”(囲碁将棋 根建太一)
3 “1.4”(くりぃむしちゅー 有田哲平)
4 “体重が乗る”(ハリウッドザコシショウ)
5 “他人目線の独り言”
日々の雑感をつづった末尾のコラムも楽しんでほしい。
![おしゃれな歌詞の核心を、皮肉も込めておしゃれに歌う、KIRINJIの大人の遊び心](https://www.asahicom.jp/and/data/wp-content/uploads/2023/12/kotobagari-32_01_z06_1.jpg)
KIRINJIの音楽はおしゃれである。
“おしゃれとは何か”みたいなことを言い始めるときりがないので割愛させて頂くけれど、ざっくり言えば、“しゅっとした雰囲気”みたいなものだと思う。
つまり、生活感や人間臭い部分が少ないと、多くの人におしゃれだなと感じてもらいやすいのである。
子供がぺったんぺったん貼ったシールの跡や落書きだらけの簞笥よりも北欧でデザインされた多少使いにくくともスタイリッシュなシェルフのほうがおしゃれだし、洗濯機で100回は洗ったであろうヨレヨレのスウェットよりもいかにも洗いにくそうな異素材と異素材の組み合わされた凝ったニットのほうがおしゃれなのである。
それは音楽にも言えて、数年前から流行しているシティーポップというジャンルの音楽は、生活感や人間臭さみたいなものを消すことで都会的な格好良さを醸し出すといったタイプの音楽である。
「おれはあいつにムカついてる」「どうしておれはモテないんだ」「今に見てろよ、おれはこんなもんじゃないぜ!」などと、むき出しの感情を押し出すのは残念ながら、人間臭くておしゃれではない。
なので、これらをシティーかつポップにするには、どう書くかというと、主語を消して、それとなく、ぼやかして、例えば「胸のざわめきが風に溶けていくよ」「さよならを抱きしめて生きていくのさ」「朝陽が何か言いたげに顔を出した」なんて具合に変換するのである。たぶん、おそらく。
そして、KIRINJIの『ほのめかし feat. SE SO NEON』である。
この曲のすごいところは、正真正銘のおしゃれサウンドの上で「語尾は曖昧 主語は言わない 5W1H そんなのは野暮だい」「仄めかすから 察してほしいね 仄めかしたら 察してあげられるはず」と歌うのである。
つまり、いわゆるおしゃれな歌詞の核心を、おしゃれな音楽にのせて、皮肉も込めておしゃれに歌っているのである。
なんという大人の遊び心だろう。私もこんな大人でありたいものである。
いつも心にKIRINJIを。そんな気分で暮らしているこのごろ。
![おしゃれな歌詞の核心を、皮肉も込めておしゃれに歌う、KIRINJIの大人の遊び心](https://www.asahicom.jp/and/data/wp-content/uploads/2023/12/kotobagari-32_01_z06_2.jpg)
11月30日放送のテレビ朝日『アメトーーク!』でのこと。
テーマも台本もなくフリートークをする「立ちトーーク」の企画で、囲碁将棋の根建太一さんが挙手して「前日練習してきた話していいですか?」と聞いた。
「ハードル上がるよ?」「練習を発表する場所じゃないんだけどなあ」と周りからさんざんつっこまれながら、練習して来たというエピソードトークを果敢に披露した。
話し終わって案の定、客席から失笑が起こると、根建さんは客席に向かって歩み出て、サッカー選手がゴールを決めた後のように両手で客席を煽ってリアクションを要求した。
「一生懸命やったんで、一応、反応くれないと」と言いながら。
漫才やコントなどのネタなら練習して来たと言われても観客として嫌ではない。
でも、多分それはフリートークであっても同じはずで、出演者が本当に何も用意せずに手ぶらでやって来て、大した話もせず帰っていかれたらシンプルに嫌である。
なのに「事前に練習してきた」と口に出すのはタブーなのだから、人間の心理というのは不思議なものである。
ふと、この二つが混在しているのが音楽のライブだなと思った。
当然ながら演奏や演出は何度もリハーサルを重ねて本番に臨むものであるが、ライブにはMCというのがつきまとう。
本来は自由であるはずのMCに、たくさん練習して来た感じが見えすぎると、見ている側はなぜか冷めてしまったりもする。
だからと言って、無難な定型文みたいなMCだけでは、せっかく生で見ているのだからもう少し素の部分が伝わってくる話のひとつでも聞きたかったなと思ってしまうのだから、あこぎなものである。
真面目なアーティストほどMCで話す内容を事前に考えて練習して来ているものである。
それなのに会場が変な空気になってしまったら、内心では両手で客席を煽りたい気持ちに違いない。
この先、私はライブで誰かの頑張ったMCを聞く時、根建さんの姿を思い出すだろう。
そして、頑張った分のリアクションをちゃんと返してあげるのだ。
![おしゃれな歌詞の核心を、皮肉も込めておしゃれに歌う、KIRINJIの大人の遊び心](https://www.asahicom.jp/and/data/wp-content/uploads/2023/12/kotobagari-32_01_z06_3.jpg)
11月25日放送の日本テレビ『ニッポン人の頭の中』でのこと。
「ナビゲーションサービスNAVITIMEで1年間でもっとも多く目的地検索された場所はどこか?」というクイズが出題された。
都道府県別で東京都内の答えは“東京ドーム”だった。
イベントのたびに数万人が押し寄せること、電車の最寄り駅が複数あることなどが、理由なのだそう。
回答者の有田哲平さんは違う答えを予想していて、正解を知った後も納得できない様子でいると、司会のアナウンサーから「でも、毎年1月4日に東京ドームで新日本プロレスの試合が行われますよね」と言われ、「まあ、たしかに、プロレスファンは1月4日に年が明ける、みたいなところがあります……」と渋々、うなずいた。
「でも、1月4日って言ってる時点で違いますけどね。
(プロレスファンは)いってんよん、ですから」と、後ろ足で砂をかけるようにつぶやいた。
たしかに。以前から、プロレスなどの格闘技のイベントは、なぜ日付を小数点で読むのだろうと不思議に思っていた。
クリスマスやバレンタインデーも「じゅうにーてんにーごー」「にーてんいちよん」などと読むだけで急に、人生における重大な分かれ道であるかのようなマッチョな響きに聞こえてくるから可笑しい。
それとよく似た違和感のひとつに、ライブとかフェスを見に行くことを「参戦」と呼ぶ慣習も個人的にずっと奇妙に感じている。
「今年のフジロック参戦します!」「ツアーファイナルZEPP東京、福島から参戦します!」みたいな。
ライブは戦いなのだろうか。
それは誰と誰の戦いなのだろう。演者と観客だろうか。観客同士だろうか。それとも自分自身との戦いだろうか。
ともあれ、戦いである以上、ライブやフェスの開催日の日付もまた、小数点読みされるのが適切なのかもしれないな、と思う。
手先の技術でなく「体重が乗った」説得力
![おしゃれな歌詞の核心を、皮肉も込めておしゃれに歌う、KIRINJIの大人の遊び心](https://www.asahicom.jp/and/data/wp-content/uploads/2023/12/kotobagari-32_01_z06_4.jpg)
11月22日のテレビ東京『あちこちオードリー』でのこと。芸能事務所ソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)から出たM-1やR-1といったコンテストのチャンピオンたちが、こぞって事務所の先輩であるハリウッドザコシショウにアドバイスをもらったと話していることについて、当の本人は「いや、そんな大したこと言ってなくて。やりたいことをやってんのか、と。
やりたいことをやる方が、体重が乗るから、と。体重が乗るボケと、体重が乗るツッコミをした方が絶対いいよ、と。
無理してお客さんに合わせるようなことをすると、自分のやりたいことをやれてないじゃないか、と。そういうことを言ったんです」と、こともなげに言った。
「一番いい先輩じゃないですか!」とオードリーの若林正恭さんから褒められると、普段からエゴサは欠かさないという、普段の破天荒な芸風とは想像もつかない自身の繊細な一面について話し始め、「世間にどう思われているかは感じとかないとダメですよ。
自己プロデュースをしないといけないですよ、やっぱり。知らず知らずに変な方向に行ったら、違うじゃないですか、僕。
(一見、メチャクチャなようでも)嫌われすぎるとダメなんですよ。
可愛いなって思われないとやっぱりダメなんですよ。
だから、あんまり太りすぎない方がいいなと思うんですよ。
キューピーちゃんみたいな感じの方がいいんですよ。
(太りすぎないように)ウォーキングしてますもん!
炭水化物ちょっと抜いてますもん!
努力の賜物なんですよ!
あんまりね、こういうこと、言っちゃいけないんですけどね」と言って笑った。
体重が乗る。
とてもいい表現である。
小手先の技術で打つより、体重が乗った重いパンチの方が破壊力は大きい。
もちろん、それはメンタル的な部分の例えだと思うけれど、彼は実際の体重も絶妙のラインで増減して、フィジカル的にもボケに体重を乗せているのだから、そりゃあアドバイスの説得力が違うでしょう、と思った。
![おしゃれな歌詞の核心を、皮肉も込めておしゃれに歌う、KIRINJIの大人の遊び心](https://www.asahicom.jp/and/data/wp-content/uploads/2023/12/kotobagari-32_01_z06_5.jpg)
11月15日放送のフジテレビ『ホンマでっか!?TV』でのこと。
心のストレス解消SPというテーマで、さまざまなストレス解消法が紹介される中、中央大学教授の松井智子先生が「自分のイライラなどの心理的な状況を言語化するとストレスが解消されやすいので、独り言をつぶやくとストレスを解消できます。
しかも、他人目線の独り言のほうが効果的です。
“私は”という一人称よりも、自分の名前を呼んだほうが効果的だということがわかっています。
例えば、“私は今すごく頭に来ている”じゃなくて、“智子(自分の名前)は今すごく頭に来ている”とか“智子はいま、なんで頭に来ているんだろうね?”と疑問を寄せるとか。第三者的な目線で客観的に見るっていうのが良いんです」と言った。
なるほど、これはいいことを知った。
早速やってみようと思ったのだけれど、これがなかなか難しい。
それもそのはずで、腹が立つ時というのは大抵、近くに誰かがいるのである。
なので、独り言など言えるわけもなく、そのストレスをそっと家まで持ち帰ることになるのだけれど、今度は家には家族がいる。
なので、夜な夜な一人で湯船につかりながら、「そっかぁ、じゅんじは今、怒っているんだねぇ。うんうん、分かるよ。ちゃぽん、ちゃぽん」なんて具合に、こっそりやらねばならない。
しかし、それを脱衣場にタオルを持って来るなどしてくれた心やさしい妻に聞かれようものなら、もう一巻の終わりである。
とうとうストレスでおかしくなってしまったと、秘密裏に親戚が集められ、たちまち大きな病院を紹介されてしまう。
あとから慌てて、いや、こうこう、こんなストレス解消法があって、私はそれを試していただけなんだ、と説明したところで、信じてもらえない可能性のほうが高いので、皆さんも試す時はそれなりの覚悟を持って頂いて。
<Mini Column>ぬるっとしたやりとり
先日、ひょんなことから群馬県のこんにゃくパークへ出掛けた。
おかげでこんにゃくにちょっと詳しくなった。トリビア的に豆知識をひとつ紹介すると、私たちのよく知っている黒い粒つぶの入ったグレーっぽい色のこんにゃくは、あれは原料であるこんにゃく芋の皮が混じってあの色になっていると思われがちだけど、実はそうではない。
こんにゃくは、そもそも白いものであって、見た目に美味しそうになるように、ヒジキなどの海藻をあえて混ぜて、色付きのこんにゃくにしているらしい。
実際に皮の混じったこんにゃくもあるが、それはグレーではなく茶色っぽい色のこんにゃくなのだそう。
へえー。
パークの敷地内に足湯が出来るスペースがあって、湯に足を浸していると、近くでこんにゃくソフトクリームというのが売られていた。
足湯をしながら食べたらさぞ美味しかろうと思ってレジに並ぶと、メニューの中に“期間限定発売! 生芋こんにゃくソフトクリーム”という文字を見つけた。
普通のこんにゃくソフトとの違いを店員に尋ねると、そんなことを聞くお客さんは初めてです、みたいな驚いた口調で、「こんにゃく自体に味はないから、生芋こんにゃくソフトでも、普通のこんにゃくソフトでも、味に違いはありません」と、驚きすぎたせいか、身も蓋もないことを言う。
いや、味は同じだとしても食感は違うのではと尋ねると、「こんにゃくはこんにゃくだから、食感に違いはありません」と、またしても驚いた様子で身も蓋もないことを言う。
この時点でだいぶ奇妙な気持ちになったが、それでも、わざわざ期間限定と謳うくらいなのだから、何かしら違うはずで、落ち着いて、あらためて違いを尋ねると、「生芋が入っているか、こんにゃく粉が入っているかの違いです」と言う。
こちらも困り果ててメニューに目をやると、こんにゃくの入っていないシンプルな濃厚ソフトクリームというのを見つけた。
この濃厚ソフトクリームと、こんにゃくソフトクリームでは、さすがに何か違いがあるはずだと思って尋ねると、「違いは、こんにゃくが入っているか、入っていないかです」と、またしても禅問答みたいなことを言う。
結局何も分からなかったけれど、オーケー、オーケー、分かりました、みたいな顔で普通のこんにゃくソフトクリームを頼んだら、よく分からないけれど美味しかった。