かねてから疑問に思っていたことで、【アーシング】というワードがある。

 

電気の流れ、つまり電流を適正に流すために、機器と大地の間を電気的に

接続することをアース(接地)という。

 

わざわざ、電気回路を有する機器類にはもともと接地回路が組み込まれて

いるはずなのに、車やバイク用のアース線を増設するためのケーブルが

販売されている。

 

車やバイクが適切に整備されていれば、このアース回路は維持されているはずで、

電流の流れを阻害することは考えにくい。

 

それなのに、【アーシング】という作業をわざわざ身銭を切ってアース用のケーブルを

増設するのだろうかと疑問を持っていた。

 

やっと納得できる記事を見つけたのでご紹介させていただくことにした。

 

【以下引用】

アーシングって効果あるの?単なるプラシーボなの?

門脇誠

門脇誠

バッテリー関連

 

アーシングって効果あるの?単なるプラシーボなの?

意見は真っ二つ!
効果あるよ大事だよ!派と、プラシーボだよ効果無いよ!派が居て、その意見は正反対。
実際、アーシングなんかしなくてもバイクは普通に動くし、新車にアーシングを施しても何かが劇的に変わるわけでもなし……。


効果あるよ派の人は「やれば解る、解らないのはオマエが鈍いだけだ」と相手をバカにするし、効かないよ派の人は「効くならメーカーがやってる、MotoGPでアーシングしてるのかよ」と相手をバカにします。
どちらの言い分も合っているような気もするし困ったもんです。

しかーし!
ちゃんと考えれば正解はあるのですよ。

皆様にささやかな幸せとバイクの知識をお送りするWebiQ(ウェビキュー)。
アーシングの効果は有るのか無いのか、ココで決着です

目次

アースって何?

20200908_001.jpg

効く効かない以前にアーシングなんて聞いた事が無いよ!そもそもアースって何さ?という方の為に超簡単に説明します。

もともとバイクには必ずアースが取られています。
アースというのは電気のマイナス側通路と思ってもらえればOK。
バッテリーのプラスから出た電気がスイッチを通って動作させたい部品(例えばヘッドライトなど)に行き、その電気が戻ってくる通路です。


※ものすごく稀にプラス側がアースの車両もありますが(マイナスコントロール車と言います)、今回は一般的なマイナスアースで解説しています。

どれだけ強力な乾電池でも、プラス側から出た配線がマイナス側まで達していなければ電気は流れませんよね?
このように戻る通路が無ければ出て行く事は不可能なので、どんなバイクも必ずアースはされています。

アース線なんか見た事無いんだけど?

20200908_002.jpg

それもそのはず。
純正ではアース線を個別に引いたりせず、フレームやエンジンをアース線として使っています。
フレームやエンジンは金属製なので電気を通します。
たとえ素材の電気抵抗が専用配線より大きかったとしても、圧倒的に面積が大きいので導通抵抗にはならないという考え方です。
実際その通りで、フレームアースやエンジンアースの伝導率が原因でアース不足になる事はありません。

なので、バッテリーのマイナス端子から出た配線を追うと、わりと短い距離でフレームにアースされている(フレームに配線が繋がっている)事が多いです。
バイクのほぼ全てはこういう構造です。
だから『アース線』という特別な線がどこかからニョキニョキ生えていないのが普通です。

プラス側の配線はメインハーネスを通り、各部の電気部品を動作させた後、フレームやエンジンのアース経路を通ってバッテリーに戻る……そんなイメージでOK。

フレームとエンジンはどうやって接続してあるの?

フレームにしろエンジンにしろ、それぞれが単体で導通する素材だったとしても、それが分離していたら導通しませんよね?
なので、普通はエンジンマウントのボルトを経由して電気を流しています。

「普通は」と書いたのは例外があるからで、古い車両などではエンジンとフレームを接続する極短い配線が存在する場合があります。
また、エンジンマウントがラバーマウントの車体などでも10cm程度の短い配線でエンジンとフレームが繋がれている事があります。
目立たない位置にひっそりと居る事が多いので通常のメンテナンス作業でお目に掛る機会はなかなか無いと思いますが、メーカーがわざわざ設置しているという事は重要な部品だという事です。

ではアーシングとは?

上で説明したように、純正で既にアースは取られています。
アーシングとは『純正アースの他にアース線を追加して電気の戻り道をもう一つ作ってあげる事』を差します。
「アーシング」なんてカッコ良く言うから解りにくいですが、ようは『アース増量』です。
電気の戻り道のうち、フレームやエンジンを経由しないで済むように、太く確実なものをもう1本確保しておく事が狙いです。

セルモーター、ヘッドライト、スパークプラグ(シリンダーヘッド)など、大電流を必要とする部品から直接バッテリーまでアース線を引く事で、それらの部品に大電流を流しても確実に電気が戻れる経路を確保しておき、性能をフルに発揮させようとする狙いがあります。

どんなイイ事があるの?

電気が流れやすくなります。

もう少し詳しく言うと、戻り道が太くなって電気が確実に戻れるので入り口(プラス側)からいっぱい電気が来ても大丈夫になります。
いっぱい電気が来られるようになれば電気のチカラがパワーアップするよね!という考え方のチューニング方法です。

とても理に適った話ですよね?

じゃあ何でメーカーはやってないの?

20200908_004.jpg

『アーシングなんかしなくても電気は十分に通るから』です。
プラシーボだよ効果無いよ派の人はこの理論で攻めて来ます。

ある意味これは正しくて、ホントに必要ならメーカーは必ずアーシングするはずです。
現に、必要と判断された車両にはエンジンとフレームを結ぶ短いアース線が存在するくらいですし。
ですので、「アースの容量が足りなくて電気部品の必要性能が不足する」なんて事は、車両メーカーなら絶対に有り得ません。

え!じゃあアーシングって無意味なの?

さぁここからが本題です。

アース容量が純正の車体アースで足りない事は絶対に有り得ないと書きましたが、それは『新車の場合』です。

問題はある程度使用後の車両、特に旧車と呼ばれる車両や屋外保管の車両では、純正の車体アースだけではアース容量不足になる場合があるのです。

どういう事?

新車の場合、エンジンとフレームとマウントボルトにサビは無く、ガッチリ固定されている状態です。
この状態だとそれぞれの接触面積は十分広く、電気の導通抵抗になる事はありません。
だから純正でアーシングなんかされていません。

しかし、乗っていると様々な場面に出くわします。
雨に降られる事もあるし、洗車で水を掛ける事もあります。
海岸沿いを走れば潮風に当たりますし、融雪剤の溶けた水たまりを走り抜ける事もあります。
保管場所が屋外の方も多いでしょうし、車体カバーがあっても地面には湿度があるので水分があります。
転倒する事もあるでしょうし、大きなトラブルでエンジン脱着する事もあるかもしれません。

すると、車体各部で導通接触している部分が微妙にサビたりして導通が悪くなってしまいます。

20200908_005.jpg

雨天未走行、室内保管ならサビないから平気?

アルミフレームにアルミエンジンだからサビとは無縁!なんて事はありません。
そもそもフレームにエンジンが入っているという事は、隙間があるという事です。
(エンジンの方が大きくて隙間が無ければ入らない)
隙間はエンジンのマウントボルトで締め上げて無くしてありますが、厳密には溶接しない限り隙間は残ります。
そして、隙間があれば毛細管現象で水分は入ります。
空気中にだって水分はあります。

また、配線末端は端子を経由してボルトでエンジンやフレームにマウントされているはずです。
配線の途中には各種コネクターが多数ありますが、それぞれの接続部分には全て隙間がある事になります。

そういう「目に見えない場所」が「目に見えないレベル」でサビたりします。
全くサビる要素が無かったとしても、アルミ、鉄、ステンレスなどによる異種金属の塊であるバイクは電位差で必ず腐食(電蝕と言います)します。
これも導通抵抗になります。

結局、経年劣化は避けられず、そのまま何もしなければ経年と共に微妙に導通が悪くなる運命にあります。

20200908_006.jpg

じゃあアーシングは有効なの?

様々な理由でフレームやエンジンなどの導通抵抗が増してしまった状態の車体に対し、導通を回復させる手段の一つがアーシングであり、導通経路を増設する事で導通を確保できるようにします。
流れの悪くなった川の隣に、流れの良い別の溝を掘って流れを良くしようという感じですね。
効果あるよ大事だよ派の人はこの理論で攻めてきます。
ある意味これも正しくて、何も間違ってはいません。

しかし、やれば必ず効果が出るわけではありません。
最初に書いたように、新車状態ではほぼ意味がありません。
車体アースで十分以上のアースが確保されているので、わざわざアース線なんか新設する必要が無いからです。

また、そもそもアーシング増設なんかしなくても、シッカリ整備してあれば導通に問題なんか無い、だからアーシングなんて無駄という人も居ます。
この意見も一理ありますし、実際その通りだと思います。

結局のところどうなの?

20200908_007.jpg

古い車両であっても導通経路に気を使い、フレームとエンジンのマウント部分に塗料やサビが無い事、金属同士がピッタリ密着するようにしてある事、配線内部が劣化する前に交換してある事などなど、常に新車と同じ状態をキープ出来ていればアーシングの意味は無いでしょう。

しかし、現実問題としてこれは不可能です。

それぞれの車両の今まで経過してきた環境の状態、走行してきた場所、どれだけの頻度で整備をしてきたか、その整備ではアースに気を配った方法が取れれているか……
そういう事も含め、車両の個体によって置かれた状況が全部違うのです。
まして、導通が悪くなる間も無いほどの短期間で重整備を繰り返せる車両は本格的なレース車両を除けばほぼ無いはずです。
現実問題として不可能と書いた理由がコレです。

また、そもそも経年劣化も考慮してメーカーは設計しています。
多少導通性が悪化したところでアース線を増設しなければ動かなくなるような事にはなりません。
でも、それは最低限メーカーの望む性能を維持出来る導通性を確保してあるだけであり、アーシングによって更に導通性を上げた方が効果的な場合は多々あります。

だから「〇〇の車両にはアーシングが効果的」などという決まり事はありません。
同じ車両でも置かれてきた環境は全部違うので一概に言えないのです。
『アーシング』として全部一まとめにし、「効果ある」「効果ない」と言えるようなものではありません。


プラグの火花が弱い気がする、何だかパワーダウンしたような気がする、ヘッドライトが暗くなった気がする、セルモーターの力が弱くなってきた様な気がする……
こんな時は毛嫌いせずアーシングを試してみてはいかがですか?
もしもそれで改善されるのならアース不良ですし、何も変化しないならそれ以外の原因があります。

仮に変化があった(つまりアースの導通が不良気味)として、そのままアーシングするのか、車体各部を分解して導通経路を磨いて新車時の導通を確保すのか、動作に支障は無いから何もしないのか、その判断はオーナーであるあなたが自身が決める事です。
誰かが決めつける事ではありません。

ひとつ言えるのは、アーシングしなかったからといって壊れたりはしないという事です。
車両メーカーは我々素人では太刀打ち出来ない膨大な実験を行っており、古くなるとアーシング増設しなければならない様な設計はされていません。
ご安心を。

アーシングが有効だとしても

稀にパワーアップの為にアーシングしている方が居ますが、どれだけアーシング効果があったとしてもパワーアップはしません。
例えばプラグのアースを完璧に取ったところで、エンジンパワーには全く関係ありません。

20200908_008.jpg

ただし、ここがややこしい所なのですが、プラグのアースを完璧に取ると実際にパワーアップする事があります。
これは何故かというと、『アーシングする前の元の状態がダメだったから』です。
アース不良で本来メーカーの設計していた強力な点火が出来ておらず、正しいタイミングで点火に適切なスパークが出来ていなかった場合、当然ですが不完全な燃焼となってパワーダウンします。
これがアーシングによって本来の姿に戻るとパワーアップしたように見えます。
アーシング前から比較すると確かにパワーアップしているのですが、それは『本来のパワー』であり、アーシングでパワーアップしたわけではありません。
『パワーアップしたのにパワーアップしたワケではない』という、なんともややこしい事になります。


もしアーシングでパワーアップするならMotoGPのマシンは絶対に全車がアーシングします。
MotoGPマシンがアーシングなんかしていないのは、走行毎に整備するので導通不良など起きようが無いからです。

20200908_009.jpg

このように「アーシングでパワーアップなんかしない派」と、「実際にパワーアップした派」の意見が合わないのは、それぞれの置かれている車体条件が違うからです。

まとめ

アーシングとは……

  • 電気で動く部品の性能をアップさせる魔法のチューニングではありません。
  • 新車から施しても恐らく何の効果もないです。
  • パワーアップはしません。
  • レスポンスが良くなったり、加速が良くなったりもしません。
  • パワーアップする場合もありますが、それは本来のパワーに戻っただけです。
    ただ、本来のパワーに戻るのは大事な事でもあります。
  • バイクは経年により導通抵抗が増えます。
    その車体に手を加えずに導通抵抗を低減する効果があります。
  • 走行毎に全バラ整備を行うようなレース車両では恐らく何の効果もないです。
  • 導通抵抗が増えていた車両の場合、ライトが明るくなったり、セルモーターの回りが強くなったり、点火スパークが強くなってエンジンが好調になる事があります。

だからアーシングは有効!……という事ではなく、整備などでしっかり導通が確保出来ていれば良いという事でもあります。
また、100の電気が必要な部品に200の戻り道を用意しても無意味です。



さあ判断材料は出揃いました。
どうするのかを決めるのはあなた自身です。
どうします?
20200908_010.jpg

オマケ:私の場合

基本的に私は『アーシングなんかしたくない派』です。
無駄な装備は可能な限り排除する事をモットーとしており、スマホマウントや削り出しバーエンドなどの流行りのパーツも付けない主義なのに、無駄な配線を追加して重量増加するなんてイヤだからです。

しかし、1993年型の古ーい愛車にはアーシングを施してあります。
具体的にはセルモーターの配線を強化してあり、バッテリーから直にアースとして1本引いてある他(いわゆるアーシングと言われるものです)、プラス側もバッテリー → スターターリレー → セルモーターの各区間で配線を増設してあります。
これは始動が苦しいセルモーターに鞭打つための策で、実際にかなり効果がありました。
ただし、大電流が流れるようになるのでセルモーター内部の痛みが激しくなる弊害があります。
高価なセルモーターの寿命を縮める覚悟の上で施しています。

逆にそれ以外の場所、例えば点火を強化するためにシリンダーヘッドへのアーシングなどは行っていません。
理由は「アーシングなどしなくても元からスパークは力強いから」です。


この記事もそうですが、誰かに言われて実施したり止めたりせず、いろいろ試してみれば良いと思います。
効果があった、効果が無かった、どちらでも良いじゃないですか。
効果が無ければそれで結構ですし(外せば良いだけ)、効果があればその後どうするかを考える楽しみが増えるってモンです。
そういうのもバイクの楽しみ方だと思いますけどね。
この記事を最後まで読むような方なら特にそうだと思います。

ただ、増設しまくってバッテリーのマイナス端子からタコ足みたいにアース線が出まくってるのはどうかとも思います。
単純にカッコ悪いですし、配線の重量増だってバカになりません。
整備性も悪くなるし、上手くまとめておかないとプラス配線とショートする可能性も上がります。
それに、そこまでするなら車体側をしっかり整備して導通を確保した方がスマートだと思います。
このあたりは人によって価値観が違うので何とも言えませんけどね。