~紅の月 番外編~ 第一話
6月のある日、拓巳はちょっとした用があって棗の住む
屋敷を訪れていた。
都心から少し離れたその場所は周囲を森で覆われた
場所に、ひっそりと建っている。
特に豪華な造りではないが、広さはかなりのものだった。
(こんな広い家に住んでるのが2人だけなんて、
もったいねぇよな)
拓巳は中庭に佇み、屋敷を見渡しながらため息をつく。
棗には先客がいるとのことで、それが終わるまで
ぶらぶらして時間を潰すことにしたのだった。
ふと人の気配を感じて左の方に目をやると、1人の少女が
いることに気付いた。
拓巳とその少女との距離は数メートルしか離れてないが、
少女は拓巳の存在には気付いていないようである。
虚ろな瞳で、じっと池を覗き込んでいる少女を見て、
拓巳はひどく動揺した。
なぜなら、彼女が拓巳のまたいとこの左門楓だったから
である。
だが、驚いた理由はそれだけではない。
拓巳が最後に楓と会ったのは、確か6年前だったが、
なんと彼女の姿はその時の ― 12歳の ― 姿のまま
だったのである。
「かえで・・・・?」
震える声で少女に話しかけると、彼女はハッとした顔で
拓巳を見つめた。
そしてなぜか怯えたような視線をこちらに向けると、慌てて
その場を立ち去ってしまった。
「楓!!」
遠くなる背中にもう1度声をかけたが、楓は振り返ること
のないまま姿を消した。
(なんで逃げるんだ?っていうか、一体どうなってるんだ?)