ゆっくりと声がした方に近付くと、昂生は
ピアノの前に置かれた椅子から立ち上がった。
「昂生、俺・・・・」
亮が話そうとするより早く、昂生が亮を
勢いよく押し倒す。
「!!」
状況がのみこめた時にはすでに、昂生の
右手に両手首をつかまれていた。
一生懸命振りほどこうとするが、悲しいくらいに
びくともしない。
昂生はそのままネクタイで亮の手首を縛ると
ピアノの脚に結びつけた。
「昂生っ!」
亮の言葉が虚しく響く中、昂生は今まで
見たことのないような形相で亮に覆いかぶさる。
昂生の手が胸元に伸びてきて、亮は恐怖で
泣き叫んだ。
「やだっ!やめて!!」
第2ボタンまで外されたその時、
「亮っ!!」
音楽室のドアが開き、知晴が現れた。
2人の姿を見た知晴は、乱暴に昂生を
引き上げ、
「このヤロー!」
と、ためらいなく拳を振り下ろす。
昂生は後方へよろめき、尻餅をついた。
それを知晴が再び立たせ、もう一度殴り
かかろうとするのを見て、亮は慌てて止めた。
「知晴!もういいからっ!」
その声を聞いて、知晴はハッと我にかえった
ように握っていた拳を降ろした。
昂生は唇のはしににじんだ血を手の甲で
ぬぐい、力なく音楽室を去っていった。
その背中が、まるで小さな子供のように見えて
亮の目に、新たな涙があふれる。
知晴は昂生の姿が見えなくなると、慌てて
亮を縛っていたネクタイをほどいた。
「大丈夫か?」
亮の両肩を支えながら優しく抱きおこした後、
そのまま知晴は亮を強く抱きしめた。
「よかった・・・・。今度は、守れた・・・・」