暫くミチルは窓の向こうを見て黙っていた。
煙草が堪らなく吸いたくなったので吸ってもいいかと聞いたが一瞥してまた窓を見た。つまり駄目だと言うことだった。
一体いつまで此処にいなければならないのか、仕事は会社に残しているし時計は深夜1時を回っていた。

もう一度写真を見てもいいかと聞いた。
ミチルはまた一瞥して、外を見た。
今度は構わないけどって態度だった。

一回りも違う女の子がどうしてこんなに、僕を上手く扱えるのか分からなかった。
写真を手に取りもう一度自分の顔を眺めた。さっきより長く、見落としが無いように。
少なくとも見落としはなかった。30年以上見てきた自分が確かめたのだから。
それが終わると、ユカと言う女の顔を眺めた。やっぱり知らない顔だった。
ただ、さっき見た時よりもユカ(ユカと言う名前の女)は静かで、清楚な印象に見えた。写真の中で笑っている顔は好感を抱かせたし、ユカが援交をするような子なのか疑問も抱いた。
そう言う時代だと言われれば納得はするんだが、そう思わずにはいられなかった。
写真の中の二人は恋人同士にも見えたし、また他人にも見えた。それは自分自身ではないからか、何か見落としがあるかは分からない。

細かくチェックをしてみた。服装から見ると、ワイシャツはどれも同じで区別は出来ない。ズボンもこの写真からだと判別しずらかった。ただ腕時計は多分自分の物だろうと思う。そうなると、この写真の男は僕である。
身に覚えがない…。

裏には10/20とある。
ユカが書いた字かは解らないが、この日に写真を取ったのか、取った写真をこの日に渡したのかどちらか…。
そして、そのどちらにしても彼女はこの世にはもういないのだ。
ミチルの苛立ちは逆立った髪の毛の様に時間をかけては垂れ、垂れては逆立った。
「一体、誰が何のために殺したりしたんだろう?」
「あたしが分かるわけないでしょ!で、何でそんなに落ち着いてる訳?」
「落ち着いてる訳じゃないけど、突然過ぎて冷静になる。」
「ユカが可哀想じゃないの?お金を払ったから後は知らない?」
「本当に違うから。写真は俺だけど、実際会ったことも、話した事もない。」
「ドッペルゲンガーか幽体離脱か、双子の兄貴だって事?よーく見てよ。これ警察が見てあなた、疑われないと思う?」
「…警察もこれを見たのか?」
「あたしは見せてないけど、ユカの持ち物から出てきたら絶対疑うと思う。」
「でも君が見せないのはどうしてだろう?」
「馬鹿?あたしが、友達援交してましたって言ったらユカを売る事になるのよ?」
「直ぐバレるだろ?」
「あたしが売るかって話!あたし以外の誰かがそうしてもあたしはしないの!」

ミチルは苛立ちを増し三度目のすね蹴りをした。

「正確な蹴り…」
「あなたが知ってる事を全部あたしに話して。警察なんかに片付けられる前にあたしがそいつの首の骨を折るから。」
ミチルの目からは殺気が漂っていたがその奥には親友を奪われた痛みが見えた。
その目を見ていると、17才の頃の話を思い出した。

初めて付き合った女の子と、夜の10時過ぎにこっそり会った。最初は何をするわけでもなく、ただ会って話がしたかった。とても素敵な時間だった。
それは数ヶ月続き、お互いの両親が止めさせるまで行われた。彼女が妊娠する事が発覚するまで…。避妊はしていたが、それでも絶対大丈夫と思う事はないと知った。
その時の僕らはもう会うこともなかった。
ミチルはその時の僕らと同じ目に見えた。
突然奪われると言う事に、対応出来る人は少ないのだと思った。
他人の主観でどう思われようと、それは100%他人の自由だ。
が私の主観も100%私の自由。
他人には隠すが、自分に向けて隠す事などない。
例えば私の主観で見ている第三者と、あなた方が見ている第三者とでは、存在しているかしていないか程の違いがある。
第三者の一方で拒む事をしていても、もう一方で受け入れて欲しいと望むモノを感じる。
見る角度が全く違う訳だ。
角度は表現者の武器だ。
表現者は孤独でなければいけない。
その作業に他人の主観は要りません。

100%私の主観だ。

私の世界に存在するモノを信じるか、他人の世界に存在するモノを信じるか?共有か?
違った個体で全身交わるつもりはないから、余地はあって理解もあっても、作業は孤独でありたい。

そして、今は眠い。