子供の飛び出し。

新聞でもよく出る見出しです。

なぜ、子供は道路に飛び出すのか?

 

 

私は幼稚園に通っていた頃、道路に飛び出したことがあります。

その時、なぜ飛び出そうと思ったのかは今でも分かりません。

だから、子供が飛び出す理由をいくら大人が考えても答えは出ないと思います。

 

1人で外に出かけることが出来るようになっていた私は道路を走る車が怖いということに慣れて、少し注意力が散漫になっていたのかもしれません。

その日の午後3時頃、私は幼稚園に向かって歩いていました。幼稚園からバスで帰宅した後にまだ残っている友達に会いに戻っていたのだと思います。

 

私は道路の左端を歩いていましたが、なぜか道路の反対側が気になりました。次の瞬間、突然スイッチが入ったかのごとく、私は道路の反対側に走り出したのです。

思ったらすぐに飛び出す。これが子供の行動心理です。理由はありません。とにかく道路の反対側に行きたくなったのです。

斜め前に飛び出したその時、後ろから来たトラックが顔をかすめて行きました。もう10cm顔が出ていたら頭から跳ね飛ばされていたでしょう。それぐらい近い距離でトラックが顔をかすめた時、瞬時に体が硬直して私はその場に立ち尽くしていました。

トラックは私の前を通り過ぎてすぐに止まりました。

この場から逃げないとトラックの運転手に怒られる。でも自分が悪いのだから逃げるのは良くない。だからと言ってどうしていいか分かりません。私はその状況で頭が混乱して立ったままでいました。

 

すぐに降りてくるはずのトラックの怖い運転手は中々現われません。

「どうしたんだろう。」でも頭の混乱している自分は動くこともできません。

随分時間が経ってから、やっと運転手がトラックの後ろの荷台の向こうから現われました。

その運転手は私のイメージしていた背の高い怖い顔の運転手ではありませんでした。

背はむしろ低く、年齢は40歳くらいで帽子を被っていて顔も優しい感じでした。その運転手は私に向かってゆっくりと言いました。

「ボク、大丈夫だね。何もなっていないね。」

私はとっさに何度か頷いたのだと思います。

それを見た運転手はホッとした表情をして運転席に戻り、そのままトラックは走り去りました。

 

自分は悪い事をした。だけど、怒られなかった。

私はまだ、頭の中が整理できていませんでしたが、幼稚園に行く途中であったことを思い出して、幼稚園に向かって歩き出しました。

 

後になって、その時のことを自分なりに整理したところ、こうなりました。

私が飛び出した瞬間、トラックの運転手は急ブレーキをかけたのですが、間に合わず子供を轢いてしまったと思い、運転席でうずくまっていたのでしょう。しばらくして状況を確認しようとして、左のサイドミラーを見ると私が立ってままでいるのに気付いた。これは子供は轢いていないのではと思い、運転席を降りて私の前に現われ、言葉をかけた。私が普通にうなづいているのを見て、これは大丈夫だと思い、安心してその場を離れた。

 

このことがあってから私は飛び出しをしなくなりました。

見通しの効かない道路で見知らぬ人が飛び出して跳ねられそうになっていても、私は車のエンジン音に気付いて飛び出しませんでした。

誰よりも慎重に十分な車間がないと道路は横断しないようになったのです。