『登場人物』
兄・明人(アキト)~中学2年生『14歳』
父が蒸発してから母が壊れていき、
自分が家族を守らないと…と、
いつも考えていた。。
妹・真帆(マホ)~小学4年生『10歳』
父は真帆が生まれる直前に蒸発した。
母のアルコール依存に苦しめられ、
母の異常な執着により今は学校に通えない。
母~アルコール依存症。
夫が蒸発してから少しづつ
アルコールに逃げるようになった。
父~10年前に蒸発して行方知れずとなる。
『who killerd that family』
~あの家族は一体何に殺されたのか?~
⑥
『あの人はもう帰って来ない。。』
~当時~
~それでも彼女は探した~
あの人の職場にも行き、
電車とバスを乗り継いで向かった、
背中にまだ赤子だった真帆と、
幼い明人の手を引いて…
~あの人の実家にも向かった~
けれど義父とは以前から、
折り合いが悪く…
あの人が居なくなったことは、
お前にも責任がある!!と、
理不尽な言われ方をされ…
耐えきれなくなった彼女は、
幼子を二人連れて、
その実家をあとにした…。
~東北の小さな田舎町~
~季節はちょうど蒸し暑い梅雨の時期~
電車とバスを乗り継いで来たから、
まだ4歳の明人は、
疲れてしゃがみこんでしまった。
『待って!〇さん!!』
後ろから女性の呼ぶ声が聞こえて、
振り返ると、そこにはあの人の母親がいた。
『これを持って行って。』
袋いっぱいのさくらんぼを渡そうと、
追いかけてきたのだった。
義母は決して悪い人ではなかった。
孫のこの子達にもいつも、
何かを持たせてくれて…
可愛がってくれた*°
でも。。でも。。
(あの人は私達を捨てました!)
その怒りの矛先を義母にぶつけ…
彼女はその袋いっぱいのさくらんぼを、
『要りません!』
そう言って、義母に突き返した。
ポロポロといくつかのさくらんぼが、
地面にころがって。。
義母はそのまま立ちつくして。。
彼女は振り向かず、
あの人の実家を後にした。。
~あれ以来~
~あの人の実家に行くことはなかった~
彼女には両親もいたが、
駆け落ち同然で結婚して、
そして今回、夫が蒸発したことで…
『それ、見たことか。。』
特に母は彼女に対して厳しかった。。
『お前達を養うのも大変だよ。』
『うちの冷蔵庫が空っぽになるべ。』
いつも事ある毎にそう詰(なじ)られて…
彼女の心は誰にも。。
癒されることは無かった。。
少しだけ…気がまぎれるなら…と、
最初は少しだけ飲んだビール。
胸の辺りが温かくなって、
なんだかホッとした事を覚えている。
(嫌なことを忘れられる。)
けれど…酔いが覚めると、
現実に引き戻さて。。
(寂しい…誰か助けて。)
いつの間にかまた…酒を口にした。。
遠くで赤ちゃんの泣き声が聞こえる。。
(うるさいなぁ…静かにしてよ…)
アルコールが彼女の体を。。
心を蝕んでいく。。
もう、そうなると…
彼女は酒を手放せなくなった。。
子供達を寝かしつけてから、
外に出掛けるようになり、
居酒屋やスナックで飲み仲間と、
酒を飲むことが楽しかった。
ここでは子供が居ることは話さない。
(大丈夫…少しならば大丈夫。。)
でも、気がつくと明け方になっていて、
慌てて家に帰るとそこには母がいた。
(何をやってるんだ!!)
母はそう怒鳴り、彼女の頬を
思い切り平手打ちをした。
バシッ!!
頬をぶたれた彼女は…
しゃがみこんで、
ただ黙っていた。。
(私の事を分かろうとしないクセに…)
(いつもいつも母は私を貶(けな)す…)
『アキトさん、今はさくらんぼって』
『高いわよ~』
~ここは東京の下町~
。。身寄りのない人々を看取るホスピス。。
ほとんど食べ物を口にしなくなった患者…
看護師が笑いながら話しかけて*°
(何が食べたいって聞いたら…)
『さくらんぼ』だと言う患者。
少しだけなら、
食べさせたいなと思い、
厨房に行き、
缶詰のチェリーを2つ3つ届けた。
『ありがとう』
アキトさんと言われた患者は、
しげしげと缶詰のチェリーを見つめて。。
『昔、俺の小さい頃は…』
『袋いっぱいのさくらんぼが家にあって、』
『嫌になるくらい腹いっぱい食べたよ。。』
『へぇ、良いわねぇ。私も食べたいわっ』
看護師は笑いながら、
『また来ますね。』
と言い…去っていった。
。。。。。。。
俺の親父の故郷…今もさくらんぼが
沢山…実っているだろうなぁ。。
ばあちゃんが袋いっぱいに。。
くれたさくらんぼ…
。。懐かしいよ。。