ただいま…

 

今思い返してもゾッとするほど忙しい11月を何とか生きて乗り越えることができた。

忙しいというと月並みな言葉に聞こえるが、リハビリ中の私にとって限界突破を余儀なくされるスケジュールがずらりと並んでいたのだ。

 

10分程度の練習で手も肩も痛くなるのに、フルートよりも重たいアルトフルートを、4時間も練習をするという日が続く。

吹き続けていると、次第に痛みが麻痺してくるから、調子にのっていると、ある時全く音が出なくなる。

腕の力を入れることができなくなって、楽器を構えられていなかったり、握力が無くなり、キーを押せていないのだ。

 

ある夜、楽器を片づけていると、手が思うように動かず、うっかり楽器をケースごと落としてしまった。

恐る恐る楽器を組み立て直して吹いてみると、音が出なくなってしまっていた。

半べそかきながら電話をし、夜道を車で飛ばして、ヤナギサワさんの工房へ駆け込み、帰宅すると0時。

朝9時からの練習に参加するため、満員電車を覚悟で早朝から都心へ向かわねばならないが、数時間しか眠れなかった。

 

連日のように、重たい楽器や衣装を担いでの移動で1万歩くらい歩いていた。

 

どんなに痛みが出てくるか、どんな醜態をさらしてしまうのか、と不安と恐怖に駆られていた。

だが、終わってみると不思議なことに、力づくのリハビリが功を奏した形で、以前よりも強くなった自分がいるのだった。

演奏技術も驚くほどに回復したし、足のことはほとんど気にしなくて済むまでになったのだ。

 

こんなふうに強制的に追い込まれでもしなければ、ここまで激しいリハビリを自分に課すことはできなかった。

つくづく、人生とは粋な計らいをしてくれるものだ。

 

私は今、演奏することが本当に楽しい。

以前は、常に自分という世界一厳しい審査員を基準に演奏をしていたので、愉しむということができなかったのだ。

技術も体力も衰えてしまった今の自分には、何も期待することができない。

思いがけず少しでもいい音が出れば、それだけですごく嬉しいし愉しいのだ。
 

全てのハードスケジュールを終えた安心感からか、飲めない酒を少し多く飲んだら、翌朝、膀胱炎を発症してしまった。

子供に風邪をうつされて免疫力が落ちていた上に、睡眠不足が続いていたのだ。

 

せっかくすべてが終わったら、食事制限を解除しようと思って楽しみにしていたのに、まだおあずけをくらっている。

膀胱炎は一週間、市販の漢方薬を飲んで、ひたすら睡眠をとるようにしたら、やっと落ち着いてきた。

いくら元気になったとはいえ、年甲斐もなく羽目を外すようなことは慎まねばならないと痛感している。