少年事件の調査は奥が深い。私は、家庭訪問をよくする。面接調査で行き詰まると家庭を訪問する。最近は、調査室(面接室)だけで、それも1回の調査で終わらせることが流行らしい。しかし、病院臨床に携わる心理士ではあるまいし、それでわかるものもあるが、その力を知ってほしい。もし、全くしないならば、少年司法は尻すぼみ、大事な時に本領を発揮できないのではないかと気になる。

 鑑別所調査で黙秘を続けた少年の家庭を訪問した。保護者に案内してもらった。布団は敷いたまま、台所は皿が積みあがっている。暴走族の少年だから特攻服、バイク雑誌があることには驚かない。心の住民票は暴走族〇〇会だなとうなづく。ところが、不自然な点が一つあった。暴走族の本や物に交じって、本棚に中華料理の本が一冊あった。その場違いに手に取って開くと擦り切れていた。

 後日、鑑別所でその子に尋ねた。暴走族以外のことは話す子だった。彼は、かに玉が得意だとか、料理自慢を滔々と述べた。父の料理はまずいので自分がやってきたと自慢した。一本の線がつながった。少年は幼い時からヤングケアラーであった。非行化したのは母が男性を作って家を出た時からだった。父はパチンコに狂い、お惣菜は買ってくるが料理はしなかった。その父は体を壊し、親として頼ることは無理だった。その子は、暴走事件について黙秘を続けたので施設収容になった。

 しかし、私は処遇勧告で「料理の腕を活かす指導をしてほしい。」と施設へお願いし、後日施設を訪問して教官に理由を事細かに説明した。彼は施設を退院後、飲食店に勤め、後に店長になった。

 この子に限らない。家庭訪問で、少年の部屋に並ぶ「ナニワ金融道」の漫画に少年の入れ込みようを感じたケースがあった。後日の鑑別所で話題にするとその子は貧困に対するコンプレックスと僕は成り上りたいですと語った。

 調査室で「君の趣味、特技は?」と尋ねるのもよいであろう。一方、家庭訪問を土台に「中華料理の本は誰が読むの?料理を作るの?お父さんはいるでしょ?」と尋ねる。そういう調査もある。