~紅の月 番外編~ 第十五話


「・・・・み・・・・。拓巳!」

棗の声に、拓巳はハッと我に返る。

「どうしたんだ?ボーッとして」

顔を上げると、棗が心配そうな表情でこちらを

見ていた。

「い、いや。別になんでもねぇよ」

拓巳は慌ててごまかした。

楓への想いを自覚して以来、どうも調子が出ない。

肝心の楓への態度も不自然になり、本人にも

怪訝な顔をされたほどである。

「そろそろ楓ちゃん、終わる頃じゃないか?」

棗に急かされ、拓巳は重い腰を上げた。

居間から絵画教室を行っている部屋までのろのろと

歩きながら、自分の不甲斐なさにうなだれる。

(・・・・ったく、情けねぇ。俺は中学生かっつーの)

生徒はみんな帰ってしまったらしく、部屋には楓と

京梧しか残っていなかった。

「拓巳!遅いよ」

拓巳の姿に気付いた楓がかけ寄ってくる。

だが、拓巳は目を合わせることができずに逸らして

しまった。

「わ、悪い・・・・」

思ったとおり、楓はちょっと傷ついたようにうつむく。

(や、やばい!)

なんとかしなくては ―

焦った拓巳は、車内でなんとか楓の機嫌を直そうと

話しかけてみた。

「そういや、絵の方はだいぶ進んでんのか?」

「・・・・まあね」

楓からは小さな声で、ひと言だけ返ってきた。

(再会したばかりの頃に戻ってきてるじゃねぇかよ)

「あ、あのさ。今日は久々にハルさんとこに行こうかと

思ってるんだけど、お前も行くだろ?」

これなら機嫌が直るのではないかと思って誘ってみたものの

「今日はお母さんが来るから行けない」

ハッキリと断られてしまった。

「そ、そっか・・・・」

結局、それから会話が途切れてしまい、帰り際もなにも

言えずに別れてしまった。

「はぁ~」

拓巳の口から、今まで出たことのないくらいの

大きなため息がもれる。

(俺1人でも、ハルさんとこに行ってみるか)

気を取り直し、廃寺へと車を走らせた。