~紅の月~ 第四十九話


総代はすでに広間で2人を待っていた。

水菜と棗が腰を下ろすと、総代は深々と頭を下げた。

「この度は息子が大変なことをしてしまって、申し訳ない」

そんな態度を見て2人は狼狽する。

「そんな!総代に謝っていただくことではありません」

「そうです。頭を上げてください」

総代はゆっくりと顔を上げると、もう一度謝罪した。

「本当に、迷惑をかけてしまった」

水菜は首を振り、総代に言った。

「気になさらないでください。それより、尚也さんの

容態は?」

総代は暗い表情のまま答える。

「まだ意識が戻らないそうだ・・・・」

「そうですか」

棗はただ黙っていたが、心の中ではおそらく尚也を

心配しているだろう。

「今日、2人を呼んだのは他でもない。水菜さん、

3人の候補からもうすでに選んでいるのだろう?」

そう言われて頬が赤くなる。

「・・・・はい」

棗もどことなく照れているような顔をしていた。

「だったら、棗と2人でこの屋敷で暮らしてはどうかな」

思いがけない提案に、水菜は耳を疑った。

「えっ!?ど、どういうことですか?」

隣の棗に説明を求めたが、彼も初耳らしく戸惑った

様子で眉間に皺を寄せていた。

混乱する2人に、総代は話を続ける。

「実は、茅乃が尚也を連れて長野の方へ移りたいと

申し出てきたんだよ」

「茅乃さんが?」

水菜は茅乃とはあの日病院で別れたきりだったので、

彼女がどうしているか気になっていたところだった。

「もし意識が戻ったとしても、ここにいれば一族から

責めたてられるのは明らかだ。もちろん、あんな事を

しでかした罰は受けなければならない。

だが、尚也自身が心から反省をするまでは、

一族の少ない地で療養させてやりたいと言うんだ」

茅乃らしい意見だな、と水菜は思った。

駆け落ちして責められた経験がある彼女だからこその

考えなのだろう。

「それで、私も2人についていこうと思ってね」

「えっ!」

今度は棗が声をもらす。

「そんな、総代がここを離れてしまったら一族は・・・・」

総代は棗に微笑みながら、親が子に語りかけるように

優しく告げた。

「これからは棗、お前が一族の総代となるんだ」

棗は総代の言葉に慌てふためく。

「何をおっしゃってるんですか!俺にそんな大役が

務まるわけがないじゃないですか!」

「大丈夫だよ、お前なら」

総代は棗の瞳をまっすぐに見つめた。

「お前なら、水菜さんと2人で皆を引っ張っていくことが

できる。私が言うんだから、間違いないさ」

まるで呪文のようにそう言い聞かせると、棗はもう

何も言えなくなった。

そして総代は水菜の方を向き、

「嫌だというなら無理強いはしないよ。じっくり考えて

答えを出してくれ」

優しくそう言った。

水菜はまだ混乱から覚めていない状態のまま、

小さくうなずいて見せた。