普通なら知りえないはずの誘拐事件について

知晴が知っているのはなぜか。

当の知晴は、自分が重大な発言をしたことに

気付いていないようだった。

亮が追求しようとした時、今出てきたばかりの

教室から突然怒鳴り声が響いた。

「どういうつもりだよ!!」

驚いた亮と知晴は思わず後ろを振り返る。

そして、申し合わせたように足早に教室へと

引き返した。

まず廊下に面した窓から中の様子をうかがうと、

クラスメイト10人ほどが、1人の男子生徒を

取り囲んでいるのが見えた。

囲まれている人物の顔は、今の位置からは

よく分からない。

すると、半円になるように並んでいた集団の中の

1人が半歩前に進み出た。

そこで初めて、取り囲まれているの生徒の顔が

確認できた。

(― 真堀?)

「・・・・真堀?」

隣にいる知晴の呟きと、亮の心の声が重なる。

推測するかぎり、真堀はクラスメイトに何かを

責められているようだった。

教室には取り囲んだ生徒の他にも、遠巻きに

眺める数名の生徒がいて、彼らもまた真堀に

対して非難するような表情を浮かべていた。

「野神をトイレに閉じ込めたりして、舞台が

できなくなってたかもしれないんだぞ!」

半歩前に出た生徒がそう怒鳴って、

真堀を睨みつける。

亮は自分の名前が出たのでうろたえたが、

肝心の真堀は黙ったまましらっとしている。

「だいたい、学園祭に演劇をやるって

言い出したのはお前だろ!?」

「だから?」

真堀のからかうような切り返しに、怒鳴った生徒の

視線がさらに鋭くなる。

だが、真堀はそんなことはおかまいなしに続けた。

「確かに俺は意見を出したけど、お前らだって

反対しなかったじゃん。人のせいにするんじゃ

ねぇよ」

その瞬間、真堀と対峙していた生徒が彼に

つかみかかった。

それを見た知晴が、

「やばい!」

と小さく叫んで教室へかけ込んだ。