「静寂が私のテーマなんですよ.. 」

 

 

 

 

先日ある演奏家のピアノを調律させていただきました。調律後のピアノで彼女はおもむろにショパンのノクターン13番 Op.48-1を弾き出しました。とても素敵な曲で僕もノクターン集の中では好きな曲だったのでその冒頭部を聴いた時は心の中で静かに歓喜してしまいました(๑˃̵ᴗ˂̵)وヤタ !  調律後にこのノクターンを弾いてくれた方が過去にいなかったこともその理由でした。

 

 

 

 

 

実は僕らが行なっている調律という作業は見かけより結構疲れます。その疲れた身体を癒すかのように彼女の弾くショパンに聴き浸っていると、突然彼女は冒頭のセリフを言い放ち演奏を止めたのだった(・_・)エッ..?  理由を聞くと、当然ながら曲によって自分が理想としている演奏スピードやテンポというものがあり、なるべくそれに忠実に弾くように心がけているがどうしても速くなってしまうのだと。そして彼女はその自分の目指しておられる音楽を楽譜通りだとか世界観だとか、そういったありきたりな言葉ではなく「静寂」と表現したのだった。ただゆっくり弾くだけではなく到達した静けさの中にだけ見えるものがあり、それがピアノ演奏において自分のテーマなのだと。そんな意味のことを確かおっしゃいました。

 

 

 

 

 

 

ん〜・・・なるほど。アホな僕でもなんかわかるような気がします。ピアノ演奏だけでなくどんなものでも一定のペースや自分の理想とするペースを保つというのは簡単なようでいて難しいことだと思います。分野は全く異なりますが、高校の時僕は水泳部だったのですが技術的には問題なくてもエクササイズのように一定のペースで長く泳ぐことがすごく難しく気づくといつも最後は信じられないほど速くなっていた。で結果疲れて泳ぎがバタバタになる。たまーに理想通りに泳げたりすると、どんなけ長く泳いでもほとんど疲れることもなくプールの中にいることさえ忘れてしまうくらい水と一体になれた時があった。そんな時は自分が魚になったような気分に浸れた。足はつるけど。あと食事なんかも本当はもっとフランス人の様にゆっくり優雅に会話を楽しみながら食べたいと思いつつも、大抵は親の仇打ちよろしく何かに急かされているかのようなスピードで食べ終えてしまうことが多い。例えが稚拙すぎるけど..

 

 

 

 

人によるでしょうが確かにピアノの演奏って自然と先へ先へ急いでしまうことが多いかもしれません。それを制してくれるものとして楽譜の指示やメトロノームというものが重要になってくるのでしょうか。食べものの咀嚼と同じでピアノ演奏も一音一音をじっくり噛み締め味わうように弾けるともっと音楽性が高まり作曲家の意図をより正確に伝えることができる、ということを先生はおっしゃっていたのかもしれません。

 

音楽性といえば、僕の調律が終わるのを待っている間先生は何やら一心不乱に読書をしておられたようでした。調律後にチラッとその本のタイトルが目に入り( -_・)?ん?(盗み見ともいう)思わずハッとしました。なぜなら、間違いでなければ僕が過去に読んでいたものと同じ本だったからです。その本は、僕がいたずらにピアノを弾き始めた頃「戦場のピアニスト」という映画を観て影響されどうしてもショパンのノクターンNo.20(通称遺作)が弾きたくて、、そんな時期にショパン様に心酔していた僕が同じくどうしても読みたくてなんとか見つけ出し購入した本だったのです。でその本というのが結構分厚くて読み応えがあり読んでみようかと思うこと自体かなりの決心を必要とします。だからなのか、この本をかつて読んだ今読んでいるという人とまだ出会ったことがなかったのです。

 

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今改めてなぜ僕は当時この本を読んでみたかったのかと思い返してみると、、こんな素敵な曲をたくさん生み出したショパンという人が一体何を考え当時どんな生活をし弟子たちに何を語っていたのかという彼の日常やリアルな何かを純粋に知りたかったんだと思います。その彼の日常こそが彼が生み出す数多の曲に反映されているのだとしたら、それは是が非でも知ってみたいじゃないかと。そしてこれは非常におこがましいことなのですが、彼の考えや生活の一端を垣間見ることによって自分が弾こうとする彼の曲に、何かこうChopinという作曲家の魂や想いというものが少しは宿るのではあるまいか、という下心もどこかにあったのかもしれません。だからというわけではありませんが、"静寂"という自分の音楽を追求する演奏家の方がこの本を読んでいるということを知り、妙に合致し一人静かに納得してしまう自分がいました。

 

 

 

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ところで、静寂といえば今回僕が調律のためにお邪魔させていただいたこちらのお宅は防音設備完備の楽器演奏24時間OK!のマンションでした。楽器演奏可というのは聞きますが24時間可となるとそう多くはないと思います。「調律は何時に来ていただいても大丈夫です」と不思議なことおっしゃってた意味が到着してわかりました。

 

調律中もピアノの音と本をめくる音以外一切聞こえてこずシーーンと静まり返った正にそれは静寂な世界でした。なんかいつになく妙な緊張感(-.-;) 音が吸収されるため反響はいつもより少なく逆に音一点に対して集中できるようだった。こんな空間でなんの気兼ねなくいつでもピアノを思いっきり弾けるってすごく恵まれているなぁと思いました。

 

 

 

 

 

 

普段僕は調律が終わった後、最初にバッハの平均律No.1 BWV846(一番簡単なやつ)を各オクターブで少し弾いてキレイに"調律の平均律"が出来てるかをざっと確認するのですが、僕がいつものようにそれで確認していると彼女が間髪入れずに僕よりオクターブ高い鍵盤を使いまるで子供が喜ぶ様に一緒に弾き出したのです。そういう方もまずいません。いや本当にピアノが好きなんだなぁと。

 

先生は某配信アプリというものでご自分の演奏配信を行っており、ここの防音空間を最大限に活用すべく配信スタジオに大改造することを計画中とお聞きしました。Youtubeでの配信くらいしか知らなかった僕は配信専用アプリというのがあることを知りませんでした。知ったかぶりして「それTikTokとかですか?」と言ったら笑われました。でその配信アプリというもので活動しているピアニストの方々って今すごーくたくさんいらっしゃるようでした。いやはや時代は動画というよりリモートライブです。確かに今コロナで思うように演奏活動できませんから、オンライン上でも多くの人に自分の演奏を聴いて欲しいと思うのは自然のことなのかもしれません。しかも一期一会の出会いがあり感想も直で聞けるので演奏家にとってはやりがいがある場所であることは想像に難しくありません。反面すごく辛いと感じることもあるとは思いますが....  

 

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先生はご自分で作曲もされるとお聞きしました。一切の雑音雑念を排除するために投資しこの静かな部屋をあえて選んでいるのかなと、そんなことを考えました。演奏家やピアニストにとってはある意味夢のような空間ですが、だからこそ苦しさや孤独も感じることがあるのかなと、そんなことも思いました。世間一般には孤独という言葉はネガティブに取られがちですが、僕はすごく好きな言葉です。

 

「ナルシスティックといわれてもいい。 

孤独だから人間は自分を取り戻せる」

 

と言った人が確かいました。

 

その後に生まれる静寂の世界を得た音楽を聴いてみたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も僕のブログを読んでくれてありがとうございましたm(__)m

 

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