「私の父は、自動車に使う小さな部品を作る
工場を経営していました。小さな町の小さな工場
でしたが、父は仕事に誇りを持っていました」
淡々と話す彼の表情が淋しそうに見えて、亮は
初めて、彼も1人の普通の男の人なんだと
気付いた。
「家は裕福ではありませんでしたが、私たちは
それなりに幸せな暮らしを送っていました。
でもある日、野神不動産の人間がやって来て
立ち退きを要求されたのです。
父はもちろん反対しました。それでも彼らは
執拗に迫り、ついには父から土地の権利書を
奪ったのです」
小田桐の声にだんだんと熱がこもる。
亮も久弥も、ただ黙って彼の話に耳を傾けて
いた。
「父は落ち込みました。食事もほとんどとらず、
魂が抜けたようにぼんやりとすることが多くなり
そのうち工場も閉鎖してしまって・・・・。
ある時、朝から父の姿が見えなくなって、私も
母も必死に捜して回りました。夕方になっても
見つからず、念のために警察に届けたほうが
いいのではないかと言い始めた時、ちょうど
その警察から連絡があったんです」
そこでまた、しばしの沈黙が漂う。
その先は亮自身にも関わっていることなので、
できるならもう聞きたくない。
亮はそう思っていた。
だが、小田桐はやめなかった。
「父が、事故に遭って亡くなったという連絡でした。
病院にかけつけて警察の人から事情を聞き、
私はなんとも言えない絶望感に襲われました。
父がまさかそこまで追い詰められていたなんて。
それに気付けなかった自分が、情けなくて
たまらなかった」
小田桐の声が震えているのが分かる。
久弥を見ると、彼もまた辛そうに顔をしかめて
いた。