~紅の月~ 第六話


「り、龍太郎・・・・。ビックリしたぁ」

「ビックリしたじゃねぇよ!今、何時だと思ってるんだよ」

水菜の前で腕組みしている男の子は

父親のようなセリフを吐いて水菜を睨みつけた。

彼の名は春日龍太郎。水菜よりひとつ年下である。

龍太郎は、水菜が10歳の時に隣に引っ越してきた。

父親が脱サラをして近くでイタリアンレストランを

経営しており、母親もその店を手伝っている。

そのため夕食を1人で食べることが多い彼を

不憫に思った水菜の母の提案で、

時々西森家で夕食ををともにしている。

「えっと・・・・、もうこんな時間!?」

携帯で時刻を確認すると、すでに8時になっていた。

「ゴメン!急いで準備するから」

バタバタと台所にかけ込むと、買ってきた材料を

袋から取り出す。

「米は炊いておいてやったから」

龍太郎が不機嫌な声でそう言った。

(龍太郎って拗ねるとなかなか機嫌なおらないからな)

心の中でつぶやいたのに、

「なんか言ったか?」

そう聞かれて、慌てて話題を変えた。

「そういえば、お父さんは?」

「ああ。まだ執筆中みたいだな。俺が来てから1回も

部屋から出てきてないから」

水菜の父は小説家である。

世間ではけっこう人気のある推理作家で、

時々映画化されたりもしている。

いったん筆が進み始めると、何時間も部屋にこもるので

そういう時は放っておくのが西森家のルールだった。

「あっ!ニンジン、もっと小さく切れよな」

龍太郎が文句を言うので、水菜は少し小さく切ってみた。

「このぐらい?」

だが、龍太郎のお気に召さなかったらしく、

「違うって。もっと小さく、これぐらいに・・・・」

水菜の手から包丁を奪ってニンジンを切ろうとした。

その時、

「いてっ!」

誤って指を切ってしまったらしい。

龍太郎の左手の人差し指から、赤い血が滴り落ちた。

それを見た水菜の中で、何かがドクンと脈打った。

(な、何!?)

ドクン ドクン

脈はどんどん速くなり、まるで自分の中に別の生き物が

いるような気がした。

そして何かに操られるように龍太郎の手を取ると、

ゆっくりと自分の口元へと近づけていった・・・・