天国への手紙 | オトループ 

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『天国への手紙』



拝啓。 元気にしていますか?


2013年 9月9日 今年もこの日を迎えました。



貴方が旅立ってから 今日で丁度21年が経ちます



初めてのことだけど、手紙でも書こうかな と思い立ち こうして筆を取っています



宛名 どこに送ったらいいかわかんないから書けないけど、届いたらいいな。



久しぶりに病院から帰ってきた貴方を 家族、親戚一同で迎えた夜



現実を受け入れるのが嫌で、自分の部屋にこもっていた俺を おばちゃんが


「もうお母さんに会えるの最後だから お別れしにいこう」


と連れ出してくれた。



親父のあぐらの上に座り、手やおでこを触って 最後のお別れをした。



ただ 寝ているだけで 今にも「おはよう」と言って起きてくるんじゃないか?ってくらいの



いつもと何も変わらない 穏やかな表情だったのを覚えているよ。



親父が泣いたのを見たのは 産まれて初めてだった。




当時のことを思い返して



改めて人の「死」について考えます。





『人が死ぬということは それで何かが片付くということではない。


新たな何かが始まるということですらない。


大切な絆がひとつ 失われるということである。


そのぽっかりと空いた空虚は 何者によっても埋められない。』


        「夏川草介 神様のカルテ2 p354 」



心に残っている小説の一部分に、この言葉がありました。




自分なりにずっと考えてきて 答えはまだ出ていないけど



「ただ 何かが終わること」 それだけではない気がします。



あの日を境に 確かに俺の人生は大きく変わった



だけど、新しい家族との出会いや 音楽との出会い そしてそれを通じて出会えた大切な人達がいる。



それによって始まったことも 確かにあるのです。



小説の言葉とは少し違うけれど、



『終わりであり はじまりなんだ』 と今は想います。






それに







あの別れがもたらしたものは 悲しみや 寂しさだけではないのです



こうして 大切なことについて 立ち止まって考えることが多くなったし



それがなければ 自分の心は もっと平凡なまま大人になったかもしれない



「大切な人の死」 を 「終わり」 を知っている事が 



自分の強さなんだと想います。




あの さよなら がなければ 今の自分は居ない。



自分の 大切な一部なんだ。








貴方が俺にくれた かけがえのない贈り物が 3つあります




ひとつめは 『命』



こんな素晴らしい人生をくれて 本当にありがとう



ふたつめは 『愛された記憶』



一生懸命に愛してくれた記憶があるから 俺も周りの人を愛していけるし、



今までも それを想い出して 何度も救われてきたんだよ




みっつめは 『日記』



人は忘れてしまう生き物 だから形あるもので 俺への言葉と 想いを遺しておいてくれたこと


に 感謝しています。



読み返す度に 叱られているような 褒められているような 




胸に暖かい気持ちが溢れてきます。




昨年 貴方が遺した日記を基に 「交換日記」という歌を書きました。




聴いてくれた人が とても暖かいメッセージをくれます



「今 こうして 家族といられることが当たり前じゃない って気付けました」



そんな言葉をもらう度に 貴方の存在をとても近くに感じます。



笑った顔が 心に浮かんでくるんだ。



この曲によって救われているのは 他でもない 俺自身なんだよ。




とにかく、感謝してもしきれないよ 本当に産んでくれてありがとう。






今年で 57才 かわいいおばちゃんになっていたのかな?と想像してみます



だけど いくら想いを巡らせてみても 



記憶の中の貴方は 36才の女性のまま。




俺も31才になり いい大人 と呼ばれるような年齢になりました。




もうすぐ記憶の中の貴方に追いつく そしてすぐに追い抜いていくんだろう。



今会ったら何て言われるかな?と思うと笑ってしまうけど




仲間たちに囲まれて 毎日精一杯に生きてます。




21年前の今日 10才の俺が決めたこと 一日たりとも忘れたことはないよ



『お母さんの分まで 僕が生きるんだ』



どんなに辛くても 悲しくても 寂しくても



生きることを諦めたりしない 必ず人生をまっとうするよ。





もっと話してみたかった



もっと色んな所へ行ってみたかった



もっと楽させてあげたかった



『もっと・・・』




それが 今も これまでも これからも 俺の気持ちなんだけど



もう悲しくはないし 寂しくはない



貴方のいない世界を 俺は一生懸命生きてくよ



土産話をたくさん持って いずれそっちに行くから 気長に待っててくれや。





また、会いに出かけます。親父と一緒に。





2013年 9月9日




悠輔