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「朝日ジャーナル」が報じた旧統一教会「霊感商法」の実態 原価3万円の壺を147万円で売りつけ〈週刊朝日〉

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世界平和統一家庭連合の田中富広会長

 

 安倍晋三元首相の銃撃事件をきっかけに、旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の「霊感商法」の実態が注目されている。

 

だが、それらは35年前、「朝日ジャーナル」が徹底的なキャンペーン報道で迫ったテーマだった。

 

霊感商法の手口や原価などを振り返る。

 

  【写真】多宝塔や壺を前に会見する「霊感商法被害救済担当弁護士連絡会」のメンバー

 

 旧統一教会による霊感商法の実態をいち早く社会に知らしめたのは、朝日新聞社が発行していた週刊誌「朝日ジャーナル」(1992年休刊)だった。

 

86年12月5日号で「豊田商事をしのぐ冷血の手口 霊感商法の巨大な被害」とのタイトルで始まった追及キャンペーンは、およそ1年間で10回にわたって続けられた。

 

当時、「開運商法」などと呼ばれていた行為に霊感商法という呼称を定着させたのも同誌だ。

 

  霊感商法の一般的な手口は、街頭や戸別訪問などで「手相を見てあげます」「姓名判断をしましょう」などと言って接近し、象牙の印鑑を売る。

 

だが、印鑑は入り口に過ぎず、「占いの偉い先生が特別に見てくれる」などと誘い、「霊場」と呼ばれるマンションの一室や、展示会に連れ出す。

 

先生は「悪霊がついている」などと不安をあおり、法外な値段で壺や多宝塔を売り込むというものだ。

 

  86年12月5日号で紹介されたケースを紹介する。北九州市に住むB子さん(60)の被害金額は、3700万円に上った。

 

 <B子さんにとってこたえたのは、「お宅は絶家の家系です」といわれたことだった。

 

息子の命が危ないといわれた。

 

それは本当かもしれないと、彼女は思った。

 

一九七七年三月、同市の公務員五人が火事で殉職した。B子さんの夫もその一人だった。

 

夫の非業の最期が、息子の姿に重なってみえた。もうひとつ、彼女が震えあがったことがある。

 

「焼け死んだ人は、霊界で痛みが三○倍になる」と聞かされたことだ。

 

  八四年七月下旬、B子さん宅を増田都子という女性が訪れ、手相をみた。

 

このとき印鑑を三万円で買った> 

 

 その後、霊場に連れていかれ、600万円の多宝塔を押しつけられ、高麗人参1ダースを96万円で契約。

 

さらに、先生(霊能者)から3千万円を神に捧げるよう促された。

 

<三千万円を受領した後、先生は「霊薬と壺をあげましょう」といって、「高麗人参三四三個」「高麗大理石三個」預かりという保管書を発行してくれた。

 

つまりB子さんに三千万円を献金させたあと、人参、壺の正常な売買があったように偽装したのである>

 

  当時、取材班の一人だった藤森研・元朝日新聞編集委員が説明する。

 

 「霊感商法の手口について、脱会者に何人も会って聞いています。

 

印鑑の販売員たちは客の家族構成や預貯金など身辺情報を巧みに聞き出し、先生に事前に伝えてある。

 

だから初対面でもお見通しなのです」

 

  霊場で先生は「ご先祖様に祈って聞いてきます」などと言って中座する。

 

別室で先生は「タワー長」と呼ばれる上司に客の状況を報告し、説得のための言葉や、出させる金額を相談しているのだ。

 

一方、被害者について藤森氏はこう語る。

 

 「40代、50代の女性が多かった。夫に先立たれるなど不幸や不安の最中に訪問を受けるケースが目立った。

 

被害者に会うことが長期間にわたる取材のパッション(情熱)になっていきました」

 

  霊感商法を警察が摘発し、統一教会との関係をあぶり出した事例もある。

 

  83年に青森県で50歳の女性に対し、「亡夫の霊」「水子の霊」が出たと脅した霊感商法グループのA(36)、B子(31)、C(31)の3人が有罪となった恐喝事件だ。

 

87年1月30日号で詳しく報じているが、手口のひどさが際立つ。

 

  被害者は青森県内に住むP子さん。農家に嫁いだが生計は苦しく、2児をもうけた後は、中絶をくり返さざるを得なかった。

 

前夫はがんで亡くなり、6年後に再婚した現在の夫も交通事故で脳挫傷を負い、言語障害の後遺症のため仕事ができなくなった。

 

  82年秋、自宅に「グリーンヘルス」という会社の印鑑販売員がやってきて「私の会社の印を使えば運が開ける」などと言った。

 

P子さんは印鑑3本セットと実印を購入。販売員は2時間ほどいて、P子さんの身の上話を聞いて帰っていった。

 

 83年7月、Aから電話があり、「前に印鑑を買ってもらったグリーンヘルスの者だ。

 

先生があなたの先祖を拝んだら、悪い霊がいっぱいついていた」などと言われ、先生に会うよう執拗に勧められた。

 

夫とともに連れていかれたのはホテルの一室。

 

和室に祭壇が飾られ、壺が置かれていた。

 

  先生役のB子は「あなたが堕ろした子どもや病死した前夫が成仏できずに苦しんでいる」「全財産を投げ出して成仏させないと不幸が続く」などと脅し、財産を問いただしてきた。

 

P子さんは夫の交通傷害保険として1200万円が入り、預金してあると打ち明けた。

 

  先生は「全部出しなさい。そうすれば霊を成仏させてやる」と迫った。

 

 <いつ入室したのか、一人の男がいて、どなり声をあげて暴れ始めた。

 

「前夫の霊が乗り移った」と。この男がCである。

 

  Cは室内を走り回り、「みな殺しにするぞ。成仏させてくれるのか、くれないのか」とわめきながらP子さんに何度もまとわりついた。

 

押し倒し、殴りかかる。

 

Aがそのたびに引き離す役回りをした。夫もまとわりつかれたが抵抗できなかった。

 

P子さんは気味悪さと恐ろしさで体がふるえた> 

 

 P子さんと夫は、午前10時半ごろから午後8時ごろまでホテルの一室に監禁され、脅され続けた。

 

 <「長時間にわたって、部屋の中で責められ、疲れきっていた」P子さんは、とうとううなずいてしまった。

 

翌日、Aらに銀行に連れて行かれ、定期預金を解約して一二○○万円を渡した。

 

なぜかそれから二、三日のうちに、Aが頼みもしない「一和高麗人参濃縮液」三ダースを自宅に置いて行った。

 

P子さんは、八月二日、警察へ届け出た>

 

  84年1月、青森地裁弘前支部でA、B子、Cの3被告にそれぞれ懲役2年6カ月、執行猶予5年の判決が言い渡された。

 

  警察がA宅を捜索したところ、統一教会の教理解説書『原理講論』や、国際勝共連合の機関誌「世界思想」などが見つかった。

 

B子宅の洋服タンスの中には教団の創始者である文鮮明氏の写真があったとされる。

 

「被疑者と統一教会とのつながりについて」と題する警察捜査報告書(83年11月27日付)には、次のように記されていた。

 

 <Aが所属するグリーンヘルスという会社は、世界基督教統一神霊協会(統一教会)および主義思想を同じくする、異名同体の国際勝共連合の思想教育を受けた者の集りであることは本年一一月一五日に被疑者宅を捜索した際、同所で事情聴取したH(三一)、M(三七)、N(三一)らの申し立てから、明らか> 

 

 霊感商法の商品は、統一教会の本部がある韓国でつくられていた。

 

当時、壺や多宝塔の製造元だったのは「一信石材工芸」、高麗人参濃縮液を製造していたのは「一和」。

 

ともに統一教会の関連企業だった。

 

前出の藤森氏は渡韓し、両社の本社や工場などを訪れた。 

 

「壺などの原価がわかったことが大きな成果だった」と藤森氏は語る。

 

  一信石材工芸の事業報告書によると、86年の販売実績は花瓶が2万3900個で約33億、石塔が2454個で約72億ウォン。

 

ほぼすべてが輸出されていた。その多くが日本向けと見られている。

 

  当時、1ウォン=0.2円(現在は0.1円)で1個あたりの平均価格を計算すると、壺が約3万円、石塔が60万円程度。一方、86年に神奈川県消費生活課がまとめた被害の実態によれば、霊感商法による1個あたりの平均購入額は、壺147万円、多宝塔911万円。

 

法外な値段で売りつけていたことが実証された。

 

  高麗人参濃縮液は、一和本社内の売店で1瓶買うと、30グラム入りで6100ウォン(約1200円)。

 

日本の霊感商法では300グラム入りがだいたい8万円で売られており、6~7倍の価格になる(87年3月27日号)。

 

  ちなみに、キャンペーン報道が続いていた87年春、朝日ジャーナルの編集長は筑紫哲也氏から伊藤正孝氏に交代した。

 

筑紫氏は同年4月10日号の巻頭コラム「多事争論」で、こう警告している。

 

 <「霊感商法」についての本誌の“突出報道”に対して相手方が社に行った激しい抗議のなかに、私のような人物を編集長に据えておく非を責める文言があったが、私が去ってもさして何も変わらないことをやがて悟ることになるだろう> 

 

(本誌・亀井洋志)

 

 ※週刊朝日  2022年8月19・26日合併号より抜粋