~紅の月 番外編~ 第三話
雪斗の言葉に拓巳は驚いた。
「楓を?」
「ああ。拓巳もあいつの様子がおかしいこと、気付いた
だろ?」
確かにさっき見かけた楓は以前と違い、暗く沈んだ顔を
していた。
「早期覚醒をしてから2年経つ頃には、もうあんな風に
心を閉ざしてしまってさ。親父やお袋もなんとかしたいと
思ってるんだけど、どうにもならなくてな」
困り果てた雪斗の様子に、拓巳も同情する。
「それで、京梧の教室に?」
「なんか打ち込めるものができれば、ちょっとはマシに
なるかなぁなんて考えて」
そう言って苦笑いを浮かべた後、「じゃあまたな」と
雪斗は縁側から去っていった。
しばらくその場に立ったまま考え込んでいると、
「拓巳君。棗さんが呼んでるよ」
明るく澄んだ声が耳に入ってきた。
顔を上げると、水菜がこちらに近付いてきていた。
本来は女性が苦手な拓巳だったが、水菜とは友達のような
感覚で接することが出来る。
彼女の、内気そうに見えて芯はしっかりしている部分を
知っているからかもしれない。
応接室へ行くと、棗がソファに座って書類のようなものに
目を通していた。
「悪いな、急に呼び出して」
「いや、別に・・・・。それよりどうかしたのか?」
棗は拓巳に向かいのソファに腰を下ろすよう勧め、自分も
くずしていた姿勢をあらためる。
「実は、薬の配送担当の松永さんが腕を骨折してしまった
らしいんだ。それで、お前に代わりに行ってもらえないかと
思って・・・・」
拓巳たちの一族は一ヶ所に集まって生活をしているわけでは
なく、全国各地に点在している。
そのため、製薬工場で造られた薬はそれぞれの担当者が
各地に配送することになっていた。
「そっか。俺は毎日決まった仕事があるわけじゃないし、
全然かまわないぜ」
拓巳の返事に、棗はホッとした表情を浮かべる。
「で?松永さんって、どこの地域の担当だっけ?」
拓巳がそう訊くと、棗はなぜか一瞬躊躇した。
「・・・・それが、岐阜の担当なんだ」
棗が“岐阜”という地名を口にしたとたん、拓巳の身体が
硬直する。
そこは、拓巳の生まれ故郷だった。