~紅の月 番外編~ 第二十五話


それから10日余り経った、夏の終わりのある日。

拓巳と楓はあの廃寺に来ていた。

「えーっと、こっちがブルームーンで、こっちが・・・・

なんだっけ?」

「もう!ピンク・パンサーでしょ?」

「ああ、そうだった。薔薇ってけっこう色んな種類が

あるんだな」

結局拓巳は、ハルの頼みを引き受け、薔薇の世話を

することにした。

ハルの娘である香里に連絡したところ、驚くことに

よかったらハルの住んでいた住居も譲りたいと

言い出した。

確かに今まで住んでいたマンションからこの廃寺は

かなり離れているため、少し不便ではある。

当初は遠慮した拓巳も、最終的には香里の申し出を

ありがたく受け入れることにした。

「そういや、雪斗は今日も休日出勤か?」

「うん。お兄ちゃん、今、早期覚醒者の延命治療薬を

開発してるんだって」

「そっか・・・・。それであんなに必死に仕事してるんだな」

「佐伯部長も心配してくれてるらしいんだけど、全然

言うこときかないみたい。お兄ちゃん、けっこう頑固

だから・・・・」

楓の意見に、拓巳も大きくうなずく。

(頑固なうえに、すんげぇシスコンだもんな・・・・)

手入れを終えて2人で帰る道すがら、楓がふと

思い立ったように、

「ハルさんもユーレイになって出てきたら、いっしょに

夕ご飯食べれるのにね」

などとつぶやいた。

楓の無邪気な顔を見た拓巳は少しだけ意地悪をして

みたい気持ちになる。

「それはそれで楽しいだろうけど、でもイチャついてる時に

出てこられたら困るだろ」

すると思ったとおり、楓は顔を真っ赤にして拓巳の腕を

バンバン叩いた。

「もうっ!拓巳にはデリカシーってもんがないの!?」

怒ってそっぽを向く楓を、拓巳は少し強引に自分の

胸元へ引き寄せる。

「!!」

びっくりしている楓を抱きかかえたまま、さらに赤面するような

ことを口にする。

「ハルさんが出てきたらできねぇから、今のうちにイチャつく

ことにした」

「!!!!」

楓は驚きのあまり、拓巳をものすごい力で突き飛ばした。

「拓巳のバカバカバカッ!」

真っ赤になってかけ出した楓を、拓巳が慌てて追いかける。

「ま、待てって!俺が悪かった!楓ー!!」

まだ明るい東の空に浮かんだ月が、そんな2人の姿を

見守るように、淡く白く優しい光を放っていた。





― END ―