~紅の月 番外編~ 第十三話


それからも、仕事で忙しい雪斗に代わり、楓の絵画教室へ

の送迎を重ねるうちに、少しずつ楓は以前のような明るさを

取り戻していった。

廃寺へも2人で何度か訪れ、楓がスケッチをしている間は

ハルと世間話をするのが習慣になっていた。

そんなある日。

“仕事”を終えた拓巳は雪斗に呼び出され、居酒屋へ

やって来た。

平日の午後9時近くだというのに、店は多くのサラリーマンで

賑わっている。

雪斗はすでに店の奥の2人掛けのテーブルで待っていて、

拓巳が店内に入ると小さく手を上げた。

「拓巳!」

2人とも生ビールの中ジョッキを注文し、あとは適当に

つまみになりそうなものを頼んだ。

「こんな時間に呼び出して悪いな。今日仕事だったんだろ?」

「ああ。佐伯さんの言うとおり、あいつ、人間に飲ませるつもり

だったんだぜ」

佐伯というのは製薬会社の開発部の部長を務める、

雪斗の上司ある。

彼からの情報で、ある人物が薬を別の目的に使用している

とのことで、ここ数日はその人物の監視にあたっていた。

そしてその情報どおり、こともあろうか薬を普通の人間に

飲ませようとしたところを間一髪で食い止めたのである。

「そういや前にそいつ、普通の人間との間でなんかトラブルが

あったとか言ってたな」

「その腹いせだったんだろうな。全く、そんなことに薬を

使おうとするなんて・・・・」

拓巳の言葉は、店員がビールを持ってきたために中断

された。

店員が去っていくのを見届けた雪斗は、

「とりあえず乾杯しようぜ」

と言って、ジョッキを持ち上げた。

キィーン

お互いのジョッキが心地よい音を奏でるのを聞いてから、

拓巳はビールに口をつけるが ―

「ところで、お前、楓のことどう思ってるんだ?」

「ブッ!!」

雪斗の唐突な質問に思わず吹き出してしまった。