母はしばらく呆然と一花を見つめた後、
ハッと我に返って慌てて部屋を出て行った。
(え?なに?・・・・)
取り残された一花は、混乱したままふと窓の方へ
目を向けた。
するとそこには、さらなる混乱が待っていた。
カーテンの隙間から見える窓の向こう側に、
1本の大木が立っている。
位置的に考えて、どうやらこの部屋は2階に
あるらしい。
その大木の枝に、うっすらと白いものが積もって
いる。
(ゆ、き・・・・?)
積もっているのは、まぎれもなく雪だった。
しかし ―
(雪ってことは、今は冬ってこと?えっ、でも・・・・
え、え、ちょっと待って)
記憶の出口が見えそうになった瞬間、何かに
邪魔をされて目隠しをされる。
必死に遮るものの間から出口を出ようとした時、
「遠山さん!」
1人の男性がドアから中に飛び込んできた。
白衣を着てメガネをかけている、30代くらいの
男性。
すぐに医者だと分かった。
少し息を切らした男性は、一花にかけ寄ると
手首をつかみ脈を確認しながら心配そうに顔を
のぞき込んできた。
医者の背後から、母が再び姿を見せる。
しかしなぜかその表情は曇り、瞳が不安げに
揺れていた。
そしてそんな母を見た一花の胸に、またあの
違和感がわきおこる。
すると医者は一花の気持ちを見透かしたように
優しく微笑んで言った。
「ちゃんと事情を説明するから、もう少し
待っててくれるかな?」