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人一倍感受性の強い気質《HSC》の子どもたち 最適な学校選びと環境づくり、どうすれば?

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朝日新聞EduA

人一倍感受性の強い気質《HSC》の子どもたち

 

今、5人に1人が生まれつき、人一倍感受性が強い子ども「HSC(Highly Sensitive Child)」といわれています。

 

「HSCの子どもは、周りの人の感情に敏感なため、環境になじめないと感じてしまうことも少なくない」と話すのはHSCに関する書籍を出版されている医師・明橋大二さん。

 

こうした背景もあり、環境の一つとなる学校選び(中学受験)を慎重に行う親御さんもいるそう。

 

今回はHSCの特徴や支援、環境選びについて明橋さんと、実際に中学受験をしたHSC当事者のご家庭に話を伺いました。

【話を聞いた人】子育てカウンセラー・心療内科医 明橋大二さん

明橋大二さん

 

(あけはし・だいじ) 昭和34年大阪府生まれ。 京都大学医学部卒業。 子育てカウンセラー・心療内科医。 国立京都病院内科、名古屋大学医学部付属病院精神科、愛知県立城山病院をへて、真生会富山病院心療内科部長。 児童相談所嘱託医、NPO法人子どもの権利支援センターぱれっと理事長。 専門は精神病理学、児童思春期精神医療。著書「子育てハッピーアドバイス」シリーズは、累計500万部を超える。

HSCは病気でなく、生まれ持った気質

人一倍敏感な子どもを指す「HSC」という言葉をご存じですか? 

 

アメリカの心理学者、エレイン・N・アーロン氏が提唱した概念で、ここ数年、SNSなどを中心にじわじわと広まってきています。

 

 同氏の研究を日本で最初に紹介した医師の明橋大二さんは、「HSCは病気ではなく、生まれ持った気質。だから環境などの影響で後天的にHSCになることはありませんし、将来的に脱することもありません」と語ります。

 

 「HSCは病気ではありませんから、判定のために医療的な診断も必要ありません。

 

提唱者であるアーロン氏が作成した23項目のチェックリストや、HSCの4つの性質を提唱した『DOES』を使って、当事者が項目に当てはまるかどうか、自分で確かめます」 

 

●「DOES」の項目

 

 D(Depth of processing):深く処理する

 

 O(being easily Overstimulated):過剰に刺激を受けやすい 

 

E(being both Emotionally reactive generally and having high Empathy in particular):全体的に感情反応が強く、特に共感力が高い 

 

S(being aware of Subtle Stimuli):ささいな刺激を察知する 

 

具体的には、料理の隠し味を全部当ててしまうほど味覚や匂いに敏感だったり、チクチクした肌ざわりが苦手だったりする特徴のほか、ちょっとした物音で起きてしまうため、赤ちゃんの頃から保護者が育てにくさを感じることも。

 

また、周りにいる人の感情をダイレクトに受け取ってしまうため、保育園や幼稚園、学校に馴染みにくい傾向もあるそうです。

 

 「こういった特徴は発達障害における知覚過敏にも当てはまるため、自閉スペクトラム症と誤解されやすい。

 

でも、大きな違いは、人の気持ちに敏感な点です。

 

親が疲れて帰ってきたことに気が付く、アニメの主人公に感情移入して一緒に泣く、学校などでクラスメートが辛い思いをしているのがわかるーーこのような事例がHSCの子どもにはよく見られます」 HSCの子どもたちは、少しの刺激でも過剰に感じます。

 

中でも学校は刺激が多い場所。生徒同士のケンカや悪口、教員の大声など、他の人が何も感じないレベルの刺激でも、刺激過剰になってしまうのです。

 

 「環境さえ本人に合えばイキイキと学校生活を送れますが、合わないと不登校になってしまうことも。

 

子どものうち、5人に1人はHSCだと言われていますが、不登校の生徒では、5人のうち4人ほどがHSCに当てはまると考えています」

 

 HSCにはさまざまなタイプがあります。

 

教員の感情を察知する能力に長けているため優等生タイプが多い一方、刺激によって落ち着きがなくなる子もいると言います。

 

 「全体の中では、内向的なタイプが7割、外向的なタイプが3割ほど。刺激が多すぎてハイになるタイプは、怒りっぽくなったり、落ち着きがなくなったりして、問題行動につながる場合もあります」

HSC に必要な支援は、本来すべての子どもにとって必要なもの

では、HSCの子どもたちはどのような環境が適しているのでしょうか。

 

明橋先生は、「学校現場で特別なフォローが必ずしも必要なわけではないが、落ち着いて勉強ができ、安心できる環境が大切だ」と言います。

 

 「避けたいのは、暴言や暴力、授業中の離席などがある環境です。

 

教室全体が静かで、勉強に取り組めるクラスであれば、負担は小さくて済むでしょう」

 

 クラスが落ち着かない空間であったとしても、疲れたら保健室で休ませてもらう、少人数のクラスで過ごさせてもらうといった配慮があれば、負担はかなり改善されるそう。

 

 しかし、HSCについての認知は学校関係者の間でもまだ大きく広まってはいないため、サポートを求めても理解されないことがあるそうです。

 

 「学校の環境が合わない場合は、まず担任の先生に相談してみてください。

 

それでも対応が変わらないようであれば、HSCに理解がありそうな養護教諭やスクールカウンセラーなどから説明してもらう方法も。

 

保護者から言うよりも、教員同士で話し合った方が、理解してもらいやすいことがあります」 

 

「それでも学校側の対応が難しい場合は、医師が診断書を書くケースも。

 

HSCは病気ではありませんから本来は適さない上、その時に対応した医師の判断にもよりますが、学校を動かす最後の一押しにはなるでしょう」

 

 ここまで言うと、「HSCには特別なフォローが必要なのだ」と感じる方もいるかもしれませんが、明橋先生は、「HSC に必要な支援は、本来すべての子どもにとって必要なものだ」と語ります。

 

 「友達同士が喧嘩したり、教員が大声で叱ったりしているのは、みんな嫌なもの。

 

そういう『嫌だな』という気持ちを、人一倍敏感な感性で教えてくれるのがHSCの子どもたちなのです」 

 

自分の子どもが他の子と違っていると、保護者は不安になると思いますが、HSCは多様性のひとつ。

 

「人と違ってもいいんだという考え方を、保護者にはまず持ってほしい」と明橋先生は話します。

塾や学校は子ども自身が選んだ場所へ

勉強をするAさんの娘

 

HSCの子どもを持つご家庭では、どのように環境を整えていったのでしょうか。

 

中学受験をして大阪府内の学校へ通うAさんとMさんの2つの家庭にお話を伺いました。

 

 Aさんは、2020年のコロナ禍に中学受験をした娘の保護者です。

 

 「HSCには高感受性で内向型だけでなく、好奇心旺盛な刺激追求型(HSS型)があると知り、娘がHSCなのだと認識できました。

 

それはちょうど、中学受験を控えた小学6年生の春でした。

 

どう対応していけば娘が快適に過ごしていけるのかがわかり、光が見えた気がしました」

 

 Aさんの娘は保育園に通っていたころから、衣類のタグやゴムの締め付け感などにこだわりがあり、音にも敏感でした。

 

先生の“叱ると怒る”の区別がつきにくく、「よくわからないけど悲しい気持ちになる」と話していたそうです。

 

 「娘は小学3年生の時、男子児童による度の過ぎたからかいと、先生の不適切な対応が原因で、学校が大好きなのに行けなくなってしまいました。

 

それから大学病院の思春期外来を受診。発達に異常はなく、知能指数が上位2%に入るレベルだとわかったのです。

 

ドクターからは『お子さんにいろんな経験をさせてあげてください』とアドバイスをいただきました」

 

 翌年度からは「40人もクラスメートがいる教室は音が気になって教室にいられない。

 

10人程度のクラスなら過ごしやすいのではないか」という娘の希望から、山村留学することに。留学中に親しんだ偉人の伝記などから影響を受けて、将来は理系の研究者になりたいという夢を持ち、小学5年生から中学受験を意識するようになりました。 

 

「HSCの中学受験は、親の覚悟が大事です。なぜなら、HSCのコンディションは、身近にいる親の影響がとても大きいからです。

 

高度な感受性と繊細な感性があり周りの些細な感情も敏感に察知してしまうHSCなので、親は笑顔が自然に出るくらいの心のゆとりが必要なのです」 

 

中学受験のために通った塾は、Aさんの娘の意思や感覚を尊重して選ぶことに決めました。 

 

「家から近い方が本人の体力的にも負担が少なく理想的だと思ったのですが、娘は少し遠くても学ぶ環境が一番大事だと言い、いろんな塾を見て回りました。

 

最終的に決まったのは車で片道30~40分ほどかかる塾。送り迎えは大変でしたが、本人の気持ちが一番大事。

 

一見娘のわがままと親の過保護のように見えますが、HSCが健やかに過ごすための対策なのです」 

 

学校選びでは、本人の希望条件を満たしている学校の中からAさんが何校かを選別。

 

学校見学で疲れてしまう娘の負担を減らすため、先にいくつか見学したそう。

 

 「生徒を個人として尊重してくれる先生や、短い言葉を使い穏やかに説明してくれる先生が娘には必要です。

 

希望に合う学校を2校にまで絞り、親子で実際に足を運びました。

 

通学路や学校の周りの音、空気、環境を確かめ、最終的には娘の直感と話し合いで決めました」

 

 Aさんの娘は現在、自分のペースを大切にしながら、休まず中学校へ通っているといいます。

 

 「入学してからも家庭でのサポートは続きます。

 

娘が通う学校には臨床心理士の資格を持ったスクールカウンセラーがいるのですが、学校内に気軽に相談できる窓口があるのは本当に心強いです。

 

HSCはその感受性の高さから、問題が起こった時のダメージが大きいですし、親も子どもから話を聞いて動揺したりどう対応したらいいか迷ったりしますから」

小学校に馴染めず不登校ぎみに。自信を取り戻すため中学受験を決意

一方、Mさんのご家庭は、3年ほど前に中学受験を体験。

 

Aさんと同じく、娘が中学入学後にHSCを知ったと言います。

 

 「娘が中学2年生の頃にHSCを知り、本当にホッとしました。

 

娘は赤ちゃん頃から洋服のタグを嫌がる、靴を履いたり、ベビーカーに乗ったりするのに時間がかかるなどほかの子と違う印象があり、母親としての自分を責めたこともあったんです」

 

 Mさんの娘は小学校の環境に馴染めず、ストレスから頭痛や腹痛に悩まされ、不登校ぎみに。小学6年生のころには、不眠症とレストレスレッグス症候群(※)を患いました。

 

当時、自信を喪失していたMさんの娘ですが、そのことがきっかけとなり中学受験を考えるようになったそう。

 

 ※「むずむず脚症候群」

 

「下肢静止不能症候群」とも呼ばれ、主に下肢に不快な症状を感じる病気 「中学受験では、娘の体調が安定しない上に、精神的にも波がありました。

 

娘本人が中学受験をしたいと言い出したのですが、『なぜこの勉強を、今しないといけないの?』というモードになると、納得するまで何も手がつかなくなってしまう。

 

保護者としてはプレッシャーを与えずに待つしかなかった。

 

それが思った以上にしんどかったですね」 塾は、個別指導へ。

 

入試ではHSCに気が付く前だったものの、独自の対策法を取りました。 

 

「周りの感情をダイレクトに受け取るため、入試会場でも周りの雰囲気に刺激を受けて体調を崩してしまいます。

 

娘は『人の感覚や気持ちが自分にくっついてくる』という表現をよくしていました。

 

だから私は境界線を引く意味で、『自分の周りにバリアを張るイメージを持ってみたらどう?』と伝えたのですが、それがすごく効き目があったようです。

 

それ以外にも、入試前には、『みんなただ試験に受かりたい一心なんだ』と言い聞かせ、自宅で勉強する際は音を立ててうるさくするなど、いろいろ試しました」

 

 学校選びでは、友人の口コミやネット検索を行い、さまざまな学校を見学。

 

Mさんが特に重視したのは、娘と共に学校へ行った際の、本人の肌感覚でした。

 

最終的には、教員や在校生の表情などから得た娘の感想をまとめ、志望校を決定。

 

 「中学入学後は、娘の表情や体調が改善し、レストレスレッグス症候群も落ち着きました。

 

入学した中学校はクラスの人数が少ないので、合っていたんだと思います」 

 

現在は高校生となったMさんの娘。落ち着いて通う様子に、Mさんはほっとしている様子。

 

これまで子どものサポートで手が付かなかった自分のキャリアにも、目を向け始めています。

 

 今回ご紹介したご家庭では中学受験を通して、子ども自身が通いやすい学校を選ぶことができました。

 

しかし、HSCの子どもにとって、必ずしも中学受験が正解というわけではありません。

 

まずは子どもの考えをじっくりと聞きながら、さまざまな可能性を親子で話し合うとよさそうです。

 

 (編集:ゆきどっぐ+ノオト)

 

きたざわ あいこ