宅配便の男①はコチラ




私たちは急いで体を離し、

何もなかったように、テレビを見ていたように装った。

心臓はドキドキしていた。
洋介君は何事もなかったように、
体を背け雑誌をめくり始めた。

見られちゃったかな・・・。

彼が戻って来ても、


私は後ろめたさで彼と目を合わせることが出来ずに
体育座りのまま、テレビを見るフリをしていた。


彼はコタツに入ると、さっきと同じように壁に寄りかかり、
後ろから私に向かって、静かにこう言った。

美奈子、こっち向いて。」


後ろめたいことをしていると、
なんでもない一言でも自分が責められたような、
不安な気持ちになる。


彼は多分気がついていた。
私と洋介君がキスしようと顔を近づけたことに、
きっと気がついていた。

「こっち向いて。」という一言が、
気がついていたことのすべてを表していたのだ。
でも彼はその時、私と洋介君に何かを言うことはなかった。

彼はそれっきり
私とは会ってくれなくなった。


自業自得だが、彼を傷つけた罪悪感をぬぐえないまま、
私たちは大人になって再会した。

宅配便の配達員と、受取人として。


不在通知表を手に、
彼の携帯電話に、再配達の電話を掛ける。

もしもし!」

声は変わってなかった。


再配達の希望時間を伝え電話を切った後、
私は迷った。
名乗っていいものか。

私だと、言っていいものか。

彼の中で私は
思い出したくない女として、
遥か昔に記憶を抹消されているかもしれないのだ。

私は、複雑な気持ちを抱えながら配達を待ち、
彼は荷物を持ってやって来た。


うわ、緊張する。

玄関のドアを開ける。


彼: 「こんにちは。お荷物です、印鑑お願いします。」
私: 「あ、はい。ありがとうございます。
    ちょっとお待ちくださいね



彼: 「・・・・・・・。」
彼: 「あの、間違ってたら申し訳ないんですけど・・・、
    美奈子さんって・・・


私は彼の言葉を最後まで聞かずに、


私: 「うん。間違ってないよ。久しぶりだね、
    私のこと覚えていてくれたんだ!」

彼: 「うん。名前見てすぐわかったよー!
    すごい偶然!元気そうだね
。」

彼は、あの頃のクールな彼からは想像できないほどの笑顔で
自分の近況や、家族のことを話してくれた。
すっかりお父さんな雰囲気になってしまった彼を見て、

幸せなんだな~と感じた。

結婚は早かったらしく、子供は上の子が、

もう小学校5年生になるそうだ。
私だって同じくらいの子供がいたっていいものを、
いまだに浴びるようにお酒を飲んで、泥のように眠ったりしている。
進歩がなくて恥ずかしい。

最後に彼が言った。


幸せそうでよかった。」

そう言って、彼は笑顔でドアを閉めた。

こちらこそ、あなたが幸せそうでよかった。
他人のフリをしないでくれて、嬉しかった。
本当にありがとう。

嫌な思いをさせたのにもかかわらず、
私が幸せかどうかまで気にしてくれて、
あんたは本当にいい人だ。
そんなにいい人と、きちんと向き合わずに、
真剣に付き合うことが出来なかった自分を呪う。


今更、言い訳がましくてなんですが、
私、本当は真面目な女です。
これからも配達よろしくね。