【以下ニュースソース引用】

海と富士山を同時に望む幸せ 千葉県の竹岡駅と浜金谷駅

ESSAY

 

竹岡駅前から見た東京湾と富士山。色とりどりの屋根との対比も美しい
村松拓
村松拓

 アマチュア写真家

1991年1月生まれ。川崎市出身。 2004年の夏休み、初めての一人旅で見た常磐線の車窓が忘れら …

海の見える駅は日本全国にあまたある。そして富士山が見える駅も数多い。しかしその両方を同時に見られる駅は、実はとても少ない。そんな貴重な駅を千葉県富津市の房総半島で見つけた。JR内房線の竹岡駅と浜金谷(はまかなや)駅だ。しかし、富士山まで見えるかどうかは運次第。2020年3月、初春の澄み渡った空のおかげで、思いがけず“海と富士山”を存分に味わうことになった。

連載「海の見える駅 徒歩0分の絶景」は、アマチュア写真家の村松拓さんが、海のそばにある駅で撮った写真を紹介しながら、そこで出会ったこと、感じたことをつづります。

房総で屈指の眺望を誇る、竹岡駅

内房線の駅を巡る旅に出たこの日、最初に訪れたのは竹岡駅。標高およそ20メートルの高台にあり、房総でも屈指の眺望を誇る無人駅だ。

 

背後に森を抱え、屋根もない二つの長いホームが静かに向かい合っている。

 

正午前、快晴の空のもとホームに立つと、開けた海のほうへ自然と目が向いた。

 

眼下に広がったのは、深く鮮やかな青色の東京湾。対比するように、強い西風にあおられた白波がくっきりと浮き立つ。

 

その先には、対岸にある神奈川県の街並み。30キロ以上離れた横浜・みなとみらいのビル一つひとつさえ、小さいながらもはっきりと見える。

 

まるで精巧な模型を眺めているかのようだった。

 

竹岡駅のホームから見える東京湾。写真右上のビル群が横浜・みなとみらい
竹岡駅のホームから見える東京湾。写真右上のビル群が横浜・みなとみらい

 

3月にもかかわらず、幸運にも春霞(はるがすみ)とは無縁の澄んだ視界。強風に加え、前夜に雨が降ったおかげもあるのだろう。

 

竹岡駅の駅舎は、ガラスと格子に囲まれた簡易なもの。駅前に高い建物はなく、一本の坂道が海のほうへとまっすぐ伸びている。

 

それらのおかげで、駅舎越しの視界も良好だ。

 

出口のはるか先には、横須賀市の観音埼灯台。

 

東京湾沿いには目印になる建物があまたあるため、手元で地図と照らしながら景色を眺めるのも、なかなか楽しい。

 

写真の中央やや左、岬の中に立つのが横須賀市・観音埼灯台
写真の中央やや左、岬の中に立つのが横須賀市・観音埼灯台

 

今度は二つのホームに架かる跨線橋(こせんきょう)へ。

 

道路の歩道橋のように、屋根が一切ないのもうれしい。

 

登り切ると期待通り、大パノラマが広がった。

 

ただ、ホームでは気づかなかった意外なものが見えた。富士山が顔を出したのだ。

 

ありそうでなかった、海越しの富士山という景色。竹岡駅は貴重なビュースポットだ(後に知ったが、富士山はホームの木更津寄りからも見える)
ありそうでなかった、海越しの富士山という景色。竹岡駅は貴重なビュースポットだ(後に知ったが、富士山はホームの木更津寄りからも見える)

 

青々とした東京湾の向こうに、たっぷりと雪を身にまとった白い富士。

 

今までは海が景色の主役だったが、美しい稜線が現れた瞬間、ついそちらに目を奪われてしまうのだから、富士山の美しさは侮れない。

 

数々の駅を巡ってきたが、駅の中から海と富士山を同時に見たのは、これが初めてのこと。

 

竹岡駅には10年以上前にも訪れたが、当時富士山が見えた記憶はない。

 

富士山と海、そして駅が一直線に並ぶという奇跡的な位置関係。それに加え、天候の好条件が重なったことで出会えた風景だった。

 

大都会の目と鼻の先に、思わぬ絶景が隠れていた。

浜金谷駅で、夕暮れの富士に出会う

続いて訪れたのは、竹岡駅の南側にある、隣の浜金谷駅。

 

こちらはうってかわって、休日には特急「新宿さざなみ」もとまる有人駅だ。

 

駅の南側には「地獄のぞき」で有名な鋸山(のこぎりやま)がそびえ、観光客もしばしば行き交う。

 

駅前には港町が広がり、食堂や商店も数多い。

 

周囲に建物が多く、かつ海までずっと平らなため、浜金谷駅のホームから海は見えない。

 

観光客が列車を待つ浜金谷駅。背後にそびえ立つのが鋸山(標高330メートル)
観光客が列車を待つ浜金谷駅。背後にそびえ立つのが鋸山(標高330メートル)

 

しかし、屋根のない跨線橋にひとたび登れば、眼下には街並みと海が広がる。

 

ちょうど北西の方角、線路の向こうには東京湾と、またしても富士山の姿。

 

海岸ではヤシの木たちが潮風に揺れている。富士山と南国情緒。

 

富士山から離れた場所ならではの組み合わせだ。

 

ヤシの木越しの海と富士山は新鮮だ
ヤシの木越しの海と富士山は新鮮だ

 

浜金谷駅から海岸まではわずか200メートルほど。

 

せっかくなので、駅前にある金谷海浜公園を訪ねてみた。

 

国道を渡り、砂浜に足を踏み入れる。

 

すると間髪を入れず、猛烈な海風に乗った波しぶきが頰をぬらした。

 

おそるおそる目線を上げると、目の前には逆巻く波と富士山。

 

その様子はまるで、葛飾北斎の浮世絵「神奈川沖浪裏」が動いているかのよう。

 

駅では到底感じ得ない迫力だった。

 

金谷海浜公園から見た富士山は、ひときわ大きく感じられた。ちなみに、富士山まではおよそ100キロも離れている
金谷海浜公園から見た富士山は、ひときわ大きく感じられた。ちなみに、富士山まではおよそ100キロも離れている

 

その後、一度は浜金谷駅を離れたものの、夕暮れ時に再び訪れた。

 

浜金谷港から、対岸の横須賀市・久里浜港を結ぶ「東京湾フェリー」で帰路につくためだ。

 

そこでまた、富士山の別の一面を目にすることになる。

 

午後6時前。浜金谷駅の跨線橋に再び登ると、雲ひとつない茜(あかね)色の空に、円錐(えんすい)状のシルエット。

 

さっきまで白かった富士山が、今度は黒く浮かび上がっていた。

 

海と富士山に加え、澄み切った夕焼けまでもがひとつの視界に収まった瞬間。

 

その幸せをかみしめながら、静かにシャッターを切った。

 

波風も落ち着いた夕暮れ。ヤシの木の足元で、明かりをともしたフェリーが出港を待つ
波風も落ち着いた夕暮れ。ヤシの木の足元で、明かりをともしたフェリーが出港を待つ

 

時間を問わず、やっぱり富士山は見とれるほどに美しい。

 

ちょうど旅の終わりを告げるように、「夕焼け小焼け」のチャイムが街を包んだ。

 

 

東京駅からJR特急「さざなみ」で約1時間10分、君津駅からJR内房線で竹岡駅まで約25分、浜金谷駅まで約30分。

 

■JR東日本
https://www.jreast.co.jp/