突然ですが、皆さんは弦を使ったピアノの種類っていくつあるかご存知ですか?何を今さら、というかんじでしょうか。一般的にピアノの種類を大きく分けると、、
グランドピアノ(平型) と アップライトピアノ(立型)
の2種類だということは、これはもうほとんどの方が知っていることと思われます。ではアップライトの様な"立型(縦、竪型)"のピアノを更に分類するとどうなるか、ということは実はあまり知られておりません。立型のピアノ=全てアップライトではなく、厳密にいうとそれぞれ呼び名がありアップライトから更に細分化することができるのです。それは、、 コンソールタイプ と スピネットタイプ
と呼ばれているものです。日本では立型のピアノを単に便宜上、全てひっくるめて「アップライト」と呼んでいます。そのこと自体が良い悪いではなく、そういう習慣があるということです。それは西洋と比べてピアノという楽器の歴史自体が浅いから重要視されないというよりは、同じ縦型なのでむしろそれほど明確化される必要性もないということなんだと思います。現にピアノ販売店であっても「コンソールタイプ・スピネットタイプのアップライトピアノ」として販売されていることがほとんどです。またややこしいのですが、元々アップライトピアノというのは開発された当初の1800年代は現在のアップライトより更に大きかったのです。現在の一般的な大きさのアップライトピアノはスタジオアップライトという呼び方をされてましたが特に日本ではほとんどそのような呼び方はされてきてません。
こちらは最近出会ったKAWAIの素敵なコンソールタイプのピアノです↓
コンソールやスピネットタイプのピアノは殆どが木目調でデザイン的にも高級家具の様に非常に凝った造りをしているものが多いため、製造コストもかかり新品価格は一般的なアップライトピアノと比べても高めで中古価格もあまり下がらないのが特徴です。サイズ的にはコンソールが高さ110㎝前後とコンパクトな作りでピアノを家の中に置くことによって威圧感を与えたくない、という場合には正にぴったりなピアノです。ピアノの物理的な大きさからいって日本の住宅事情を考えた場合もっと普及しても良いと思われるのですが、なぜか日本ではピアノ=黒、みたいなイメージがあるため選択するユーザーが少ないようです。結果量産台数が減るため価格設定も高くなってしまいます。コンソールピアノの中古価格が下がりにくいのはそういった事情があり希少価値が高いからでしょう。またこの家具調コンソールタイプのピアノが欲しくて探している方というのも実は意外に多く、中古価格が下がらないのは販売側がそんな購入者たちの足元を見ているとも考えられるのかもしれません。
構造的にはコンソールタイプのピアノは鍵盤とアクションの間に隙間がなく、鍵盤の先に付いている小さな金属製のパーツの直ぐ上にアクションが直接載っています。そのためピアノをコンパクトに作ることが可能で、鍵盤の動きをよりダイレクトにアクションへ伝えることができます。これをダイレクトブローアクションと呼びます。
コンソールピアノの鍵盤とアクション
アップライトは鍵盤とアクションの間に長い棒(ポストワイヤー)が付きます。
森山直太朗さんの代表曲の一つである「さくら(独唱)」のMVで使われたピアノはシンプルなデザインのコンソールピアノでした。主張し過ぎない、威圧感を与えないという観点からこのデザインのピアノが選ばれたのかもしれません。この静謐な空間にぴったりですね。
そしてあのジョン・レノンが残した名曲「イマジン」を作曲した際に使われた彼愛用のピアノもまたスタインウェイのコンソールピアノだったというのは我々調律師の間ではもはや語り草となっております。同じ型のピアノが現在も中古で手に入りますが(数は多くない)古いピアノにも拘らず常に200万円前後で取引されてますスタインウェイZ114という機種でピアノの高さが114㎝のものです。 イマジ〜ンオールザピーポー〜♪
そしてコンソールより更にサイズをコンパクトにしたピアノがあり、それがスピネットピアノと呼ばれているものです。このタイプのピアノは高さがなんと1m以下というコンパクトな作りです。見た感じは家具調の電子ピアノと同じような印象で高さ自体はちょうどグランドピアノと同じくらいです。下の2台のピアノは以前僕が修理させていただいたスピネットタイプのピアノでいずれもアメリカ製でした。コンソールピアノもそうですが、このタイプのピアノはデザインや造りにこだわっていてとても雰囲気があります。どことなくこうピアノという楽器の歴史の一端を感じさせる何かを醸し出しているとでもいいましょうか。自分の家にもし置くスペースがあったら一台欲しいピアノだと思ったものです。そういう意味では西洋家具的な高いインテリア性を兼ね備えたピアノとも言えます。 Wurlitzer(ウーリッツァー) Baldwin(ボールドウィン)
ところでお気づきでしょうか、このスピネットピアノはアクションの殆どが鍵盤より下に落とされた形で付いています(Wurlitzerの写真がわかりやすい)。このアクションのことを読んで字のごとくドロップアクションといいます。このタイプのピアノアクションはメンテナンスや調整が非常〜に大変なピアノとして我々調律師には恐れられていて、スピネットピアノのメンテナンスを行わない調律師もいると聞きます。行わないというより、日本ではスピネットユーザーの数自体が非常に少ないのでメンテナンス経験がない調律師が数多くいるというのが実情だと思います。実際にこのスピネットピアノを目にすると本当にアクションが中に入っているのかと思うくらい小さくて驚きます。一般的なアップライトに慣れている者からすると、下の方に落とし込まれているアクションの姿を目の当たりにするとそのアイデアというか合理的&シンプルな発想に感動すら覚えます。しかしメンテナンス性をあまり考えずに作られたあたり、アメリカっぽさ?も感じてしまうところではあります。
で先述した通り日本ではピアノ=黒という変な固定観念や思い込みのようなものがあるのですが、西洋ではその歴史上ピアノは"家具の一部"という考え方が今でも文化として根付いているため、現在も木目調のコンソールやスピネットタイプのピアノが普通に広く愛用されています。特にアメリカではその傾向が強いと思います。ただドロップアクション搭載のスピネットピアノは現在は生産されていないはずです。コンソールタイプのピアノは現在も普通に生産されています。ただ先ほども言ったように価格は押し並べて、高いです..
古い話で恐縮ですがスピネットのピアノで思い出すのが、♩Calling You (コーリングユー)♩の挿入曲で有名な映画「バグダッド・カフェ」です。80年代後半の映画ですが僕がこれをレンタルビデオ屋で借りて観たのは確か90年代でそれがとてもよく、その後"完全版"が出た時にやはりVHSを買いました。
観たい方お貸しします。ビデオですがw
当時はピアノという楽器に思い入れが全くなかった僕でしたが、この映画の中で何かに取り憑かれたようにバッハの平均律を練習する一人の青年が出てきてなぜかそれがとても印象に残ってました。なぜ彼はピアニストを目指してるわけでもなく、メンテナンスもされてないと思しきピアノで、砂漠というロケーションの場末カフェの片隅でこれほどまでに朝から晩まで一心不乱にピアノを弾かねばならないのか、、そんな謎を僕に抱かせたのでしょうか。そしてそんな僕自身が後にピアノに取り憑かれるようになって初めてあの青年の気持ちを理解することになったのです。また映画の中で彼はバッハを崇拝しているようでした。そのことも僕自身がピアノを弾くようになってバッハがいかに神であるかを身をもって知ることとなり腑に落ちたのでした。でその彼が映画の中で弾いていたピアノが、確かスピネットタイプのピアノだったと記憶しています。ビデオデッキが再生不可で確認できませんでしたが下の写真からはそのコンパクトさが伝わってきます。演奏する手の上辺りメトロノームの横に譜面をぱらっと置いている部分がもうピアノの屋根部分(上部)です。 映画「バグダッド・カフェ」に登場するスピネットピアノ。写真お借りしましたm(._.)m |
ボールドウィンのは60年代の広告。 写真お借りしましたm(._.)m