今年の8月に 

 

WAGNER(ワグナー)

 

というかつて広島県で作られていたという大変珍しい国産アップライトピアノに僕の地元である東京都荒川区内で出会いました。現在も第三の国産ピアノメーカーとして浜松でピアノを製造し続けている東洋ピアノが過去に生産していた同名ブランドのピアノ、とは異なります。いや厳密にいうと兄弟姉妹のような繋がりはあるのですが、僕が出会った兄姉であるWAGNERの方は楽器の内容自体がかなり異次元のもので、、その時書いた記事はこちらになります下差し

 

 

そしてそして、ついに満を持して、この約60年前に広島県でコツコツ丁寧に作られていたWAGNERピアノを、今年最後のお仕事としてメンテナンスすることを許されたのでしたっ\(^ー^)/ "許された"という言い方はちょっと大げさかもですが、このメーカーのピアノにはもしかしたら今後二度と出会えない可能性もあるので、あえてそのように自分に言い聞かせているのです。これからここに書くことは、いやこんな運命的なことあるんだなというお話です。

 

 

僕がこのピアノに出会い

そのことをブログに書いた丁度一か月後に、

思いがけないことが起こったのです。。

 

 

 

 

 

それは、なんと同じ広島県産ワグナーのグランドピアノをお持ちという方からメールを頂戴したのです。正確にはお二人の方からメールを頂きました。まず最初に受け取ったAさんからのメールには、僕がブログに掲載していた広島ワグナーのカタログの精密な写真データをなんとか送っていただけないものだろうか。ネット上では浜松産東洋ピアノのワグナーばかりでこの広島ワグナーの情報が皆無であり当ブログを偶然見つけて大変興奮し、当時のカタログまで持っているという事に更に驚愕した。ちょっと盛って書くとそのような内容でした。その後すぐにBさんからおよそ同じ内容のメールを頂戴しました。お二人は親しいご友人同士で、現在広島ワグナーのグランドを訳あってお預かりしているのはBさんの方で、そのワグナーを発見したのは実はAさんである、という少々複雑な関係なのです\_(。_゚)?ココ.. 

 

確かに、僕が持っている広島産ワグナーのカタログにはW600号というグランドのラインナップが1台だけあります(当時アップライトだけのメーカーも多くあった)。がしかし、その広島ワグナーのグランドピアノを実際にお持ちの方が存在していたという事実にまず驚き信じられませんでした。なぜなら僕もこのピアノの事を自分なりに調べその希少性については十分理解していたからです。なぜ調べたかというと夏に荒川区で出会った広島ワグナーの音や鳴りがあまりによくて、このピアノはいったい何者なんだろうと思ったからです。で確か自分が持っていた古い古いピアノのカタログにワグナーとあったような記憶が微かにあり、、ということで件のブログへ繋がるのです。ただメールを頂いたお二人に教えていただいたことで僕の認識と少し違っていたのは、この広島ワグナーを作った東洋楽器製造株式会社が閉鎖に追い込まれたのは、どうやら火事による突然のアクシデントによるものであった、ということでした。火災によって全てを失い、こだわりを持ち続けた小さなピアノ製造会社にとって再建は困難だったものと想像できます。。

 

そしてさらにさらに、お二人からのメールを拝読していてわかったことは、お二人ともピアノ調律師が舌を巻くほどのピアノ通だったということです。昨年僕がメンテナンスさせていただいた初期のイースタインBをはじめお二人共それぞれ複数のピアノを所有しておられ、そのどれもが昭和日本を代表する名器とされている機種ばかりだったのです。お二人のメールから伝わってくるピアノという楽器に対するリスペクトや愛については、このようなピアノユーザーの方々もいらっしゃるのだなということに対して調律師の端くれとして純粋に心を動かされました。それは自分がピアノの音に感動しこの道を志した時の感情と、きっと何一つ変わらないものをお二人がお持ちなのだとわかるからです。

 

 

 

 

そこでそこで!そんなお二人の許可を頂戴し、今回そのめったに拝めない広島県産WAGNERグランドピアノW600号実際の写真を掲載させていただけることになったことをここにお伝えするものであります\_(`o´)))ココココ! これまで様々なピアノを弾いてこられたAさんBさんが一目惚れをして高評価を付けたピアノとは果たして!

 

 

 

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じゃーん!

 

 

 

 

 

(;゚;ж;゚;) や、ヴぁ..アセアセ

 

 

 

 

 

 

なんやこれ!!

 

と思わず関西弁で唸ってしまいます。

 

または、、

 

「なんじゃこりゃぁ~!

 

と松田優作演じた

ジーパン刑事殉職シーンのセリフように

叫んでしまいそうです。

 

 

ななんという、、まるでショパンリストブラームスが生きていた時代に活躍していたピアノのような佇まいである。。大きくたくさん開けられた亀甲型の鉄骨といい、その鉄骨に入ったWAGNERの巨大過ぎる文字といい、手を振ったら完璧に向こう側が見えてしまう透け透け譜面台といい、この何とも言えない細い感じのボディーといい、これは明らかに日本のグランドピアノとは異なるコンセプトと信念と執念で作られたピアノであるということが写真からでも十分に伝わってくるのでした。ちなみにこの透け透け譜面台は特に昔の欧州系グランドピアノにはよく見られたデザインで、この方が演奏者にピアノの音がよく聴こえるという仕組みを有した合理的なモノなのです。日光東照宮に観られるような美しい透かし彫りを施した譜面台も欧米にはたくさんあります

 

 

 

 

いやはやこの様なピアノが60年前の日本で作られていたとはある意味ショックでした。もちろん嬉し過ぎ&リスペクトのショックです。つまり自分が生まれる前の広島県の工場で、このグランドと一緒に作られていたワグナーのアップライトピアノが今、弊社のあばら家工房になぜかあるということなのですよ(正確にはアクションですが..)。このことはやっぱり一技術者としてご機嫌以外の何物でもないのです(๑˃̵ᴗ˂̵)و !

 

 

 

 

最初このピアノは広島県内の今は使われていない音楽教室のような場所に保管されていたそうです。僕が持っているカタログによるとこのW600号のサイズは奥行き188㎝とあるので、いわゆるC3などと同じ3型に相当するサイズですが少し大きめです。写真から見えるピアノの状態を判断すると、保管場所の環境が奇跡的によかったものと想像できます。特に古いピアノについて言うとこの事はすごくラッキーなことです。このピアノの存在を偶然知ったAさんが、取るものも取り敢えず最初に見に行かれたそうです。決して近くはないその場所へ実際見に行かれたAさんの行動力と、価値があるであろうピアノに対する熱い執念のようなものには本当に頭が下がる思いですm(_ _;)m 当初はAさんがこのピアノを購入する予定だったようなのですが、既に3台のピアノ(UP×2、GP×1)を所有しておられるということとで置き場所などの事情から現在は同じピアノ通のご友人であるBさんが一時預かっている、ということのようでした。

 

 

エンブレムもUP同様透明カバーで守られた独特なもの。

荒川にある広島ワグナーのエンブレム。同じ!

 

次高音は一部のイースタインなどでも採用されている玉掛け&ループ方式。

つまり一つの音(1鍵)が隣の音と干渉し合わないという凝った造り。

 

 

言わずもがな高音部は1本張り=1音3本独立弦。

 

 

 

 

実際にこのグランドワグナーを毎日弾いておられるBさん曰く、、

 

「このワグナーは想像以上の鳴りの良さや遠鳴りのする美音に理屈抜きに感銘を受けることになり、、とりわけ高音域の輝くばかりの力強い鳴りには弾く度に舌を巻きます、、我が家には他にもピアノがありますがWAGNERが来てからというもの圧倒的にこれを弾く割合が増え、、」(原文まま)とありました。

 

 

 

W600号に搭載のレンナー木製レールアクション。作りの良さが一目瞭然..

 

 

有難いことにAさんは僕のブログをよく読んでくださっていたようで、まず最初に僕の広島ワグナーの記事を発見していただいたのはAさんでありました。そしてAさんからBさんへ僕のブログの情報が伝わった、、ということだったのです。いやはやネット社会の恩恵とでもいいましょうか。ネットに溺れると痛い目に遭いますが、今回のようなことが起こるのもまた文字通りネットワークという現代における網の文化で繋がっているからに他ありません。僕は珍しいピアノに出会った時、このネットの海の中から僕のことを見つけてくれてありがとうございます的なことをお伝えすることがあります。今回正に2台の広島ワグナー所有の方々に僕のことを見つけていただいたおかげで、僕自身もこのピアノについての一端を知ることができたのです。これは本当にある意味奇跡的なことです。またその2台の内の1台が僕が生まれた町に在ったということに否が応でもこれは何かの縁だ!などと必要以上に強く心の中で叫んでしまうわけです。AさんもBさんも僕同様この広島ワグナーが関東に在ったということに驚かれてました。今回荒川区の広島ワグナー所有者の方も、幼少期に親御さんがご近所の楽器店で普通に購入してくれたこのピアノに、まさかこんな能力と歴史が隠されていたことに大変驚いておられるご様子でした。だから、もしこのブログを読んでいただいた方でご自宅やご実家で埃を被り眠っているピアノの鍵盤蓋を開けてみて、そこに象牙鍵盤で"WAGNER"という刻印があっなたら、絶対に処分しないでどうかどうかずっとずっと大切になさってくださいお願い

 

あ、付け加えておくと、浜松産のワグナーが良くないという意味では当然ございませんので誤解のないように。むしろ広島産ワグナー技術者が東洋ピアノへ出向き製造に携わったという歴史もありますので、浜松産ワグナーへとそのDNAの一部が継承されたと考えるべきでしょう。全ての楽器がそうであるように、楽器が作られた時期や材料や製造工程も異なるため決して同じ音は発しませんが、浜松産には浜松産の良さがあるものです。そちらもぜひ今後も大切になさっていただきたいです上差し

 

 

広島産ワグナーUPのロゴ

 

 浜松産東洋ピアノワグナーのロゴ

 

広島産ワグナーGPのロゴ

 

 

今回このブログを書かせていただくにあたって、可能なら実際にこの広島グランドワグナーを見に伺いたかったのですが少々遠方ということもあり断念せざるを得ませんでした。いつの日かお伺いできる機会を持てたら幸せだなと思っております。AさんBさん本当にありがとうございましたm(__)m m(__)m

 

 

 

・・・

 

 

 

そんな訳でして、思いもかけないお便りから不思議なご縁で繋がった2台の広島産WAGNERピアノはこれからもずっと生き続けることになるのです。そして今回アップライトのほうを僕がメンテナンスさせていただくことになったという訳なのです。

 

 

嬉しいことに現在このピアノはお母さん含め4人の方に弾かれています。中でも一番このピアノを弾いている小学3年生の坊ちゃんは、僕がアクションの引き上げに伺うと玄関までお出迎えしてくれ、なんだかこのピアノの所有者であるということを前回より誇らしく感じているようにその雰囲気から伝わってきました。僕がアクションを外すとご自分でもピアノのあちらこちらを嬉しそうに写真に撮っていました。

 

激写!

  .∧∧ カシャカシャ! 
 (  )】Σ 
 / ./┘  
.ノ ̄ゝ       

 

しばらくの間ピアノを弾けないので弊社電子ピアノで対応します。

 

    閉店ガラガラ~  

 

 

 

 

残念ですが話はまだ終わらない。アクションを本体から下ろし改めてピアノ内部を見ると、何とそこにはもう一つの"便り"を発見することになりました。ピアノの響板に

 

 

東洋楽器製造株式会社

謹製

 

とあったのです。「謹製(きんせい)」とは、、

 

 

心をこめ

丁寧に

つつしんで作る

 

 

という意味です。「謹」には「つつしむ」以外に「念をいれて気をくばる」や「気を引き締めてていねいに」という意味もあるそうです。よく老舗和菓子屋さんなどの菓子折りの箱とかに印刷されていたあの熟語です(最近はそれも見かけなくなったような..)。それ以外ほとんどこの「謹製」という文字を自分の人生の中で見たことはなかったと思います。「謹」を使った熟語というのはけっこうあるみたいですが実際の生活の中で見かけるのはそう多くはなく、年賀状に書く謹賀新年のや手紙の最初に書く謹啓くらいでしょうか。なのでまさかピアノの響板上にこの文字を目撃することになろうとは思いもよらないことで意表を突かれました。思わずお母様と二人でこの漢字についてあーだこーだと話し込んでしまいました🤔 

 

つまりこのワグナーというピアノはそれくらい心と思いをこめ、気を引き締め丁寧に、念を入れて気を配り、つつしんで作られたピアノだということではないでしょうか。また自分たちの会社名をかなり大きめに日本語でしっかり響板に残すあたり、頑固一徹硬派な職人たちの誇りも垣間見えます。この響板に残されていた「謹製」の文字は、アップライトの場合だとアクションを下ろさなければ見えない位置にあります。このことから、この広島ワグナーがいったいこの国で何台作られ何台が売れそして何台現存するのか知る由もありませんが、もしかしたらワグナーの元所有者たちは一度もこの文字を見ることなくこのピアノから離れていった可能性もあるのです。そう思うと少し悲しい感じがしました。。

 

そして僕はこの「謹製」という文字を発見した時、このピアノは広島ワグナーを作った人たちからの「頼んだぞ」という、形を変えた便りのような気がしたのです。これからOTO工房で行うメンテナンスは、そのお便りに対する僕のささやかな返信作業になるんだろうと思っています\_(๑❛ᴗ❛๑)ココ!

 

 

 

 

 

 

 

今日も僕のブログを読んでくれてありがとうございましたm(__)m

 

OTO

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