~紅の月 番外編~ 第十話
京梧と話し終えて廊下に出ると、そこにいるはずの楓の
姿がない。
拓巳は慌てて屋敷内を捜した。
玄関先へ向かったところで、ちょうど外出から戻った棗と
出くわした。
「拓巳。昨日はすまなかったな」
そう言って声をかけてきた棗にいきなり詰め寄る。
「楓、見なかったか!?」
拓巳のあまりに必死な様子に、棗は驚きつつも答えた。
「あ、ああ。さっきそこの道で見かけたけど・・・・」
棗が言い終わらないうちに、拓巳は玄関を飛び出していた。
屋敷から数メートル離れた小道に、楓の小さな後姿が
見える。
「楓!!」
拓巳が呼ぶと、楓はゆっくりと振り返った。
楓にかけ寄った拓巳は、乱れる息が落ち着くのを待ってから
彼女を非難した。
「なんで勝手に出て行くんだよ!待ってろって言っただろ!」
だが、楓は表情を変えないまま小さな声でつぶやく。
「別に、1人で帰れる・・・・」
「1人でって、ここからマンションまでだいぶ離れてるだろ」
拓巳の言葉を聞いた楓は、少し間をおいてから急に
大声で怒り出した。
「大丈夫だって言ってるでしょ!子供扱いしないで!!」
その時ようやく、彼女の思っていることが見えた気がした。
おそらく、楓は外見のせいで今まで特別な扱いを受けた
ことがあったのだろう。
それが嫌だった彼女は、何もかも1人で頑張ろうと気を張って
いたのかもしれない。
拓巳は、胸がぎゅっと締め付けられるような気持ちになった。
自分には楓を子供扱いする気などないということを伝え
なければ ― そう思った。
「俺は別にお前が子供だから心配してるわけじゃねぇ」
「じゃあ、どうして心配してるの?」
楓にそう切り返され、拓巳はどう表現していいのか分からず
しろどもどろになる。
「だから、その、なんつーか・・・・お前になんかあったら
困るだろうが」
「どうして?」
さらなる追求を受け、脳がパンクしそうになっている拓巳を
見て、楓は思わず笑いをもらした。
(あ、笑った・・・・)
その笑顔は以前の楓のままだったので、拓巳は飛び上がり
たいくらいに嬉しかった。